(閉)イデー東京
【IDÉE TOKYO】INTERVIEW with AKIHIRO KUMAGAYA

2023/01/27
熊谷彰博 デザイナー/ディレクター
物の見方を探求し、独自の視点と文脈の再構築からデザインとディレクションを手がける。物の構成と素材を抽出し、表象と知覚を媒介するオブジェクトの習作をつづけて、2021年、初の個展「OBJECTS」にて発表、同テーマを基幹に作品を制作。主な仕事に、T-HOUSE New Balance フリーマガジン「NOT FAR」アートディレクション、無印良品 池袋西武 企画展「STOCK展」企画・監修・会場構成、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、「柳本浩市展」キュレーター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザイン。 編書に、『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)
1月27日(金)より開催のデザイナー熊谷彰博さんの版画展“AKIHIRO KUMAGAYA Exhibition「OBJECTS 2」。”これに併せて熊谷さんにインタビューをさせていただきました。「木版画作品を制作するようになったきっかけは?」「作品のイメージはどのように生まれたのか?」なかなか聞ける機会のないお話しの数々です。
instagram @akumagaya / @ideetokyo
―企業やブランドのプロダクトやグラフィックのディレクションとデザイン、展示ディレクションや会場構成など多角的に活躍されている熊谷さんですが、今展示で出品いただいている木版作品を制作するようになったきっかけをお聴かせください。
2020年11月頃に、アーティストの湯浅克俊さんが副理事を務める国際木版画協会の3331 arts chiyoda(東京都千代田区にあるアートセンター)の企画展にお声がけいただいたことがはじまりでした。
木版画のアーティストが様々な職業の人に版画制作の知識や技術を教えることで、新たな経験や発見を生み出すことが企画の趣旨でした。
まず、版画とは異なるアプローチから作り方を作ろうと、彫らないで表現する方法を考えました。木版画では木目はあまり出ない方が画を作りやすい利点がありますが、あえて木目を活かした方法を思索しました。
“発見が起こる作り方”という方法はデザインと類似するものがあるんです。プロダクトやインテリアの経験から材料・道具・加工に触れる機会は多く、木材の特徴から板目(いため)・柾目(まさめ)・木口(こぐち)の木目を版として使い分ければ、立体的な投影図を作れると考えました。
閃いたときに身近な道具や適当な木のブロックを使い試し刷りをしていました。面白くなりそうだなと思ったものの、やってみないと分からないので。
(都内にある熊谷さんの事務所にて話を伺った。)
―デザイン領域で仕事してきたことで、平面を立体図に仕上げていく思考がもともとあるのが大きかったのですね。
頭の中にあるイメージを目に見える状態にする投影図は、スケッチ・ベクターデータ・3Dモデリングとして描くこともデザインの仕事で欠かせない手法です。
また、リサーチとして美術館、博物館、民俗資料館には足しげく通っていたので、絵巻や屏風に描かれる大和絵から浮世絵に続いてきた絵画様式、3Dソフトのない時代の建築パースでは壁や床の大理石や木材の写真を切り貼りして空間を伝える図版などを見てきた影響もあります。
そういった経験が、木目を使い分けた彫らない木版画へつながりやすかったです。
これは作品に関連してきますが、自分の目を鍛えていく習練として、ブランド名や作家名に左右されないで物が集まる骨董市やホームセンター、閑静な日用品店から良い物を選ぶことを続けています。テクスチャ・形の良さ・手に持ったときの感触・構造など、なにか気になった物を手に入れて、並べては出し入れをしています。自然に続けていくと、次の制作や仕事にもいい影響を与えてくれるんです。近年では、作家の物も並列に並んでいますが、飾って楽しむというよりも、忘れた頃に再発見することに意味があります。
例えば、本棚に並んでいるタイトルから自分の興味に改めて気づくことがあるじゃないですか。物も同じと考えていて、何かを作るときは選択の連続のため、ある物のディティールに着目したり、複数の物を組み合わせて想像を膨らませたり、試行錯誤の段階で関わりが出てきます。またアノニマスな物は、探そうと思ったときに手に入らない物が多い。普段からオブジェクトを集めていると、自分だけの参照資料として使えることがあります。
デザインの仕事では物の背景や文脈を再構築していくことも多いですが、今回の作品は物を構成する要素を抽出して、表象と知覚を媒介するオブジェクトに還元することを意識しています。
(事務所の棚にはこれまで見つけてこられた品々が並んでいる)
(六角ボルトの原型。精度を出すために真鍮で作られており、これを型にして実際の製品を作る)
(写真中央:熊谷さんがデザインしたMITOSAYA薬草園蒸留所のボタニカル・コンポジション。)
-この棚にあるものは変わっていきますか?
