(閉)イデー東京
【IDÉE TOKYO】アーティストインタビュー / 水戸部春菜(平面作家)

2023/06/09
今回のインタビューは平面作家・水戸部春菜さん。2023年6月9日(金)から始まる個展“うえてかえる”開催に際して、現在のように活動されるようになったきっかけや今回の展示会で発表されている作品について伺います。
水戸部さんのアトリエは神奈川県横須賀市の田浦泉町谷戸地域、Yokosuka art valley HIRAKUにあります。東京駅から田浦駅までは、JR横須賀線で1時間ほど。
(JR横須賀線田浦駅前。ここからアトリエまでは徒歩約15分。)
(駅前の国道16号をまたぎ越すと、里山の景色が広がってくる。)
Yokosuka art valley HIRAKUは横須賀市営住宅跡地につくられたリノベーション済の長屋にアーティストが住み、制作をしながらアートを介して地域活性化に取り組む場所です。
(左はアーティストたちの居住空間。右の窯はヒラクで活動されている土器作家・薬王寺太一さんと地域の住民が一緒に作り上げた田浦和泉窯。穴窯という、薪を焚いて焼き上げるもの。)
(自然風景と調和するような長屋には水戸部さんのアトリエや合同ギャラリーがある。)
(地域にお住まいの方々とアーティストが一緒に野焼き土器を作る場所も。)
(アトリエの裏手にある、ほたるの里を案内いただく。)
(竹林と広葉樹と針葉樹の混合林を登っていく。)
(ジャスミンのような花弁があちこちに散らばっている)
(初夏の心地よい風が木々の間を通っていく季節。)
(日が暮れるとタヌキやイノシシなどが出るほど自然豊かな場所。)
―まず、“うえてかえる”という展示会タイトルに興味を惹かれました。
あるとき、アーティストや地域住民のみなさんとお花を植えたんです。植えたなかにパンジーもあったんですけど、一回咲いたら翌年も咲くものと思っていたんですけど、植え替えしないといけないんですね。それを知らずに「また来年も咲いてね」という気持ちで植えていました(笑)。
当然枯れてしまうので、育て方がいけなかったかなと思っていたら植え替えが必要であることを教えてもらい、びっくりしました。ちょっと調べたらわかるようなことですけど、気持ちにゆとりがなくて調べもしなかったんです。
私の父は野菜や花を育てるのが好きな人で、毎年育てているんですが、それも毎年植え替えていたんだと気がつきました。ここ数年は様々なことに追われ余裕もなく、そんな時にふと、気づきたいことに気がつける気持ちの余白をもちたいと思いました。
元々は少年誌みたいな性格です。作家になると決めたときから根性ないと上には行けないぞと思うくらい、根性論が根っこにありました。根性論で続けていくと爆発的な作品ばかり作るんですよ。
それはそれで好きですけれど、疲れてしまったし、余白があったほうが見やすいし、イデーで展示するなら柔らかくてゆとりのあるものがいいなと思いました。パンジーを植え替える時間は心地よかったし、そういう心地よさのある作品を作りたいなと思って、この「うえてかえる」というタイトルになりました。
ゆとりのない状態を積み上げていくのではなくて、自分も、来てくれた人もちょっとだけ変えたいと思っています。
―アトリエと居住スペース両方あるようですが、水戸部さんは普段どちらで制作されていますか?
今回はドローイング作品を展示するので、居住スペースで描いています。
(夜は手元を照らすライトを使って、正確な色味を見られるようにしている)
これまではドローイングを100枚〜200枚くらい描いた中から線を選び、構成し直して、主に木製パネルに一般的な絵の具や版画の技法を使って制作した一点ものの作品を発表してきました。
けれど5年ほど続けた頃に、制作途中で出来上がりが見えるようになってきました。描いている最中に作業のようになってしまったので、これはよくないと思い、自分が予測できないように制作技法をまた模索し直しています。
今回は和紙に水性インクや色鉛筆を使って制作したドローイングをメインに展示します。作品は重ねたり、反転させたり、色をつけたり、気がつくままに楽しく作っています。自分にとってもドローイングが中心の展示会は初めてなので挑戦です。
(アトリエで今回の展示作品を見せていただいた)
(制作途中の作品。水彩紙の上に和紙を重ねて貼り付けて制作されるそう。)
(左側が新たな技法で制作した作品で、右側はこれまでと同じシルクスクリーン技法で制作された作品。)
(鳥のさえずりや草木が揺れる音など、自然の環境音が豊かなアトリエ内。はじめの緊張感が緩み、話が弾む時間。)
―現在のように描き始めたきっかけを教えていただけますか。
学生のころに陸上競技を見たのがきっかけです。もともと演奏会や演劇などを観るのが好きなんですが、大学の卒業制作で悩んでいたときに競技大会を見に行ったら、走る速さとフォームを見てとても驚いたんです。
いつも画材は携えていたのでランナーのデッサンをしましたが、まったく違うものしか描けず、すごすご帰るというのを繰り返していました。何回もデッサンをすることで動きの形が見えてきたんですけど、「走っている」を描こうとしたときに形を描いたら走っているようには見えないんです。
そのうちに、ランナーのフォームを形として描くのではなく、走っている時間軸を描かないと「走っている」線って描けないのかなと気づいたんです。この走っている時間軸を描き、重ねていくことで西武のウィンドウみたいな躍動感ある作品を作れるようになりました。
