無印十年物語
「来年も、きっと、このカレンダー」芦川直子(コーヒー店オーナー)

2025/08/29
(写真と文・芦川直子)
芦川直子
あしかわ・なおこ コーヒー焙煎人。「coffee caraway(コーヒーキャラウェイ)」オーナー。会社員を経て、2005年より自宅でコーヒー焙煎を開始し、2006年よりインターネットで販売をスタート。2008年に東京・上目黒に「coffee caraway」をオープンし、2015年に現在の祐天寺に移転。実店舗で焙煎・販売を行いながら、出張イベントや豆の卸販売なども行っているほか、2024年より読書会を不定期で開催している。
Instagram:@coffee_caraway
X:@coffee_caraway
HP:https://c-caraway.com/
ほどよいリラックス感とフォーマルさが共存するカレンダー
カレンダー。私は多少こだわりがある方かもしれません。
写真や絵のついたものなら気に入ったものを選びたいですし、曜日については月曜始まりでないとどうにも落ち着かない。
秋頃になるとあちこちに並びだし、もうそんな時期か……と気付かされる。そしてくる年を思いながら選んで、準備する最初の品が、カレンダーです。
最初に無印良品のカレンダーを買ったのがいつかはもう思い出せないのですが、10年、いやもう20年近く前かもしれません。シンプルなデザインで、絵も柄も無いけれどなんとなくいいな、と。
無印の商品は、無機質なようでどこかクラフト感があります。たとえばこのカレンダー。

真っ白ではない紙の色や、手応えのある触り心地。表紙のクラフト紙の色合いや、リングの金具の艶消し具合。だから木の家具とか布のソファに似合う感じ。オフィスよりも自宅とか、リラックスするための場所と相性がいい気がします。と言いつつ、私は職場でも無印のカレンダーを使うことが多いのですが。カジュアルさもありつつ、ひとつ一つに姿勢の良さのようなものを感じます。
最初に買ったのは壁掛けのカレンダー。次に卓上のA5サイズも買って、それぞれにスケジュールやメモを書き入れるうちに、卓上の方が気に入って私の定番になりました。壁掛けして時折眺めるより、身近に置いてあれこれ書ける手帳のような存在として。
そのうち職場である私のコーヒー店でもB6サイズを使うようになり、今は毎年その2サイズを買っています、もちろん月曜始まりの方で。
時代が大きく変わっても、大切なものほどずっと手書き
「無印十年物語」と聞いてふと10年前を振り返ると、それはちょうど私が今の場所に店を移転した年、2015年でした。しかもオープン日は8月、今この文章を書いているのと同じ月。なんだか不思議な気持ちになります。
そこから今に至る、ちょうど真ん中にはコロナ禍が始まった2020年があって、それまでとそれからでは何かが大きく変わった、そんな10年でした。

日々、傍らにあったカレンダー。
店ではスタッフさんと予定の共有ができるよう、すぐ手に取れる場所に置いています。スタンドの下の部分を切って、折りたたんでレジ下の引き出しへ。そういう時、私の好みを主張するような絵や写真が入ったものより、このように匿名的な、仕事らしくけじめのある感じがいい気がします。
休業のお知らせをSNSで告知する時などは、営業予定だけ書いて写真を撮ってアップします。これも、店のイメージに影響しないオフィシャルな印象が気に入って。かと言って冷たい感じもしないような…不思議な魅力があります。
店を移転して、場所が駅近になり、新しいお客様も多く来られるだろうと、それまで一人で営業していましたが新たにスタッフを採用して、営業日も増やしました。
スタッフとの日々の連絡はスマホで、会計にはタブレットを使うようになったけれど、勤務シフトやイベント予定を共有するのは今も紙のカレンダー。
あちこちに散らばった情報を集約する、これが一番正確で最新というポジションです。他にも出勤簿はノートでとか、大事な情報ほど手書きしています。

予定やメモを書き込む時、店では消せるボールペン、自宅ではシャープペンシルを愛用。ボールペンの方が、文字がきりっとして見えて、シャープペンシルは優しく見えます。どちらも間違いや変更があった時に、いつでも書きかえられるように。
そういえば、カレンダーのマス目は薄いグレーで、いくつかの祝日以外は日付のみの表示なんですよね。だからあれこれ書くのに邪魔にならない。
空いたマス目には自分で前後の月の日付を書き入れたりもしますが、それも私次第で書ける自由さがあって。こうして振り返っていくと、なぜ私がこのカレンダーを気に入っているかが分かってきました。
パラパラとほどきながら、日々の記憶に別れを告げる
コロナ禍を経て、色々なことがオンラインでできるようになりました。
通販や出前をするお店が増え、会議や打合せ、さらには友達との会話や飲み会もオンラインで。買い物はセルフレジ、飲食店でも注文はスマホから、また生成AIが発達して自動で文書作成とか、絵も図も自分で描かなくてもできてしまう。
いろいろ便利になる一方で、以前より私は本を読んだり、誰かと会って話す時間を持つようになりました。自分で考えるとか手足を動かすことが前より特別になったからこそ、日々身体で感じることがいっそう大事に思えます。
そして、コロナ禍を機に働き方を見直した結果、今は店は週4日だけ開けています。無理なく、長く働けるように。そして、できた時間で2024年から読書会を始めました。コーヒー片手に、集まった皆様とテーブルを囲んでおしゃべりする。ただ店で商品をやり取りするだけでなく、おひとりずつの声を聞く時間が本当に貴重です。
一年の終わりには、カレンダーのリングを外して紙と分別して処分します。リングの端をギュっと引いて、パラパラ…ってほどける感じが好きだったりして。あぁ、今年も終わったなぁと。
カレンダーに書いたことって、残すまでもない記録というか。過去に何年か保管したこともありましたが、読み返すこともなかったので今はすぐに処分。そして、買ったばかりのカレンダーの頁をめくると、あたらしいけれど、いつもの顔。
来年もよろしく、という気持ちで予定を書き入れます。きっとこの秋も買うでしょう。年末まで、今年もあっという間かな。
← 前の記事へ
← 前の記事へ