すずき農園を訪ねた1月中旬は辺り一面、雪に覆われた時期でした。
「一面覆われた雪によって、放射冷却が少なく、春先も霜が降りにくい。また雪がゆっくり解けていってくれることで、春先まで土が潤った状態が保たれるんです。折れないように枝の雪払いや剪定など大変ですが、雪には感謝しなくてはならないんですよね」
そう話すのはすずき農園の3代目、鈴木光隆(みつたか)さんです。
おじいさんの代から始められたというさくらんぼ栽培、当時は生食用ではなく、缶詰などの加工向けでした。
「父の代になって、“佐藤錦”が生まれたんです。そこから父親はさくらんぼ栽培に集中するようになりました」
美味しいさくらんぼをつくるには、とにかく愚直に一生懸命、栽培に精を出すことが大切といいます。冬の時期の雪払い、有機物を含んだ土づくり、風通しを良くする剪定、など等…。手を掛けた分、さくらんぼの実もそれに応えてくれるんだそうです。そんなすずき農園のさくらんぼは、品評会で表彰を受賞する常連となっています。
黄色に差す鮮やかな紅色が特徴で、甘味と酸味のバランスが絶妙な「佐藤錦」。生みの親は山形県東根市の佐藤栄助氏です。当時、缶詰によく用いられていた「ナポレオン」と、傷みやすいが味は良い「黄玉」を掛け合わせて作られた品種で、日本で初となる「生食用さくらんぼ」として世に送り出されます。以来、山形県をさくらんぼ王国へと躍進させ、100年以上に渡ってさくらんぼの最高峰として支持され続けてきました。
その後、佐藤錦に追い付け追い越せと、様々な品種が生み出されました。甘酸っぱく色の濃い「紅さやか」、ジューシーでさっぱりとした甘さが特徴の「南陽」、甘みが濃く今や不動の人気を誇る「紅秀峰」など。そして、2023年にデビューした期待の大型新人が、甘みが強く艶のある紅色が特徴で、500円玉超の大きさにもなる「やまがた紅王(山形C12号)」です。
「とてもおいしい品種なんですが、500円玉より大きくないと紅王を名乗れないんです。当然、それより小さいものもできるので、それらも味わって頂きたい」
鈴木さんは「すずき農園」としてさくらんぼ栽培を中心に手掛けつつも、「NEXT4」という次代の南陽市の農業を担うチームを100年以上続く農家4組で組織し、活動もしています。
「高齢化に伴い農業人口が減って、農地が空いてくるので、そこを担っていけるようにしておく準備です。100年続いてきたものを絶やさないように…」そう話す鈴木さんの目は、山形の南陽市の未来を見据えているようです。そんな鈴木さんのつくるさくらんぼには、山形の未来への想いも乗せられています。