(2021年 西武渋谷店のウィンドウ。水戸部さんは「宇宙」や「世界」や「未来」をキーワードに、飛んだり跳ねたり全力で駆け抜ける人間と、その顔のアップの絵を制作。奥側:壁と手前側:ウィンドウの2層に作品が展示された)
―学生の頃から続けていることが今の作品につながっているんですね。描くことは昔からお好きなんですか?
はい、高校のときは虫の写実画を描いたりしていました。自分のことを天才だなと思っていたんですが、美術史を学んだらたくさんの天才やすごい人たちがいることを知って、天才だと思っていた自分を恥ずかしく思い、卒業制作を頑張ろうと思いました。両方いると思うんですけど、私は美術史を学んでよかった人だと思います。
(居住スペースとアトリエがある長屋のテラス。野鳥の声がにぎやかに聞こえる心地よい場所。)
(学生のころのデッサンを見せていただいた。「いろんなものから線を取っていくということをやっています。この頃は、たぶん探っているときのものですね。」と水戸部さんは振り返る。)
(「モデルを見つけるたびにドローイングをするんですけど、枚数が多くて取っておけないのでスキャンして保存しています。」-水戸部さん談)
自分が凡才だと気づいたことで、私の場合には感覚のまま描いているとありふれた表現になるとわかりました。それで、手探りでも客観的な視点で実験していく方向に変えていくようになりました。
完全に主観を消すことは無理でも、出来る限り客体を出す実験し続けて今の作品に至っています。絵画的な表現でそのものの本質を取り出すことを楽しくやっています。
いつか美術史に乗れたらいいなという気持ちがあります。今の時代に絵画で載るのは無謀な感じはするけど、好きなので頑張れます。
取材の帰り際、HIRAKUのそばにお住まいの方とすれ違ったので、しばし立ち話。アートを介して地域活性化に取り組むアーティスト村の主旨通り、水戸部さんも地域に馴染んで生活されている様子が垣間見えた。
(柴犬のジローくん)
【水戸部春菜 個展 うえてかえる】
Haruna Mitobe Exhibition "Replant"
期間 2023年6月9日(金)〜7月11日(火)
場所 IDÉE TOKYO(JR東京駅改札内 グランスタ地下北口改札そば)
作家在廊日 6月17日(土)、7月8日(土)
Instagram @mitobeharuna / @ideetokyo
6月9日(金)からは平面作家・水戸部春菜さんの個展「うえてかえる」を開催。硬く閉じた思考や心がほどけるような、余白と動きのあるドローイング作品を展示いただきます。梅雨の雨宿りに、ぜひお立ち寄りください。
--
ぎちぎちの緊張を柔らかく、ぶつぶつとフォークで穴を空けるように解していくと、味の染み込んだ柔らかい肉ができるように、絵も何かが入り込んで反応するかもしれない。捉えなくなった、あるいは、捉えられなくなった時から、表現は終了していて、別の何かになっていた。私は、土を入れ替えて、様子をみながらこまめに水を与えて、太陽の光を沢山あびさせる事にした。やわらかくすることでおきる偶然の産物は、オレンジめの夕方に布団で眠るような、心地のいいものであってほしい。
---水戸部春菜
<プロフィール>
水戸部春菜 Mitobe Haruna
1995年神奈川生まれ / 拠点 神奈川
水戸部春菜は、自在な素材と技法を用いて、人や動物の素描を行います。多媒体から視点を変え客体を描き取り、それらを取り込み再び一つの平面へ構成することで、モチーフの状態を描きます。
<主な個展>
2022 IDÉE SHOP 自由が丘店 「Happy End」
2022 galleryN 「town」
2021 西武渋谷店 「don't try」
<グループ展>
2021 豊田市美術館ギャラリー /「わからなかった昨日の翌日」
2021 群馬県立近代美術館 / 「群馬青年ビエンナーレ2021」
2020 岡本太郎美術館 /「第23回岡本太郎現代芸術賞」
2019 枕崎市文化資料センター南溟館 / 「第2回枕崎国際芸術賞」
2018 「アートアワードトーキョー丸の内」 / 行幸地下ギャラリー
<アーティスト・イン・レジデンス>
2022 きそがわ日和アーティスト・イン・レジデンス2022 水戸部春菜 腹の中 / 中山道太田宿界隈・岐阜県
2020 「HARAIZUMI ART DAYS!」 / 原泉全域・静岡県
※お客様および従業員の安全と健康を配慮し、感染拡大予防対策をとっております。
※改札外からのご利用の場合は、JR東日本東京駅を区間に含んだ乗車券類または入場券をお買い求めのうえ、ご入場くださ。
<お店への行き方>
○場所
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京 B1F スクエアゼロエリア 48番
①丸の内地下中央口から
改札入場後、銀の鈴待ち合わせ場所方面に直進。左手のはせがわ酒店を越えたら左折して直進。ピエール・エルメ隣。
②グランスタ地下北口から
八重洲・丸の内連結通路途中のグランスタ地下北口から入場し直進。右手のガトーフェスタ・ハラダをこえて左手。
③お車でお越しの場合
東京駅八重洲パーキングをご利用いただけます。
こちらのサイトから空き状況などご覧いただけます。ご不明点は東京駅八重洲パーキングへお問い合わせのほどお願いいたします。
・東京駅八重洲パーキング
*当店では駐車場代割引サービスなどはございません

