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深澤直人Micro Consideration

私は、無印良品の中でプロダクトの開発とデザインに携わっています。今日はマイクロコンシダレーション―細やかな配慮をテーマに、MUJIの製品すべてが細かく生活に配慮したものであることを、皆さんと共有したいと思います。

キーワードのひとつとして、「MUJI is enough」という言葉があります。これは「MUJIでいい」という言葉です。例えば、「こういうものが欲しい」とイメージを持って、あちこちの店を歩いたけれども、欲しいものが見つからなかった。最後にMUJIの店に行ってみたら、「こんなものがあったんだ。思った通りのものがあった」という時に、「これでいいじゃないか」という思いを持つことです。MUJIとはどういう会社なのかとよく聞かれますが、実はMUJIで働いている人たちも、「MUJIがいったい何なのだろう」という情報をまとめたことがありませんでした。皆さんも、MUJIの人たちも「MUJIはやっぱりすごい会社だ、すごいブランドだ」という風に考えていると思いますが、それをビデオにしたので一緒に観たいと思います。見ていただくとわかるように、本当に細かな、生活のすべてに対してマイクロコンシダレーションがなされていると思います。

私がMUJIと関わってから、最初に作ったのがこのCDプレーヤーです。人間の生活というのは、すべてインテグレイト、つまり統一されている。ただのものではなく、「スイッチのヒモを引いて空気のように音が流れる」という、その全体を感じ取っている。その全体の中の配慮がMUJIを成しているという意味で、このCDプレーヤーは、その考えを端的に表しているものだと思います。

「Without Thought」という言葉は「思わず」という意味です。例えば、傘立てがないところで傘を立てようとする時、床の溝に傘の先端を合わせることがあります。だとしたら無印は傘立てを考えるのではなく、ただ溝を一本引けばいいかもしれないというところから、生活を考えようとします。MUJIは、思わずやってしまうことからものを考えはじめ、常に日常の生活の中で何が適正かを考えています。

人間はものを買い過ぎたり、食べ過ぎたりして後悔することがあります。ですから「Just Right」という、「程よい」ということが結局心地を成している。Just Rightとは、程よいことを見つけた時に、人間がとてもうれしく感じるということです。このフラッグシップストアがオープンして、皆さんが来て喜ぶということは、「この店舗がちょうどいいんだ」と伝わっていることだと思います。ぜひそのJust Rightを生活で探してください。無印はそうやって、ベッドを考えるのではなくてマットレスに脚をつけるとか、最低限の構造で棚を作るとか、使いやすいポリプロピレンボックスでものを整理しやすくするといったように、生活の中の行き過ぎに、常に調和するようにバランスをとっています。

ものを作るということは、空間の中に新しい輪郭、線を描くことだと思いますが、その線は、どちらから力が加わっても一番バランスが取れているべき真ん中の線です。MUJIはこの調和のとれた一本の線を引こうと、一丸となっています。もちろん大きさに対しても一番適正な大きさ、例えば足の太さやテーブルの程よい厚さなど、常に一番適正であること考えています。

加工や素材に関しても、一番加工しやすい方法や、適正な素材を選んでいます。これは名刺ケースです。できるだけ単純に、作りやすい方法にするということもMUJIの思想です。それが結果として、大きすぎず、非常にコンパクトなライフスタイルを提案することにつながります。ここで、Compact Lifeという、そのコンパクトな生活という意味で考え出した、全体のモジュールや生活感を見てみたいと思います。

この中には、最初はバラバラだった製品を、モジュール化するという活動があります。さらにこのCompact Lifeは、旅ということを中心に考えると、もっと簡潔に小さくまとまることができるので、「MUJI to GO」という活動を作りました。この中には本当に細かな配慮、マイクロコンシダレーションが詰まっています。

改めて全体を見ると、こんなに細かいことまで、みんなよく考えているなと思います。自分もものづくりに参加しながらも俯瞰して全体を見渡す機会がなかったので、ひとつひとつがまとまるとこんなにたくさんのマイクロコンシダレーションがあるということに、ちょっと感動して驚いています。

その中で一番好きなものは、旅に持っていくこのハンガーです。旅に持っていくためのこんな細かなものまで作っているということに驚かされます。「旅に行く」ということは、日常から離れたところに行って、サービスを受けたり何かをするということももちろん魅力ですが、日常をそのまますごくいい場所に持っていって、きれいな海や山が見えるところで自分の下着や靴下を洗濯するみたいなことも、結構幸せなのではないかと思います。MUJIが提案しているそういうことが、ここに表れている。

日常の生活がいかに幸せかということが、MUJIにとって一番重要なことなのです。一番ミニマムな、小さくまとまったサイズの生活というのが、このハードキャリーです。スーツケースの中に、皆さんの日常の生活の幸せが全部収まっているということがコンセプトです。日常の生活の平和とは同じことを毎回繰り返すということで、それが精神的安定を生み出しています。使ったら片づける。汚れたら洗う。増えすぎたら捨てる。迷ったら買わない。こういうことの繰り返しが、すごく平穏な心を保っている。最低限の豊かさというものが、それぞれの製品にあらわれていると思います。

「MUJIって一体、何がいいのですか?」「MUJIの価値って何ですか?」とよく聞かれます。なかなか答えが難しいので、「もしあなたの周りにMUJIがなかったら困るでしょ、どうしますか?」と聞き返すと、ああなるほど、MUJIがなかったら本当に困るなとなります。もし皆さんが引っ越しをして、そばにMUJIがなかったら、まず何をしていいかわからないでしょう。だけどMUJIがあると、とりあえずMUJIで最低限の生活を揃えようということができる。それによってMUJIの価値というものがすごくわかってもらえると思います。