隙間があれば置いていくので、増えてきたなと思ったら引いています。作業中に手に取って使うこともあります。例えば、木目の版画を閃いたときには馬連を持っていなかったので、数年前の骨董市で手に入れたローラーを使って刷りました。
(骨董市で購入したローラー)
(骨董市で買ってきた電磁石。オーディオスピーカーに使われていたという。)
(“穴が空いていたのでパーマセルを貼っていましたが、風化したように剥がれたことで、元の用途が想像つかないのもいいです。磁性にクリップやネジがくっつくのと版画制作には紙の見当がずれないように重石として使っています。”)
仕事で製材所を視察したことがあるのですが、製材された木を改めて捉えると、自然物でありつつ工業化されたものなんです。伐採後に時間をかけて乾燥して、直角にカットして規格化された建材になります。このことも、木材を工業的なオブジェクトとして扱うアイディアに繋がりました。
なので、木目版画を見つけたのは自分がやってきたこと・興味を持っていたものと連動しています。オブジェクトやプロダクトデザインに共通することですが、新たな発見が起こる確率を高めていくために、ジャンルレスの方法や資料を積み重ねています。
―制作発表を重ねてきたことで新たに見えたものはありますか?
刷っていくと同じ版の中でも微かに表情が変わるため、ひとつの版を組み合わせていくと複数の質感を持つ集合体を作ることができます。そのため、板目・柾目・木口から作られた版もひとつのパーツとして再構築することで、ひとつだけの作品を作れる方法を発見しました。2021年の個展からオブジェクトとしてアップデートされたので、タイトルはOBJECTS 2にしています。
新作の一点ものは、刷った版画を重ね合わせています。微かな紙厚の差によって立体的な奥行きが生まれています。
(2021年7月に東京都渋谷区にある(PLACE) by methodで開催された、熊谷さんの初個展“OBJECTS”。)
(2021年10月には大阪府にあるジュエリーレーベルATAKAで“OBJECTS”展を開催)
―続けていくことで新たな発展が生まれているんですね。今後、取り組んでいきたいことはなにかお決まりでしょうか。
個展後からコミッションワークの話をいただきますが、実現はしていないため、発展していけたらいいですね。それと、他にも見つけてしまったという方法はあるので、異なるアウトプットも試していきたいです。
インタビュー後、熊谷さんから“作品が「私にはこう見えた」とか「自分の家と近いものを感じた」などの感想をもらえて、鑑賞者と作品の間に想像性や関連性が生まれて、作品がその人のものになっていったらいいなと考えています。”と言葉をいただきました。自由な解釈の余地がある作品の数々をぜひご覧いただければと思います。
展示会は2023年1月27日(金)~2月14日(火)までIDÉE TOKYOにて開催しています。
【AKIHIRO KUMAGAYA Exhibition OBJECTS 2】
会期 2023年1月27日(金)~2月14日(火)
場所 IDÉE TOKYO(JR東京駅 グランスタ地下北口改札そば)
在廊日 1月27日(金)
instagram @akumagaya / @ideetokyo
<お店への行き方>
○場所
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京 B1F スクエアゼロエリア 48番
①丸の内地下中央口から
改札入場後、銀の鈴待ち合わせ場所方面に直進。左手のはせがわ酒店を越えたら左折して直進。ピエール・エルメ隣。
②グランスタ地下北口から
八重洲・丸の内連結通路途中のグランスタ地下北口から入場し直進。右手のガトーフェスタ・ハラダをこえて左手。
③お車でお越しの場合
東京駅八重洲パーキングをご利用いただけます。
こちらのサイトから空き状況などご覧いただけます。ご不明点は東京駅八重洲パーキングへお問い合わせのほどお願いいたします。
・東京駅八重洲パーキング
*当店では駐車場代割引サービスなどはございません

