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【IDÉE TOKYO】アーティストインタビュー / 瀬戸優(彫刻家)

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2023/05/19

今回のインタビューは彫刻家・瀬戸優さん。2023年5月19日(金)から始まる個展“AGING GRAVITY”開催に際して、現在のように活動されるようになったきっかけや今回の展示会で発表されている作品について伺います。

―瀬戸さんの作品は粘土で制作されているんですね。

僕はテラコッタ彫刻といって粘土を素材としていますが、他にも彫刻の素材には石や金属、木などがあります。これら粘土を含めて彫刻の4大素材をすべて大学で触ります。

入学後、最初の2年間をかけて実習して、どの素材で制作するかを選んでいきます。僕も大学1年生のころから石、金属、木、土、すべての素材で動物を作ってきました。

その中でも粘土、つまりテラコッタ彫刻は、動物のもつ柔らかさを出すのに一番向いていました。

木や石は「削る」というマイナスの作業で作り、粘土と金属は「足す」という作業なんですが、「足す」という作業は動物をつくるときに理にかなっています。

骨組を作り、次に筋肉、そして皮をつけて、その上に毛並みを足していくプロセスは、特に哺乳類を制作することに最適です。僕の作品の特徴は毛並みの表情だなと思っているので、そういうディテールを作りあげていくのにしっくりくるのが粘土です。

 
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(DMのビジュアルになっている作品はハヌマンラングール。顔面と四肢の甲だけ黒い皮膚が露出しており、インドやパキスタン、中国、ネパールなどに生息する。)


―「削る」というマイナスの作業はしっくりこなかったのですね
そうですね、あと時間がとてもかかります。作家には、ひとつの作品に対してかける心地よい制作時間というのがあります。だから制作している作家の精神状態とアウトプットのスピードが一致する素材であるというのも、素材選びの上では重要です。

僕は思いついたものをすぐ形にしたいタイプなので、即興的で瞬発力があることを大事にしています。その点、粘土はほかの素材と比べて形になるのが早いのです。

木彫で3日かかるものを粘土だったら1日で作ることも可能です。そして、その瞬発力や造形の勢いは作品の持つ生命感に繋がると思っています。
 
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(制作中の作品を見せていただいた。これは乾燥中の状態。粘土を素材とするため、しっかり乾燥させないと窯で焼いたときに爆発する可能性がある。左脚が白いのは乾燥が進んでいる証拠。)


 
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(内部は中空になっているので、見た目よりも軽さがある。)


 
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(瀬戸さんの作品の特徴に、生きているような目の輝きを放つ玉眼がある。玉眼を入れるため頭部は切り離して焼成する。左前脚は別に乾燥させている。)


 
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(左手前の作業台が玉眼を彩色する場所。右手には瀬戸さんの奥様であり、ガラス作家・及川春菜さんの作業場がある。その右奥にあるのが瀬戸さんのガス窯。)


 
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(大人一人が丸ごと入ってしまうほど大きな窯。この窯で作品を焼いている。)

 
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(アクリル絵具と金・銀箔を使って玉眼を制作されている。)

 
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(はじめに瞳孔を塗り、それから金・銀の箔をつけて虹彩を作る)

―野生動物をモチーフとされるのはなぜでしょうか?

普段触れないものでも触ることができるのが彫刻の魅力のひとつです。普通なら間近で見ることのできない野生動物でも、実寸大の彫刻だったら大きさや空気感を目の前に感じることができます。

なので、見慣れているペットをモチーフにして作ることをしていません。あくまで自然の循環のなかに生きる動物を作ります。

―野生動物と出会ったときの体感に近いものを作品で表現されていますね。瀬戸さん自身の中に野生動物と出会った体験があって、それを表現されようとしているのかなと思いました。

実はそこは逆でして、野生動物と出会いたくて作っています。情報を元に測りながら作ったけど、この情報正しいのかなと疑問に思うほどの大きさなんですよ。

数字での情報よりも実物にしたときのほうが大きくて、野生動物の存在感を体感して感動します。そういう「実物と会ったらこういう感じなのかな」と創造を膨らませられるのが楽しいです。
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(今回の展示会で出品いただく作品たち。いずれも実寸大なので、思わず距離を取ってしまうほどの存在感。)

博物標本も博物館も小さいころから大好きなんですけど、作品が博物標本にならないように気を使っています。はく製との違いをつけるために作りこみすぎないようにしたり、毛並みに個性や絵の具のペインティングの表情をつけたりして、僕じゃないと作ることができない形を模索しています。

