新百合丘オーパ

【新百合丘オーパ】お米をつくろう!イベント報告

メイン

イベント・地域情報/地域情報

2020/01/21

都心から一番近い里山、寺家ふるさと村での自然農法による米づくり
「NPO法人農に学ぶ環境教育ネットワーク」での2020年度の米つくり説明会が、1月11日(土)10:00~11:00にCafé&Meal MUJI 新百合丘オーパで行われ、18名の方がご参加されました。
説明会1
米1
1年間の作業の流れや米つくり醍醐味など、スライド付きで参加者でご説明しました。また厳しい自然を乗り越えて収穫された2019年収穫米もご賞味いただきました。

「寺家ふるさと村」(以降、寺家)は、都心から約30分、横浜市と町田市にまたがる一帯は、今も自然豊かな里山が残っています。初夏にはホタルが舞い、秋には黄金色に輝く稲穂がなびく寺家は、四季折々の田園風景を求めて訪れる人々が絶えません。この環境に魅了され職住の拠点を構える人も多く、界隈には景観に溶け込むようにしてお店や工房が点在しています。
寺家スタジオ2
「ともすれば住宅地か商業地として開発されてしまう都心近郊で、この田園風景が残っているのは希少ですよね。都会の喧騒ではなくこうした環境に身を置くと、余計な情報に邪魔されずに頭が冴えわたる気がするんです。」この地にアトリエを構えるオーナーの一人は、寺家の魅力をそう語ります。
 
横浜市が定める「寺家ふるさと村憲章」にはこう記されています。
 
  自然や農業は私たちにとって宝物だ。
  遠い昔からこの土地はすべての生命をいつくしみ、
  重んじていくことの素晴らしさが根付いている。
  人も同じ生き物だから思いやりとやさしい気持ちを忘れずにいたい。

憲章に記されている通り、この環境は稲作を中心とした農業によって守られてきました。しかし、農家の高齢化と担い手不足によって、休耕田が散見されるようになってきているのも事実です。
 
「それなら私にやらせてくれませんか?と地主さんに直談判して、米づくりを始めさせてもらったんです。」そう話すのは、この地で農薬も肥料も使わずに自然農法で農業に勤しむ木村広夫さん(62歳)。今から30年以上前、九州でグラフィックデザイナーをしていた木村さんでしたが、湧き上がる創作意欲を表現する術を学ぶべく、上京した際、この環境に引き寄せられるようにして移り住んできました。
木村さん1
「母親が住んでいた熊本県の阿蘇と、寺家の光景がシンクロしたんです。一瞬でこの環境を気に入ってしまいましたね。以来、ずっとここで農的な暮らしを営んでいます。」

一時は農家になろうと新規就農を目指した木村さんでしたが、県から勧められたのは別の市区町村の農地。農家として食べていくには敷地面積が小さすぎる、という理由からでした。この土地に魅了され、この土地でないと意味がないと感じていた木村さんは別の道を模索。そして、地域の人に農から自然の摂理を学んでもらうための体験を提供するNPO法人として活動をスタートしたのです。
 
「農的な暮らしをしていると、様々なことを自然が教えてくれます。自然に逆らえないこと。一方できちんと手を加えてあげれば、生き生きと作物が育つこと。農を学ぶのではなく、“農に”学んで欲しいんです。」
 
「NPO法人農に学ぶ環境教育ネットワーク」という名前には、そんな想いが込められていました。実際に、木村さんは地域の幼稚園や小・中学校、フリースクールやファミリーなど門戸広く受け入れ、農的な体験を提供することで、自然の摂理について学んでいってもらっています。
 
その一つに、一年を通しての米づくりがあります。一枚の田んぼをグループごとに担当して、田植えや稲刈りのみならず、田起こしから種まき、除草に至るまで、稲作にまつわる一連の作業を協力して行う体験です。
 
