愛媛県西端にある八幡浜市向灘地区。典型的なリアス式海岸から広がる起伏の激しい傾斜地には、一面みかんの段々畑が広がっています。ここは、例年のように市場で最高峰の評価を得ている「日の丸みかん」の産地。初売りで日の丸みかんが高値を付けると、全国のみかんも単価が上がるといわれるほど特別なみかんです。
そんなみかんが育つのも、前述の「3つの太陽」という類稀な環境があるから。1つ目が、全面南向きの段々畑に、日の出から日の入りまで降り注ぐ太陽の光。2つ目が、眼下に広がる宇和海からの反射光。そして3つ目は、明治時代の先人たちが傾斜地の土が流れないようにと、手で積んだ石垣からの反射光。これら3つの太陽をたっぷり浴びることで、濃厚な味わいのみかんが育つんです。
この産地を、親子3代に渡って長年支えてきたのは小林果園さん。日本有数の産地とはいえ、自分のつくったみかんを誰が食べているのかも分からないという商売の仕方に、ずっと疑問を感じていたという3代目の聖知さんは、2008年に「共選(共同選果)」から離脱し、「個選(個別選果)」の道を選びます。それは「日の丸みかん」として出荷できなくなることを意味しました。
「初めは販売先もない上に、営業用のスーツもない。ネットで中古を仕入れ、つんつるてんのスーツで東京へ飛び込み営業をしていましたよ(笑)」今でこそ笑い話で話す聖知さんですが、その年の売上や単価は家族には伝えられなかったほどだそうです。それでも覚悟をもって臨み続け、やがてお客さんから直に返ってくる反響に手ごたえを感じるように。
そして、流れに乗ったのが2011年のこと。給食用の「冷凍みかん」を出荷できないかという話が舞い込みます。それまで愛媛のみかんは生果での出荷が中心だったのですが、これを小林果園は引き受けることにしたのです。元々、味の濃い小林果園のみかんは冷凍しても濃厚と、瞬く間に小学生たちのあいだで評判になり、その地位を確立していきました。
みかんは太陽の光を浴びるほど甘みと酸味をたっぷり蓄え、やがてその酸味が抜けて食べ頃を迎えます。小林さんは酸味がないものは味がボケるので、酸味こそが美味しさの秘訣とも話します。3つの太陽と小林さんの想いの詰まった小林果園の「媛一みかん」、酸味が抜けきる前に是非お召し上がりください。