入りくんだリアス式海岸と、大小971もの島々で構成される長崎県。陸地は農地にするには大変さが伺えるこんもりとした丘陵地帯ですが、そこには先人たちによって石垣で築かれた段々畑が広がっています。
「誰もが故郷ってあると思うんです。それが僕にとってはこの土地であって、農によって保たれてきた風景を守っていきたいんです」そう話すのは川口祐司さん(40歳)。高齢化が進む産地では、希少な後継者です。
3人兄弟の長男として育った川口さんは、いつかは故郷に戻ることを意識していたそうです。東京農大を卒業後、花屋に勤めたのも、すべては帰郷後の農業に備えるため。そんな川口さんが目指すのは、JAなどに頼らない独立した農業でした。
独自の販路を築くべく、積極的に東京でのマルシェや催事へ出店。お客さんへ直接、販売し食べてもらうことで、農へのモチベーションも高まったといいます。「やっぱり美味しいと言ってもらえると嬉しいですね。逆にご批判もいただくこともあり、その時は“どうしたら美味しくなるか?”を追求していきます」
そんな川口さんが手掛ける作物は、魚粕と米ぬかを乳酸菌・酵母で発酵させた肥料を与え、農薬をできるだけ節減するなど安心安全にも配慮したもの。収穫前には水分をできるだけ与えず適度なストレスをかけることで、果実が甘さを蓄えるなど、美味しさへの追求も忘れていません。
2018年は1・2月と寒い日が続き、枇杷の生育が心配されましたが、実も寒さで凍死することなく、無事にすくすくと生育しています。3月から天気にも恵まれ、今年も昨年同様に、豊作の年となりそうです。長崎県からの初夏の便りをご堪能ください。