MUJIの製品はいつも、足さないで、引くことから考えます。これは最近デザインした照明器具です。ごく普通の形をしていますが美しいです。時計もどこにでもありそうだけど、探すと意外とないようなものを作っています。MUJIは人が生活の主役であると考えていて、ものを主役にしようとしていません。主役である人を際立たせるための背景や、わき役になろうとしています。もうひとつは素材という大きな定義があります。洋服に使っているオーガニックコットンは、畑から綿を育てて製品にするという、一貫した流れで作られています。

「まんま」という言葉は昔から使われてきた言葉です。まんまの素材。そのままの味、味をつけない。ありのままの姿で着飾らずに装わない、ということで素材から洋服を開発しています。麻もその一つです。動物の毛もそのままの自然の色を使っている商品があります。もうひとつは、素材の色も、捨ててしまわれるような自然のものから染めたりもしています。例えばバラの芽。

これはヤシの殻から取りました。MUJIは家具も作っていますから、家具の端材から染めるということもあります。それらが全部、MUJIの素材の色を成しています。

MUJIは一般の生活者に対していろんなものを作っていますが、最近やった新しいプロジェクトのひとつは、成田空港です。東京の成田空港のローコストキャリアのためのターミナルの家具全体をデザインしました。MUJIというブランドの哲学が、ありとあらゆるところに生かせることのひとつの証になったと思います。

このローコストキャリアターミナルでは、みんなそこに泊まったり、朝早く来たりするから、普通の椅子のような使われ方ではなく、寝転んだりもするんですね。だからMUJIの脚付マットレスから発想した、新しいくつろぎの場を作ったというのが、基本的なコンセプトです。すごく安く作ったのに、メインのターミナルよりこっちのほうがいいじゃないかという意見がたくさんありました。

MUJIのキッチン家電もデザインしました。その形の考え方として、仮に一番左側に壁があり、一番右側に人間がいるとします。その一番左側の壁は四角くて、だんだん人間の身体に近づくにしたがって、ものは丸くなっていく。という概念を考えました。その通りに、製品の性格別にそのスケールの中にプロットして納めてみました。その定義のもと、どのくらい四角くしたらいいか、ちょっと丸くしたらいいかなどと考えながら、全体の形を決めていきました。だから冷蔵庫は壁に近い方ですごく四角いけど、少し柔らかくなっている部分がある。その形の必然性―inevitableということを考えながら全体の形をデザインすることが重要です。

この炊飯器は、蓋の部分に少し突起がありますが、これもマイクロコンシダレーションによって、MUJIだけがやっているものです。他の家電にはないこの形が、MUJIを好きになってくれている人とコミュニケーションができるディテールになります。MUJIの行為、MUJIのものは皆さんの生活の行為の中に溶け込んでいます。

このトースターの形はただ丸いだけでなくて、トーストの四角いコーナーからちょうどオフセットした形になっています。ただ柔らかいからということではなく、人間に近い形に寄っているということで、こういう形になっている。電気ケトルも、だんだん人間に近づくにしたがって、一番柔らかい形になりました。

これまでの産業は「家電産業」とか「雑貨の産業」という風に分かれていたのですが、無印の考え方のもとでは、カテゴリーが分かれていない。だから家電も、生活の他のものと一緒に混ざっていくという考え方のもとに、デザインしています。

最近、「MUJI HUT」―MUJIの小屋というちょっと面白いプロジェクトをやりました。これは、ずっと居るのではなくて週末だけとか、小さな土地にそんなに高くない小屋を建てて、そこだけで暮らすというような、短い時間だけを暮らすというミニマムライフを提案したものです。

私と、ジャスパー・モリソンさんというデザイナーと、コンスタンチン・グルチッチさんという3人で、それぞれ三様の違う小屋をデザインしました。小屋のいいところは、余計なものを全部作らなくていいと諦められるところです。これでも十分に幸せな週末が過ごせるように考え提案しました。

最後にFound MUJIという活動を紹介します。これは作るのではなくて、その地域の一番MUJIらしいものを探してくるという活動です。まず北京でやりました。

このグレーのレンガがとてもMUJIの色に合っているなと思います。アンティークマーケットで、宋の時代に作られた器を探しました。これはたぶん本物ではないけれど、いまだに景徳鎮で作られているから、宋の時代と同じ技術と粘土と焼く窯で作れるということがわかり、それをMUJIで生産したらどうかということになりました。皆さんが日常で見慣れたものも、MUJIというフィルターでよく見てみると、これはもしかするといいものだった、自分たちに親しいものだったかもしれないということが見えてきます。道具屋さんで探した、重なっているバケツも、ひとつ取ってみるととても美しいと思います。

この作業用の手袋も探し当てたもので、とっても気に入っています。全部MUJIで売っているわけではないですが、このように「MUJIってなんだろう?」ということを探しながら世界中を旅していることも、MUJIのひとつの活動です。いろんなものを探し出して、東京にFound MUJIというお店も作りました。

これは薬屋さんの瓶ですが、難しいのは、これがいいからといって「それください」というとダメですと断られることです。でもMUJIの人はちゃんと後で交渉して、探してきてくれます。こういったものの中からMUJIのレギュラー製品になっていくことがあります。一番最近では、中国で家具のFound MUJIをしました。そういうものを集めた展覧会を上海で行い、日常のすごく見慣れたものをこのように美しく展示できて、たくさんの人に感動を与えました。その中から「明(みん)」という名前のMUJIの家具も作りました。

今日は皆さんと、「MUJIで十分だ」「MUJIでいいんだ」というための、いろいろな細かい配慮、すなわちマイクロコンシダレーションの概念を共有できたことをうれしく思います。

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