水戸部さんのアトリエは神奈川県横須賀市の田浦泉町谷戸地域、Yokosuka art valley HIRAKUにあります。東京駅から田浦駅までは、JR横須賀線で1時間ほど。


Yokosuka art valley HIRAKUは横須賀市営住宅跡地につくられたリノベーション済の長屋にアーティストが住み、制作をしながらアートを介して地域活性化に取り組む場所です。








―まず、“うえてかえる”という展示会タイトルに興味を惹かれました。
あるとき、アーティストや地域住民のみなさんとお花を植えたんです。植えたなかにパンジーもあったんですけど、一回咲いたら翌年も咲くものと思っていたんですけど、植え替えしないといけないんですね。それを知らずに「また来年も咲いてね」という気持ちで植えていました(笑)。
当然枯れてしまうので、育て方がいけなかったかなと思っていたら植え替えが必要であることを教えてもらい、びっくりしました。ちょっと調べたらわかるようなことですけど、気持ちにゆとりがなくて調べもしなかったんです。
私の父は野菜や花を育てるのが好きな人で、毎年育てているんですが、それも毎年植え替えていたんだと気がつきました。ここ数年は様々なことに追われ余裕もなく、そんな時にふと、気づきたいことに気がつける気持ちの余白をもちたいと思いました。

元々は少年誌みたいな性格です。作家になると決めたときから根性ないと上には行けないぞと思うくらい、根性論が根っこにありました。根性論で続けていくと爆発的な作品ばかり作るんですよ。
それはそれで好きですけれど、疲れてしまったし、余白があったほうが見やすいし、イデーで展示するなら柔らかくてゆとりのあるものがいいなと思いました。パンジーを植え替える時間は心地よかったし、そういう心地よさのある作品を作りたいなと思って、この「うえてかえる」というタイトルになりました。
ゆとりのない状態を積み上げていくのではなくて、自分も、来てくれた人もちょっとだけ変えたいと思っています。
―アトリエと居住スペース両方あるようですが、水戸部さんは普段どちらで制作されていますか?
今回はドローイング作品を展示するので、居住スペースで描いています。

これまではドローイングを100枚〜200枚くらい描いた中から線を選び、構成し直して、主に木製パネルに一般的な絵の具や版画の技法を使って制作した一点ものの作品を発表してきました。
けれど5年ほど続けた頃に、制作途中で出来上がりが見えるようになってきました。描いている最中に作業のようになってしまったので、これはよくないと思い、自分が予測できないように制作技法をまた模索し直しています。






―現在のように描き始めたきっかけを教えていただけますか。
学生のころに陸上競技を見たのがきっかけです。もともと演奏会や演劇などを観るのが好きなんですが、大学の卒業制作で悩んでいたときに競技大会を見に行ったら、走る速さとフォームを見てとても驚いたんです。
いつも画材は携えていたのでランナーのデッサンをしましたが、まったく違うものしか描けず、すごすご帰るというのを繰り返していました。何回もデッサンをすることで動きの形が見えてきたんですけど、「走っている」を描こうとしたときに形を描いたら走っているようには見えないんです。
そのうちに、ランナーのフォームを形として描くのではなく、走っている時間軸を描かないと「走っている」線って描けないのかなと気づいたんです。この走っている時間軸を描き、重ねていくことで西武のウィンドウみたいな躍動感ある作品を作れるようになりました。