というのも、リアルになればなるほど誰が作ったのかわからなくなるんですよ。3Dスキャン、3Dプリンタの技術が上がっていて、本物の3Dデータから作れるようになってきたんです。本物そっくりに一般家庭でも作ることができてしまうから、現代美術の文脈において、僕にしかできない個性というのが大事になってきています。

―制作する野生動物を選ぶときの基準はなんでしょうか

展示会場の大きさですね。会場が決まっているところから作り始めるので、どれくらいのボリュームの作品を何点置いたらより美しく見えるかを重視して考えています。今回の展示会でも同じで、大きいのは最大でも3~4つくらい、80cmくらいまでが最大かなと考えて決めました。会場に合わせて作品のサイズを決めたら、動物のどこを切り取って作るかを決めます。動物の全身でもいいし、頭部だけを作ってもいい。あとは搬入経路ですね。通らない大きさのものは作りません。そういう現実的な部分で決めています。

―今回の展示会では台座のシリーズですね。ステートメントに“生き物のもつ時間軸を表現している”と書いてありますが、こちらについても教えていいただきたいです。

作品の表層だけの深みだけじゃなくて、生き物が生きてきた厚みをどうにか表現したいなと思っています。野生で生きる動物たちには、自然のなかで時間をかけて変化していくことで積み重なっている魅力があります。それを表現するために作品を支える土台にも、生き物と同じく経年変化が起きたような彩色加工を施しています。彩色は屋外の経年変化したブロンズ彫刻や古い建築などをヒントにしています。

あと、彫刻作品は“どうやって自立させるか”の戦いです。ポーズによっては心棒を通さないといけなかったりします。例えば、大学院の修了制作のときのキタシロサイの作品は水面の水を飲んでいるイメージなんですが、自立させるために丸太の台に鉄パイプが刺さっています。



 
キタシロサイ

(大学院修了制作作品 水月 - キタシロサイ -)

鳥だと脚よりも尾羽のほうが長いので、尾羽よりも大きな台に乗せないといけません。今回の作品はすべて台がないと自立しないものばかりです。

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(彫刻作品の完成度は台によっても大きく変わる。瀬戸さんは“台と作品の兼ね合いは一生のテーマ”と語る)
 

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(経年変化したブロンズのような土台だが、こちらも粘土で作られている。)

 
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(焼成を終えて、彩色する前の状態。塗料を薄く何回も塗り重ねて乾燥させて完成する。)


 
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(左が彩色後、右が彩色前。)



―作るときにどのような資料を参考にされていますか?

写真よりも動画の方が重要です。写真はかっこいい角度ばかりで、真下や真上からの画がないんですよ。あとはフィギュアもよく使いますね。色んな動物のフィギュアを集めています。

 
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どういう場所に暮らしている動物なのか、個体数はどれくらいなのかを調べながら作ることを大切にしています。研究はしますが、研究するほど現実に即していくじゃないですか。すると最終的には本物を見ればいいとなってしまう。

会いに行ける野生動物として自分の彫刻作品があるので、研究対象としてのはく製ではなく作り物だけど生きているような、人の手で作られたことがわかることが重要です。


―今回の展示会でいちばん達成感が大きかったことはありますか?
個展前は忙しくて作品をちゃんと見られないので、展示空間がよくできたときのほうが大きな達成感につながります。あとは、無事に運べた!というのもありますね(笑)本当に運ぶのが大変なので。


―最後に、アーティストとして大切にしていることをお聞かせください。

僕の時には若くして彫刻だけで生計を立てられている人はほとんどいなかったので、これから彫刻家を目指す若い人のモデルケースになりたいです。

それと今、アシスタントを6名雇っているんですが、雇うようになってから制作に対する責任も変わってきましたし、作家力だけじゃなく経営者力も求められてきています。経営者としての視点をもって、この小さな会社を回していけるように精一杯がんばっています。

 
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【瀬戸優 AGING GRAVITY】
会期 2023年5月19日(金)〜6月6日(火)
場所 IDÉE TOKYO(JR東京駅改札内 グランスタ地下北口改札そば)
時間 10:00 – 21:00
在廊 5月19日(金)、20 日(土)

◆Instagram Live 5月19日(金)21:10〜◆
瀬戸さんをお招きし、@ideetokyo  にて配信。展示会の様子をお届けいたします。


お店への行き方はこちらの記事をご覧ください。
【IDÉE TOKYO】お店への行き方

<場所>
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京地下1階スクエアゼロエリア48番
最寄りの改札は「グランスタ地下北口改札」です。

<営業時間>
10:00 - 21:00
*変更となる場合がございます。最新情報はIDÉE TOKYO instagramをご覧ください。
instagram  @yu_seto1222 / @ideetokyo




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