就農して8年目になる黒木さん。宮崎県日向市の畑で、家族でへべすを栽培しています。現在、へべすの収穫量は全国で年間約140t。かぼすやすだちと比べると40分の1ほどしか収穫栽培されていない、貴重な香酸柑橘です。
すだちよりも玉が大きく、かぼすよりは香りが優しく、ゆずよりも皮が薄く、果汁が豊富で種が少ないというのがこの柑橘の特徴。へべす独特のさわやかな香りと旨みが、料理の美味しさを引き立てます。
夏がシーズンのへべすは、冷奴、刺身、焼き魚、うどんやそうめんなどの薬味にはもちろん、レモンや柚子と同様に、お菓子づくりやお酒との相性も抜群。シロップ漬けやクリームチーズと合わせたり、様々な使い方で料理の幅が広がります。
栽培されている畑のそばには塩見川が流れ、週末や夏休みになると、河川プールでは子どもたちが水しぶきをあげて楽しむ姿が見られます。上流では、蛍が奏でる自然のイルミネーションも。日照も程よく、水が豊かで美しいこの集落で、日向の黒木さんのへべすは育ちます。
地元では婚礼の習わしとして嫁ぎ先に苗木をもって行き、実った果実を使うと、香りも高くより美味しいお料理に仕上がるのでお嫁さんの評価が上がった、というエピソードもあるほど。
そんなへべすですが、専業では成り立たない農家さんも多く、生産者は減り続ける一方。生産者の平均年齢が年々上がっていく中、「このまま継いでいく人がいなければ故郷の宝が無くなるかもしれない」という危機感から、へべすを守り、伝えたいと奮励しています。