もともとは旧朝来町岩津地区でつくられてきた「岩津ねぎ」。高齢化に伴い徐々に生産者が減少していったため、今では朝来市内まで産地は広がり、種は岩津ねぎ生産組合によって守られてきました。しかし、その多くの生産者も75歳以上という高齢化の波に襲われています。
そんな状況を危惧し、自ら農業を始め若い力を集めて岩津ねぎを後世に継いでいこうと精を出すのが「NOUEN」代表、田中正広さんです。この地で生まれ育つも岡山で起業していた田中さんでしたが、帰省の度に増える耕作放棄地を見て「生まれ育った地域、恩人に何ができるか」と思い立ち、農園事業をスタート。離れてみて改めて気付かされた岩津ねぎの美味しさを広めるべく、生産から販売、加工品の開発まで一貫して行っています。
岩津ねぎは元々、青ねぎの代表的存在である京都の「九条ねぎ」の改良種でしたが、極めて柔らかく日持ちが悪かったことと、牛角のように分けつして流通に向かなかったため、昭和初期に関東の白ねぎ「千住葱」が掛け合わされ、現在の岩津ねぎが育成されました。そのため、両者の特徴を継いだ青葉の部分と白根の部分の両方が食べられる、世にも珍しいねぎとして日本三大ねぎの一つに数えられるようになったといわれています。
この土地特有の朝霧が立ち込めるほどの朝晩の冷え込みや冬場の雪は、他の作物には難しい気象条件ですが、岩津ねぎにとってはむしろ寒さを乗り越えた方が糖が蓄えられ、旨みも増していくんだそうです。青葉まで柔らかく食べられる岩津ねぎは雪で簡単に折れてしまうので、11月には雪除けネットを設置。寒い雪のなか1本1本手作業で掘られる岩津ねぎは最高の状態に仕上がっています。
雪や霜に当たり引き締まった岩津ねぎ。青葉はパリッと硬さと厚みがありますが、これが熱を加えるとトロトロに柔らかく甘くなります。同時にほどよいシャキッとした歯ごたえはあり。鍋やてんぷらはもちろん、ぱらっと塩をふって炒めるだけでも十分、食べ応えがあります。青葉から白根まで余すところなく味わえる岩津ねぎを、この冬、是非ご堪能ください。