―学生の頃から続けていることが今の作品につながっているんですね。描くことは昔からお好きなんですか?
はい、高校のときは虫の写実画を描いたりしていました。自分のことを天才だなと思っていたんですが、美術史を学んだらたくさんの天才やすごい人たちがいることを知って、天才だと思っていた自分を恥ずかしく思い、卒業制作を頑張ろうと思いました。両方いると思うんですけど、私は美術史を学んでよかった人だと思います。



(「モデルを見つけるたびにドローイングをするんですけど、枚数が多くて取っておけないのでスキャンして保存しています。」-水戸部さん談)
自分が凡才だと気づいたことで、私の場合には感覚のまま描いているとありふれた表現になるとわかりました。それで、手探りでも客観的な視点で実験していく方向に変えていくようになりました。
完全に主観を消すことは無理でも、出来る限り客体を出す実験し続けて今の作品に至っています。絵画的な表現でそのものの本質を取り出すことを楽しくやっています。

いつか美術史に乗れたらいいなという気持ちがあります。今の時代に絵画で載るのは無謀な感じはするけど、好きなので頑張れます。



【水戸部春菜 個展 うえてかえる】
Haruna Mitobe Exhibition "Replant"
期間 2023年6月9日(金)〜7月11日(火)
場所 IDÉE TOKYO(JR東京駅改札内 グランスタ地下北口改札そば)
作家在廊日 6月17日(土)、7月8日(土)
Instagram @mitobeharuna / @ideetokyo
6月9日(金)からは平面作家・水戸部春菜さんの個展「うえてかえる」を開催。硬く閉じた思考や心がほどけるような、余白と動きのあるドローイング作品を展示いただきます。梅雨の雨宿りに、ぜひお立ち寄りください。
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ぎちぎちの緊張を柔らかく、ぶつぶつとフォークで穴を空けるように解していくと、味の染み込んだ柔らかい肉ができるように、絵も何かが入り込んで反応するかもしれない。捉えなくなった、あるいは、捉えられなくなった時から、表現は終了していて、別の何かになっていた。私は、土を入れ替えて、様子をみながらこまめに水を与えて、太陽の光を沢山あびさせる事にした。やわらかくすることでおきる偶然の産物は、オレンジめの夕方に布団で眠るような、心地のいいものであってほしい。
---水戸部春菜
<プロフィール>
水戸部春菜 Mitobe Haruna
1995年神奈川生まれ / 拠点 神奈川
水戸部春菜は、自在な素材と技法を用いて、人や動物の素描を行います。多媒体から視点を変え客体を描き取り、それらを取り込み再び一つの平面へ構成することで、モチーフの状態を描きます。
<主な個展>
2022 IDÉE SHOP 自由が丘店 「Happy End」
2022 galleryN 「town」
2021 西武渋谷店 「don't try」
<グループ展>
2021 豊田市美術館ギャラリー /「わからなかった昨日の翌日」
2021 群馬県立近代美術館 / 「群馬青年ビエンナーレ2021」
2020 岡本太郎美術館 /「第23回岡本太郎現代芸術賞」
2019 枕崎市文化資料センター南溟館 / 「第2回枕崎国際芸術賞」
2018 「アートアワードトーキョー丸の内」 / 行幸地下ギャラリー
<アーティスト・イン・レジデンス>
2022 きそがわ日和アーティスト・イン・レジデンス2022 水戸部春菜 腹の中 / 中山道太田宿界隈・岐阜県
2020 「HARAIZUMI ART DAYS!」 / 原泉全域・静岡県
※お客様および従業員の安全と健康を配慮し、感染拡大予防対策をとっております。
※改札外からのご利用の場合は、JR東日本東京駅を区間に含んだ乗車券類または入場券をお買い求めのうえ、ご入場くださ。
<お店への行き方>
○場所
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京 B1F スクエアゼロエリア 48番
①丸の内地下中央口から
改札入場後、銀の鈴待ち合わせ場所方面に直進。左手のはせがわ酒店を越えたら左折して直進。ピエール・エルメ隣。
②グランスタ地下北口から
八重洲・丸の内連結通路途中のグランスタ地下北口から入場し直進。右手のガトーフェスタ・ハラダをこえて左手。
③お車でお越しの場合
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こちらのサイトから空き状況などご覧いただけます。ご不明点は東京駅八重洲パーキングへお問い合わせのほどお願いいたします。
・東京駅八重洲パーキング
*当店では駐車場代割引サービスなどはございません