米づくりの作業は、寒空の残る2月頃からスタート。収穫後、そのまま寝かされている田んぼの土を天地返しして陽に当てるための「田起こし」から始まります。
田起こし1
寒い冬の間に固まる土を、同じく凝り固まった自身の筋肉をほぐしながら、クワで起こしていきます。機械を使えば簡単な作業かもしれませんが、ここではすべてが手作業。自身の手足の感覚をフル稼働させて、固さの残る土をくまなくほぐしていきます。
 
4月上旬、暖かくなる頃に行うのが「種まき」。前年度に収穫したお米を籾種用に残しておき、発芽させ苗床をつくり撒くのです。
米2
 「ここのお米は “栄光”という、自然農法に向いている品種を育てています。もう何代にも渡って種を取り、育てているので、自然とこの土地に定着した固定種になりつつあります。」そう木村さんが話すように、通常、籾種や苗は購入して植えることが一般的ですが、ここでは種を残し、また翌年植えるという、種の循環を図っています。
 
そして、苗を育てながら、田んぼに水を溜めるための「クロ切り」や「クロ塗り」、田んぼ内の土を平地にならしていく作業「代かき」を経て、ようやく「田植え」にこぎつけるのです。
作業1
「田植えや稲刈りイベントには参加したことがありましたが、そこに至るには農家さんがお膳立てしてくれていたことを初めて知りました。それまでの過程がどれだけ大変で大切かを痛感させられています。」参加者の一人がそう話す通り、ここでは田んぼごとにグループが責任を持って、お米づくりにまつわる一連の作業を行っていきます。木村さんの役割は、あくまでも“農作業の急所”を作業前に説くこと。なぜその作業を行うのかを理解してもらって、あとはグループごとに話し合い協力しながら進めていくのです。すると、
作業
はじめはただのグループだったのが、やがてチームとなり、徐々にチーム内に絆が生まれていくことに気付くといいます。
 
「はじめは皆、米を作ってやるという気概で参加されるんですが、台風でなぎ倒されたり、稲霊(いなだま)が大量発生したりと、毎年変わる気候に思うようにいかないことも多々あります。こうした過酷な自然のもとだと、自ずと人と人とが協力し合って一致団結する。人と人とが出会い、協力して事を成していく様を見ると、NPOでこうした形でやってきて良かったと思えるんですよね。」そんな木村さんの言葉にもあるように、“農に”学びながら、人と人とが団結して事を成していくことこそが、寺家の米づくりの醍醐味だと、参加者は口を揃えて話します。
田植え
田植え
2019年度は、過去最強クラスの台風の襲来や、稲霊(いなだま)の発生に見舞われ、収量としては大きく落ち込んだ年となったようですが、「思うようにいかないことも自然」と木村さんは言います。自然には逆らえないということを、米づくりを通じて教えられます。どうすれば上手くいくか、毎年、試行錯誤の連続です。私自身もいまだに“農に”学んでいます。

▼寺家ふるさと村へのアクセス▼
小田急線「新百合ヶ丘」駅から車で約15分
小田急線「柿生」駅からバスで約15分
東急田園都市線「青葉台」駅からバスで約12分

▼執筆・撮影
プロフィール1
株式会社くらしさ 長谷川 浩史&梨紗
広告出版社を退職後、世界一周の旅へ。
海外で受け入れられている日本文化≒COOL JAPANと、日本が学ぶべき海外の文化≒BOOM JAPANを発信しながら40ヵ国を巡る。その後日本一周の旅へ。MUJIキャラバンで全国各地に根ざしたモノコトヒトを取材・発信する。現在では、(株)くらしさを起ち上げ、日本各地の「らしさ」を伝え、つないでいく活動に尽力している。
世界一周HP:www.cool-boom.jp
日本一周HP:https://www.muji.net/lab/blog/caravan/
くらしさHP:www.kurashisa.co.jp

← 前の記事へ

次の記事へ→

← 前の記事へ

次の記事へ→