物の見方を探求し、独自の視点と文脈の再構築からデザインとディレクションを手がける。物の構成と素材を抽出し、表象と知覚を媒介するオブジェクトの習作をつづけて、2021年、初の個展「OBJECTS」にて発表、同テーマを基幹に作品を制作。主な仕事に、T-HOUSE New Balance フリーマガジン「NOT FAR」アートディレクション、無印良品 池袋西武 企画展「STOCK展」企画・監修・会場構成、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、「柳本浩市展」キュレーター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザイン。 編書に、『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)
1月27日(金)より開催のデザイナー熊谷彰博さんの版画展“AKIHIRO KUMAGAYA Exhibition「OBJECTS 2」。”これに併せて熊谷さんにインタビューをさせていただきました。「木版画作品を制作するようになったきっかけは?」「作品のイメージはどのように生まれたのか?」なかなか聞ける機会のないお話しの数々です。
instagram @akumagaya / @ideetokyo

―企業やブランドのプロダクトやグラフィックのディレクションとデザイン、展示ディレクションや会場構成など多角的に活躍されている熊谷さんですが、今展示で出品いただいている木版作品を制作するようになったきっかけをお聴かせください。
2020年11月頃に、アーティストの湯浅克俊さんが副理事を務める国際木版画協会の3331 arts chiyoda(東京都千代田区にあるアートセンター)の企画展にお声がけいただいたことがはじまりでした。
木版画のアーティストが様々な職業の人に版画制作の知識や技術を教えることで、新たな経験や発見を生み出すことが企画の趣旨でした。
まず、版画とは異なるアプローチから作り方を作ろうと、彫らないで表現する方法を考えました。木版画では木目はあまり出ない方が画を作りやすい利点がありますが、あえて木目を活かした方法を思索しました。
“発見が起こる作り方”という方法はデザインと類似するものがあるんです。プロダクトやインテリアの経験から材料・道具・加工に触れる機会は多く、木材の特徴から板目(いため)・柾目(まさめ)・木口(こぐち)の木目を版として使い分ければ、立体的な投影図を作れると考えました。
閃いたときに身近な道具や適当な木のブロックを使い試し刷りをしていました。面白くなりそうだなと思ったものの、やってみないと分からないので。
―デザイン領域で仕事してきたことで、平面を立体図に仕上げていく思考がもともとあるのが大きかったのですね。
頭の中にあるイメージを目に見える状態にする投影図は、スケッチ・ベクターデータ・3Dモデリングとして描くこともデザインの仕事で欠かせない手法です。
また、リサーチとして美術館、博物館、民俗資料館には足しげく通っていたので、絵巻や屏風に描かれる大和絵から浮世絵に続いてきた絵画様式、3Dソフトのない時代の建築パースでは壁や床の大理石や木材の写真を切り貼りして空間を伝える図版などを見てきた影響もあります。
そういった経験が、木目を使い分けた彫らない木版画へつながりやすかったです。
これは作品に関連してきますが、自分の目を鍛えていく習練として、ブランド名や作家名に左右されないで物が集まる骨董市やホームセンター、閑静な日用品店から良い物を選ぶことを続けています。テクスチャ・形の良さ・手に持ったときの感触・構造など、なにか気になった物を手に入れて、並べては出し入れをしています。自然に続けていくと、次の制作や仕事にもいい影響を与えてくれるんです。近年では、作家の物も並列に並んでいますが、飾って楽しむというよりも、忘れた頃に再発見することに意味があります。
例えば、本棚に並んでいるタイトルから自分の興味に改めて気づくことがあるじゃないですか。物も同じと考えていて、何かを作るときは選択の連続のため、ある物のディティールに着目したり、複数の物を組み合わせて想像を膨らませたり、試行錯誤の段階で関わりが出てきます。またアノニマスな物は、探そうと思ったときに手に入らない物が多い。普段からオブジェクトを集めていると、自分だけの参照資料として使えることがあります。
デザインの仕事では物の背景や文脈を再構築していくことも多いですが、今回の作品は物を構成する要素を抽出して、表象と知覚を媒介するオブジェクトに還元することを意識しています。
(写真中央:熊谷さんがデザインしたMITOSAYA薬草園蒸留所のボタニカル・コンポジション。)
-この棚にあるものは変わっていきますか?
