イベントレポート

MUJI is Enough

無印良品とは?

2015年10月15日、数多くのデザインを愛する人たちが「無印良品」という日本のブランドについて知るべく、 またその新たな旗艦店の開店を祝うためタイムズセンターに集まりました。
11月に開店予定のMUJI Fifth Avenueは、グランドセントラル駅から目と鼻の先、 ブライアントパークにあるニューヨーク公共図書館の向かいにあたる5番街と41丁目の交差点という町の中心地に位置します。

MUJI USAの社長 嶋崎朝子は、開会の挨拶で「MUJI U.S.Aの旗艦店開店に先立ち、皆様には是非『MUJI』についてもっと知っていただきたい」と、無印良品の誕生から今日に至るまでの話を行ないました。

MUJI USA 社長 嶋崎朝子からのごあいさつの内容は以下の通りです。 MUJIは1980年に日本で誕生しました。その名の由来には、『無名だけれど、高品質の商品』という意味があります。当初、食品や日用品を中心に40品目のみであった商品群は、現在、家具や生活雑貨、 壁掛式CDプレーヤーなど特徴的なデザインを持つ商品が7000以上になりました。ニューヨークには、2007年、SOHO地区に一号店をオープン。そしてこのたび、 5番街にNYで5番目の出店となるMUJI Fifth Avenue が11月20日、無印良品の最新アイデアと商品を展開する店舗としてオープンします。 厳選された書籍や子供服など、米国ではここだけしか手に入らない商品をはじめ、店頭でカスタマイズできる商品やご希望に合わせた刺繍など特別なサービスも提供いたします。

嶋崎のあいさつに引き続き、無印良品アドバイザリーボードであり、世界的なプロダクトデザイナーでもある深澤直人氏が基調講演を行ないました。 講演に先立ち、ニューヨーク近代美術館の建築・デザイン部門のシニアキュレーターで研究開発担当理事のパオラ・アントネッリ氏が、深澤氏の活動について来場者に紹介を行いました。 パオラ氏は深澤氏がサンフランシスコの「ID2(後のデザイン事務所『IDEO』」において、 相互作用デザインのパイオニアであるビル・モグリッジ氏のもとで働いていた20年以上前からの友人でもあります。

1996年、両氏は最初の共同プロジェクトに取り組みました。当時、深澤氏はIDEOの東京事務所開設に向けて日本に帰国していましたが、 アントネッリ氏は未来の職場を思案する製品を設計するよう深澤氏に依頼しました。「わたしが直人さんに考えてもらったのは事務所のパーティションの中から出られなかったらどうするか、 というものでした。彼は事務所における個性について9つのアイデアを出してくれました。そのうちの2つは、ニューヨーク近代美術館のプロトタイプとなりました。」 世界中の空を表示する有機ELディスプレイ、さらに座る人の「魂」をとらえる椅子という2つの初期プロジェクトには、深澤氏の初期のデザイン理念を垣間見ることができます。

講演の冒頭、深澤氏は「わたしと無印良品の関係は必然的なものと言えます。デザインの発想がわたしと無印良品ではよく似ているからです」と述べています。講演の主題は「MUJI is enough」というもの。 風変わりなタイトルですが、その概念は無印良品のブランドと深澤氏のデザイナーとしての理念を語るものです。無印良品では日常生活の細部を見つめて商品を開発するよう努めています。 つまり、特定の商品を探すお客様が必ずしも無印良品から買うつもりがなかったとしても、無印良品のものが「ちょうどいい」と思っていただけるものを目指すのです。 この「ちょうどいい」という概念こそが、お客様にぴったりの幸福感を提供するのです。

WITHOUT THOUGHT(考えることなく)

2002年に深澤氏がデザインした無印良品の壁掛式CDプレーヤーは、良い例です。深澤氏は「この製品は単なるモノではありません。製品設計の特徴ともいえるこのカバーなしのCDプレーヤーは、ミニマリストな形状を持ちつつも直感的に操作できるものです。 年代物の台所換気扇がもつノスタルジックな引き紐を模倣したコードを引くことで、CDが回り、内蔵スピーカーから音楽が流れ出します。モノが我々の行動に溶け込んでいるのです」と述べています。

