- 水や空気のように。
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洗濯された布が、ふりそそぐ太陽の光を浴び、風にそよぎながら乾いていく光景は、誰もが記憶の中に宿している暮らしの原風景かもしれません。天然繊維から糸を紡ぎ、布を織る知恵と技術を生み出して以来、人々は布を大切に扱い、洗っては干し、洗っては干して、使い込んできました。濡れた布が太陽の光を浴び、空気と触れ合って、おひさまの匂いがするほどに乾いていく様子には心やすまるものがあります。無印良品はそんな風景を探して、世界を旅しました。洗濯物を屋外に干す営みは、決して技術の遅れや貧しさを感じさせるものではありません。今日、都市においては、こうした景色を見ることが少なくなってきましたが、むしろ、都市において失われつつある、おおらかさや質実さ、謙虚さ、そして人と自然のつながりを思い起こさせてくれる情景です。無印良品は1980年に誕生しました。日本がバブル景気に沸き立っていた時代に、質素でありながら豪華に引け目を感じず、質素であることがむしろ誇らしくなるような生活美学を提唱してきました。過剰さに対して、ほどほどの心地よさという別の道筋を提案し始めたのです。以来、簡素簡潔な生活用品や家具、天然繊維を丁寧に用いた衣料、素材を吟味した食品、気持ちのいい住宅やホテル、そしてキャンプ場まで、生活美学の及ぶ範囲で独自の活動を続けてきました。 そして2025年、現代はどうでしょうか。経済はテクノロジーと融合し、利益を生み出す仕組みやマーケティングの精緻化により、市場は人々の無意識の領域にまで広がっています。先進国における出生率は低下を続け、高齢化はさらに進み、都市への人口集中も止まりません。地球の温暖化にも歯止めがかからず、海洋に沈むプラスチックは増え続け、猛暑や豪雨が日常のものになりつつあります。世界はまだ、過剰さに向かって加速し続けているように見えます。 こうした事実が周知されてきた今日、人々はどうしたらかつての自分たち、あるいは他の生物たちと同じような健全な生のバランスを取り戻せるかを考え始めています。エネルギーを自然から取り出す効率を最大化すること、そして資源の循環を丁寧に行うことで、持続可能な生活を未来に向けて担保することなどです。問題の多い世の中ですが、課題が見えていれば、そこに解決の糸口を見つけていくのも人間です。産業革命以降のわずか200年で、約4倍に膨らんだ世界の人口や、資源やエネルギーの消費の過剰さを前にして、人々は少なからず良心の呵責を感じ始めているはずです。このままではいけないと、気づき始めている人も多いはずです。消費社会へのアンチテーゼとして生まれてきた無印良品ですから、成長の余地や市場があるとするなら、それは、こうした人々の共感の広がりの中に見出されなくてはなりません。
国内外に1000店舗を超えて広がるようになった無印良品ですが、その一店舗一店舗には、考える店長や行動するスタッフがいます。社員一人一人が、規定の業務をこなす従業員の立場ではなく、無印良品の思想の実践者としてお客さまや地域に向き合い、その地になくてはならない機能の一環としての店舗のあり方を考え始めています。資源のリユースやリサイクルに全方位で向き合う「ReMUJI」の活動や、再生ポリプロピレンへの積極転換、そして古民家などの宿泊施設への転用「MUJI BASE」は、そうした近年の無印良品の活動の一端です。
安いばかりではない。商品の開発や提供だけでもない。都市においても地域においても、無印良品は人々の暮らしの目に見えない拠り所になりたいと考えています。時代がどんなに変わっても、人間の幸せや暮らしの基本は変わりません。
「水や空気のように。」という言葉は、暮らしの基本を支え続ける無印良品の意志の表明です。干された洗濯物に、自然に落ちかかる日差しや、それをそよがせる風のように、暮らしの基本を、ぶれず、たゆまず、支え続けます。
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独特な街の風貌を持つ、地中海の風が吹き渡るギリシャの小島。白く光る斜面に建つ家々に、鮮やかに塗られた窓や扉。ひるがえる洗いたての布に、遠くにのぞく青い海。白が強い日差しを映し返し、空気までが照らされ、透き通っています。