2022年9月2日(金)から開催していたモリソン小林さんの作品展“北アルプス”は、本日をもって閉幕いたします。
作品についてお話しを伺っていたので、すこしご紹介いたします。以下、作品に添えられている文章は、モリソンさんからいただいたご説明です。
【大白髭草 / オオシラヒゲソウ】
学名 Parnassia foliosa Hook. fil. et Thoms var. japonica Ohwi
科名・属名 ユキノシタ科ウメバチソウ属
分布域 東北から本州中部の日本海側に分布
生息地 亜高山帯の林縁や湿った草地、岩上に自生
作品サイズ A4 H282×W201×D44mm / 1.7kg
福島や新潟、長野では自生地が多いですが、他の地域ではなかなか確認できない希少な日本固有種になります。
夏の終わり頃に咲く花で、ちょうど今頃見られると思います。花以外はウメバチソウに良く似ています。あまり陽の当たらない窪地に4、5株くらいでひっそりと咲いていました。
ほとんどの植物が咲き終わった晩夏から、黄金色に染まる草紅葉の間の閑散期は、どこの山も静かな山歩きが楽しめますが、こうしたシラヒゲソウのような希少種を巡るための、頂上を目指さない山歩きはとても楽しいです。
【細葉姫沙参 / ホンバヒメシャジン】
学名 Adenophora nikoensis Fr. et Sav. forma linearifolia Tak.
科名・属名 キキョウ科ツリガネニンジン属
分布域 東北から本州中部に分布
生息域 亜高山帯から高山帯の岩の隙間やガレ地に自生
作品サイズ A3 H399×W282×D44 / 2.9kg
僕はこのツリガネニンジンのシャジンという花が好きです。
南アルプス鳳凰山のホウオウシャジン、南九州のツクシイワシャジン、四国のヒナシャジン、中国のヤチシャジンなどなど、絶滅危惧種が多い種のひとつであります。この種は絶滅危惧種に指定されてはいませんが、大変希少な日本固有種になります。
小さな紫色の鐘のような花冠。すごくかわいいと思いませんか。
朝方の少し逆光気味の夏の陽射しに揺れる紫の小さな鐘たち。多感な虫たちも次々に吸い寄せられていきます。
虫たちの重みで穂先は垂れ下がり、風のそよぎとともにかすかな音色を奏でるようです。それはとても平凡な、高山での営みでした。
【深山赤花 / ミヤマアカバナ】
SOLD
学名 Epilobium hornemanni Reichb var. foucaudianum Hara
科名・属名 アカバナ科アカバナ属
分布域 北海道から本州中部に分布
生息域 亜高山帯から高山帯の湿った草地や礫地に自生
作品サイズ A4S H282×W282×D44 / 2.2kg
アカバナは高山帯で見られる花の中で、稀な種のひとつかと思われます。普通に登山道を歩いていたら、見過ごしてしまいがちな種なのではないでしょうか。
花が1cmと小さいことも、影響しているかもしれませんが、じっと見られることを嫌っているのか、なるべく目立たず控えめにしているように見えます。
短い夏の高山でしか出会えない可憐な花のひとつです。
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最終日に際して、モリソン小林さんに気になっていたことをいくつか質問をさせていただきました。
●何度も同じ山域を歩くことで、どのような自然の変化に気が付くようになりましたか
-自然は尊いですが、平凡でもあります。平凡だからこそ非凡に出合うことができます。この感覚を忘れないようにしたいと思っています。
●10年制作を続けてこられましたが、これから先で新しいテーマに取り掛かろうとされていますね。“高山植物の制作はやり切った”という体感はございますか。
-続けたいテーマと思いますが、金属彫刻では限界があり、作れる種は多くはありません。特に小さくて細かい種は制作が難しいです。
この高山植物をはじめとする全身標本作品は、私の力不足で工程が多くなってしまいました。制作数を絞っていく必要に迫られているのが、テーマを変えるべき一番の理由だと思います。
●制作を始めたばかりの頃と今とで変わったこと、はありましたか
。
-植物たちは地中に拡げられたネットワークによって、自然の中で共生していく術を得ています。私は自然への関わり方や距離感だけではなく、社会でのつながりなど、多くのことを学び、彼らが度々放つ不思議な感性に触れることができました。
モリソン小林さんは、これから先で新たなステージへ進んでいきそうな気配があります。そんなモリソンさんから作品のご紹介に加えて、メッセージをいただきました。
【白山風露 / ハクサンフウロ】
学名 Geranium yesoense Franch et Sav. var. nipponicum Nakai
科・属 フウロソウ科フウロソウ属
生息域 東北から本州中部に分布。
作品サイズ W399×H399×D44mm 3.7kg
高山帯の雪渓周辺の草地や礫地に自生する日本固有種になります。北アルプスでは白馬岳や双六岳、涸沢カールなどに多くの株が見られます。
10月を迎え高山への登山シーズンは最終盤となりました。花の季節を終え、山は色づき涸沢が色とりどりのテントで埋め尽くされる錦繍の秋が来ています。
登山による実地観察を始めて10年が経過しました。
田淵行男さんが作品のテーマとして10年かけてようやく見えるものがあると述べておられましたが、私は未熟で曖昧なままで、確かなものは何も得られませんでした。高山植物にとどまらず、絶滅危惧種を見るためには探検隊のような厳しい山行を重ねなければならず、元来の出不精には荒行のようでした。
加えて金属彫刻では華奢な植物を制作するには限界があり、心が折れ曲がり続けましたが、限られた自生地で風雪に耐えながら毎年輝くように咲く花たちに会いに行く度に、心が浄化され、なんとか踏み止まり、作品と向き合うことができました。
今回の展示では今後のテーマについてのアンケートをお願いしました。金属植物作品はかれこれ15年、高山植物をテーマにした全身標本作品は10年となり、次のテーマにつなげられる何かを得たいという他力本願です。ご協力くださいました皆さまありがとうございました。拝見するのが楽しみです。
長きに渡る活動の果てに、これから先のモリソンさんはどんなものを制作発表されていくのでしょう。今からとても楽しみな気持ちになるメッセージでした。
<お店への行き方>
○場所
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京 B1F スクエアゼロエリア 48番
①丸の内地下中央口から
改札入場後、銀の鈴待ち合わせ場所方面に直進。左手のはせがわ酒店を越えたら左折して直進。ピエール・エルメ隣。
②グランスタ地下北口から
八重洲・丸の内連結通路途中のグランスタ地下北口から入場し直進。右手のガトーフェスタ・ハラダをこえて左手。