モノの機能性が人間の行動に溶け込むという概念こそが「Without Thought(考えることなく)」というフレーズに集約されており、深澤氏のチームが主催する数多くのデザインワークショップで探求されてきました。 つまり、人間の行動こそがデザインをリードすべきである、という概念を基盤として築き上げられているのです。思考のためのモノをデザインすることにとらわれるのではなく、身体のため、また深澤氏が「潜在意識の行動」と呼ぶものに向けてモノをデザインするのです。 深澤氏が例として挙げるのは傘立てのデザインです。壁の前の床面に溝があるのを見たなら、人は自然に傘の先を溝にはめ込み傘を壁に立てかけるものです。それで、モノをデザインするときには、傘立てとしてデザインするのではなく、床面のくぼみとしてデザインできるでしょう。 人は考えることなく、くぼみを活用するのです。深澤氏はそれを「機能的に正解で、目的を果たしている」と説明します。

「ちょうどいい」

無印良品の設計に関するもう一つの基本方針は、日常生活に最適なものを作る、というものです。「ちょうどいい」から心地良い。「ちょうどいい」から楽しい。この無印良品の取り組みを示す一つの例は、脚付マットレスです。 「これはベッドとは呼びません。マットの下に脚をつけているだけなので、ベッドは要らないのです。」無印良品の商品はすべて、この率直でミニマリストな、ちょうどいいやり方を発信しています。 無印良品では商品を行き過ぎた社会に対して釣り合いをもたらすものとしてとらえています。大きさも、フィット感も、素材も適切で調和をもたらす商品、つまり「ちょうどいい」のです。「ちょうどいい」という理念をふくらませると、 コンパクトな生活という概念につながります。無印良品のモジュールが統一され汎用性のある収納用品は、この理念を如実に表わす素晴らしい例といえます。お客様のニーズがどんなものであったとしても、これら収納用品は生活の背景で活きるモノとなってくれます。

必要最小限の中にある豊かさ

日常の行動ができることは生活に安定感と幸福をもたらします。「MUJI to GO」シリーズの旅行小物は、それを実現します。毎日の生活から抜け出すときでも、シンプルな習慣を続けられることが幸せにつながるのです。 毎日使うモノ(ハンガー、美容用品、ランドリー小物)の簡略版は、慣れ親しんだ場所を離れていても心地よさをもたらしてくれるのです。

この理念は無印良品の素材への取り組み方にも現われています。天然素材を多くの商品に用い、過剰な色を使わない。バラの茎、ココナッツの殻、また木製家具の端材から採られた天然染料が、繊維に独特の色合いを与えるタオルなどは良い例です。 最近無印良品が携わった3件のプロジェクトは、これらの基本理念を際立たせています。

成田国際空港第3ターミナル

成田国際空港第3ターミナルは、この地域の数多くの格安航空会社の本拠地となっています。このターミナルは待ち時間を快適に過ごすことを目的としたものであるため、快適性が特に重要な検討事項でした。そのため、無印良品では脚付マットレスを改造し、背もたれを装着することにより椅子を作成しました。 人々は長距離を移動したり、空港で夜を過ごしたりする必要があるため、この改造品はベッドとソファの間となる多機能製品として多目的なニーズに対応しています。

キッチン家電商品

無印良品の家電商品は、やさしく、シンプルで、考えることなく使える幅広い無印良品の商品群の一部をなすものです。トースターの丸みを帯びたボディは、無印良品のアロマディフューザーや家庭用品にマッチする、温かくやさしい形状を演出します。 炊飯器は天面に突起がついていますが、これが自然な形のしゃもじ置きであることは使ってみるまで誰も気づかないことでしょう。この天面としゃもじ置きこそ、この炊飯器が、エレガントで考えることなく使える無印良品の商品であることの証です。

Found MUJI

深澤氏が旅行すると、多くの興味深い日用品に遭遇します。作者不明のデザインはありふれたものですが、何でもない日用品の中に美を見いだすにはデザイナーの審美眼が欠かせません。中国を旅行中に、深澤氏は無印良品のブランドにとって「ちょうどいい」製品を収集しはじめました。 金物屋さんや茶室、路上にいたるまで、深澤氏は発想の源となる興味深い商品や素材を探しだし、製造パートナーを見いだす方法を見つけました。

北京のどこにでもあるプラスチック製スツールが、無印良品が工夫することによりグレーの製品になりました。韓国の白磁の器、リトアニアの編みカゴ、中国の革の切れ端を使ったノートなど、すべて元来のメーカーが日本の規準で生産し、無印良品の商品群に仲間入りしたものです。

無印良品の価値を知る一つの方法は、次のように自問することです。無印良品がなかったら、どうだろう?講演の最後の部分で、深澤氏は自身の無印良品における最初のプロジェクトの一つである壁掛式CDプレーヤーに話を戻し、無印良品の価値について聴衆に説明しました。 「ただのCDプレーヤーですが、音楽を聴こうとスイッチを引っ張るとき、一瞬集中して幸せを感じることができます。この製品は幸せとは何かを知る機会を与えてくれるのです」。