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【みんなみの里】天日干し『手焼おかき 高梨』二代目が鴨川の太陽と引き出す、長狭米の“旨みと香り”

キービジュアル画像:天日干し『手焼おかき 高梨』二代目が鴨川の太陽と引き出す、長狭米の“旨みと香り”

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2018/05/28

 今日は『手焼おかき 高梨』が手掛ける、天日干しのおかきを紹介します。
 好天に恵まれることが多い鴨川の地で、地元・長狭の餅米を100%使い、昔ながらの天日干しにすることで、米の旨みを感じられる手焼きのおかきやあられをつくり続けてきました。
 献上米でも知られる米どころ長狭ならではの、おいしい米の力を最大限に引き出す手焼きおかきについて、二代目の高梨貴央さんにお話を伺いました。


――おかきに使う餅米には、鴨川で収穫される長狭米を使っていると聞きました。

「はい。長狭では品質の良い米がとれるので、いまは長狭の大山、吉保といったあたりの餅米を100%使っています。ここの米は分析したわけではないのですが、僕の中では糖度が高いと感じるもの。甘みが強いので、ついただけで、そのまま食べられるんです。お米の実力なんでしょうね。
 なので、厚焼きのおかきは食べれば食べるほど、お米の味がしっかりと分かるように、焼き加減を大切にしています。火を通しすぎると香ばしさは立つんですが、せっかくの米の甘みが生きないんです。
 うちのおかきはいま、陸稲(おかぼ)を入れていないんですよ」

――陸稲というと、田んぼではなく、畑で育てる米のことですね。

「ええ。陸稲は堅くて粘らないので、四角く成形しやすいことから、おかき業界では四割や五割は入れるのが常識です。うちでも2011年の東日本大震災前までは、茨城や群馬でつくられる陸稲の餅米を使っていました。
 それが震災の影響で、これまで使っていた陸稲が入ってこなくなったんです。
 そこでどうしようかというとき、ちょうど米の規制緩和で農家と直接取引できるようになった先駆けの時期でもあったことから直接、長狭の農家さんに頼んで、陸稲ではなく水稲で、餅米を全部つくってもらったんです」

――陸稲抜きのおかきづくりは、難しいんですか。

「そうですね。最初は角の立った形がうまくできなくて……四角いものはやはり陸稲が入っていないとやりにくいと言われます。
 でも、慣れてくると、なんとかなるんですね。
 陸稲は四角く成形しやすいんですが、値段も安いですし、味もあんまり旨くない。その点、100%水稲のおかきはおいしかったんです。自分で食べても違いましたから。
 田んぼの米のほうが金銭的にも高いんですけど、ないものはしょうがない(笑)。たまたまではないですが、陸稲が入ってこなくなってから水稲だけで餅をつくりはじめて、試行錯誤をしていくうちに、地元の餅米だけで、おかきがつくれるようになったんです」

――手作業ならではの、職人の技ですね。予期せぬことではあったと思いますが、転機になったのでしょうか。

「そうですね。おかきは羅臼昆布と鰹節でとった出汁入り醤油をつけて焼きますが、今はその醤油をつけずに焼いた、お米だけのおかきも売るようになりました。塩分を控えなければならないけれど食べたい、という方のためにつくり始めたのですが、そこで『味、ついてないですよ』って言うと、お客さまは『いや、味がある』と言ってくださる。お米の味なんでしょうね。
 また、長狭の水稲米に切り替えた一方で、添加物を入れるのもやめました。以前は化学調味料を使っていたんですが、時代の流れもあり、鰹節を仕入れている永井※のおじさんに相談して、『なにか化学調味料に代わる良いものはない? 鰹節が素晴らしいのはわかってるんだけど!』と聞いたりして。
 そこで『羅臼の昆布がいい』とアドバイスをもらったんです。日高や利尻の昆布はすまし汁のように上品な一方で、羅臼の昆布は良い意味できつくて濃く、醤油に入れても味がしっかりする。それで今は羅臼の昆布を直接醤油に入れて、一日置いて煮出しています。
 そんなふうに、父の代からやっていたことが、だんだんと今のように変わってきました。震災が転機でしたね」

――創業時代のノウハウをただ守り続けるだけでなく、変えてきたこともあったのだ、と……。ところで、おかきづくりの工程について教えてください。まず最初は、長狭の餅米を蒸かして、つくところから始まります。

「餅米は蒸す前に一日水に浸しますが、米は保存しているうちに水分量が少しずつ減ってくるので、お米の乾き方によって給水時間や蒸かす時間を調整します。新米といっても乾燥が進んでいることもありますから、その時の状態を見て、あとは勘、ですね。データで何パーセントとか、そういうのはわからないです(笑)。同じように仕上がって見えても、お米は炊いてみないとわからない。
 また、水を吸いやすいものとそうでないものは、餅のつきかたも変えています。餅米をつくのは、石の臼です」

――石の臼、ですか。

「はい。一般的には自動の機械でつくんでしょうが、僕は石の臼で、餅を手で触りながら水分量を決めているんです。この臼は壊れるものでもないので、もう40年くらい使っています。
 石の表面はザラザラなので、石臼だと餅の水を抜くことができます。『水抜き』と呼んでいますが、表面に水がついている餅同士を付けると生地が割れてしまうので、仕上げの工程で水分を抜くように餅をついて、お米の密度を濃くしていくんです」