隙間があれば置いていくので、増えてきたなと思ったら引いています。作業中に手に取って使うこともあります。例えば、木目の版画を閃いたときには馬連を持っていなかったので、数年前の骨董市で手に入れたローラーを使って刷りました。
仕事で製材所を視察したことがあるのですが、製材された木を改めて捉えると、自然物でありつつ工業化されたものなんです。伐採後に時間をかけて乾燥して、直角にカットして規格化された建材になります。このことも、木材を工業的なオブジェクトとして扱うアイディアに繋がりました。
なので、木目版画を見つけたのは自分がやってきたこと・興味を持っていたものと連動しています。オブジェクトやプロダクトデザインに共通することですが、新たな発見が起こる確率を高めていくために、ジャンルレスの方法や資料を積み重ねています。
―制作発表を重ねてきたことで新たに見えたものはありますか?
刷っていくと同じ版の中でも微かに表情が変わるため、ひとつの版を組み合わせていくと複数の質感を持つ集合体を作ることができます。そのため、板目・柾目・木口から作られた版もひとつのパーツとして再構築することで、ひとつだけの作品を作れる方法を発見しました。2021年の個展からオブジェクトとしてアップデートされたので、タイトルはOBJECTS 2にしています。


新作の一点ものは、刷った版画を重ね合わせています。微かな紙厚の差によって立体的な奥行きが生まれています。




―続けていくことで新たな発展が生まれているんですね。今後、取り組んでいきたいことはなにかお決まりでしょうか。
個展後からコミッションワークの話をいただきますが、実現はしていないため、発展していけたらいいですね。それと、他にも見つけてしまったという方法はあるので、異なるアウトプットも試していきたいです。
インタビュー後、熊谷さんから“作品が「私にはこう見えた」とか「自分の家と近いものを感じた」などの感想をもらえて、鑑賞者と作品の間に想像性や関連性が生まれて、作品がその人のものになっていったらいいなと考えています。”と言葉をいただきました。自由な解釈の余地がある作品の数々をぜひご覧いただければと思います。
展示会は2023年1月27日(金)~2月14日(火)までIDÉE TOKYOにて開催しています。
【AKIHIRO KUMAGAYA Exhibition OBJECTS 2】
会期 2023年1月27日(金)~2月14日(火)
場所 IDÉE TOKYO(JR東京駅 グランスタ地下北口改札そば)
在廊日 1月27日(金)
instagram @akumagaya / @ideetokyo
<お店への行き方>
○場所
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京 B1F スクエアゼロエリア 48番
①丸の内地下中央口から
改札入場後、銀の鈴待ち合わせ場所方面に直進。左手のはせがわ酒店を越えたら左折して直進。ピエール・エルメ隣。
②グランスタ地下北口から
八重洲・丸の内連結通路途中のグランスタ地下北口から入場し直進。右手のガトーフェスタ・ハラダをこえて左手。
③お車でお越しの場合
東京駅八重洲パーキングをご利用いただけます。
こちらのサイトから空き状況などご覧いただけます。ご不明点は東京駅八重洲パーキングへお問い合わせのほどお願いいたします。
・東京駅八重洲パーキング
*当店では駐車場代割引サービスなどはございません