――なるほど。そうしてできた餅を整えて薄く切り、いよいよ乾燥です。なぜ機械に頼らず、天日干しを始めたのでしょうか。

「深い意味はないんですよ。お店の創業から45年ほど経ちましたが、始めた当時はそういう時代でした。
 天日干しの良いところは、食べていると部屋中に米の香りが広がる……そんな“香りの良い”おかきに仕上がること。冷風乾燥では冷蔵庫の嫌な臭いが付いてしまうし、温風乾燥だとそのぶん米の匂いが飛んでしまう。
 だから、手間はかかってしまうんですが、天日干しにしています。……今日は天気が悪いので、出してないんですけれどね(笑)。
 このおかき屋を始めた僕の父も生前、食べていることがまわりに隠せず、バレてしまうような、そんな“香りの良い”おかきを目指している、と話していました」

――今日はあいにくの雨模様で、天日干しの光景が見られず残念ですが、こういったことも含めて、自然相手の作業には難しさがありますね。

「ええ。一番難しいのは天日干しの加減も含めた、生地のつくりかたです。干す生地の出し入れは僕がすべて管理していますが、機械で水分を測るようなことはやりたくないので、長年の勘で(笑)。乾かしすぎてしまうと、失敗ですね。
 じつは初日の天気によって、乾きかたが違うんです。たとえば、あまりに天気が良いと餅に太いひびが入るので、そういうときはやわらかめに焼くとか」

――入ったひびの状況で、焼きかたを変えるんですか。

「はい。あとは天日に出す前、冷蔵庫へ二日間入れるんですが、今日みたいに天気が悪いと天日には出せないから、もう一日長く入っている。そういうことでも乾き具合が変わります。冷蔵庫では水分が抜けてしまうので、仕上がりの固さも変わってくる。冷蔵庫に長く入っていると、やわらかくても、うまく焼けたりするんです。
 極端な話、ひびの入りかたと焼きかたの兼ね合いで毎回、食感の違うものができるんですね。お客さまにも、そういうものなんですって話します」

――自然の環境で乾かし、その出来を踏まえて手焼きすることが生み出す、手作業ならではの違いなんでしょうね。

「ええ。なので、このあいだと同じのをつくってくれと言われても、それだけは勘弁してくださいって(笑)。普通だったら、機械が数値で管理して同じものができて、ってことでしょうけれど、人がつくっているものですから。
 僕も最低、年間4回は失敗するんです……季節の変わり目は、気候がわからなくて(笑)。でも、干して割れてしまったものもおいしいですから、これはこれで焼いて、九助(割れ商品の詰め合わせ)にしています」

――機械で均一に乾燥することもできるだろうけれど、あえてそこはコントロールせずに、太陽の力で干すと。

「コントロールできない、ということもあるんですよ(笑)。ただ、天日干しのおかきは、たしかに少ないと思います。
 天日干しを続けている背景には、ここの気候が良いことも影響しているでしょうね。鴨川は自然災害が本当に少ないんです。川が氾濫したことも、お米が壊滅的な凶作になったことも、見たことがない。台風もたいてい逸れていきます。
 あとは海が近くて湿度が下がりすぎないから、干したものがパサパサになりすぎない。干物などもそうですね」

――鴨川の恵み、なのでしょうね。工程の話に戻ると、餅を天日で乾かしたら、いよいよ手焼きです。おかきは二段の窯で焼くのだとか。

「はい。下段は片面の弱い火で、ふわっと膨ませ、中まで火を通します。上段は両面の強い火で香ばしく焼いていきます。
 中をじっくり焼いていくことで、噛むたびにお米の味がするような、しっかりとした米の味がするおかきになるんです」

――加減を見ながら焼き網を操る姿に、職人の技を感じます。しかし、それにしても本当に、高梨さんのおかきは食べ飽きませんね。

「僕がこの仕事を始めたきっかけも、それなんです。家だといっぱい食べるんですが、何の仕事をしようかなと思ったとき、これは自分が食べ飽きなかったものだから、なんとかなるかなって(笑)。
 おかきは豪華なステーキのように、特別な日に『うまい!』と思って食べるものではないかもしれません。ですが、毎日食べるものなので、味付けも毎日食べていただけるように心がけています。あまりに醤油がとがっているような濃い味だと、刺激はあっても飽きちゃいますから」

――毎日のくらしに寄り添うような味、ですね。つくり手として、どういったときに達成感やうれしさを感じるのでしょうか。

「こどもにおいしいって言ってもらうのが、いちばんうれしいです。父もかつて、そう言っていました。大人になると、高い米を使っているからというような先入観が入ってしまうけれど、こどもは正直なので(笑)。
 あとは先ほども話しましたが、内緒では食べられないほどに良い香りがたつこと。甘いとかしょっぱいとかいう味覚には好みがありますけれど、良い香りは、みんなが良いと感じますからね」


※永井……永井鰹節店。鴨川に居を構える鰹節店で、みんなみの里でも乾物の取り扱いがあります

 

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