無印十年物語
「憧れの店で買ったスケジュール帳に勉強用ノート。メモやカードも手放せません」高妍(漫画家・イラストレーター)

2026/08/30
台湾で生まれ、日本で暮らす高妍さん。10代の半ばから『ノート・ウィークリー』をはじめ無印良品の文房具、特に紙製品を愛用してきた高さんに、無印良品との出会いから現在まで続く文房具との付き合い方をうかがいました。
(文・鳥澤光 写真・竹之内祐幸)
漫画家・イラストレーター。村上春樹のエッセイ『猫を棄てる 父親について語るとき』(文藝春秋)の装画で注目を集め、はっぴぃえんどに出会い細野晴臣に焦がれる台湾女性を描いた『緑の歌 - 収集群風 -』(以下、すべてKADOKAWA)で漫画家デビュー。2022年から東京で暮らす。沖縄を舞台にした『隙間』も大きな話題に。「コミックビーム:Q」で連載中の『百日珈琲』第1巻が2026年10月9日に発売予定。
Instagram:@_gao_yan
「15歳からずっと、無印のノートと一緒です」
高妍さんの日本でのデビューは衝撃的だった。6年前の春、村上春樹の『猫を棄てる 父親について語るとき』が書店に並んだ。佐々木マキ、安西水丸、和田誠、大橋歩など名だたるイラストレーターと仕事をしてきた世界的人気作家が自らのルーツを語るエッセイ集。そのカバーには、本を持つ少年の美しい絵が描かれていた。
2022年の春。瑞々しく緻密で柔らかな、光を放つような絵に包まれた『緑の歌 - 収集群風 -』(KADOKAWA)が日本と台湾で同時に発売され評判を呼ぶ。絵と漫画で1作ごとに高い評価を受けながら学ぶことをやめない高さんのかたわらには、いつもノートやバインダーなどの紙のアイテムがあった。


「私が小さい頃から台湾にも無印良品がありました。かっこよくて、子供が買うにはちょっと高いという印象と憧れがあった。高校に入学する前にスケジュール帳を買いに行ったのを覚えています」

無印良品が台湾に上陸したのは2004年。その数年後、15歳の高さんが、自ら選んで初めて買ったのが『組み合わせて使えるノート』(現在は終売。後継として『ノート・ウィークリー』が発売中)だ。
「一番古いのは2012と書いてあるもの。台湾の学校では毎日の宿題や課題、テストの成績などを書き込む専用ノートが配られることが多いのですが、私の高校にはそれがなくて。代わりに自分で買ったのが最初で、毎年1冊ずつ買い、毎日のようにカバンに入れてどこにでも一緒に連れて行きました」
曜日のみで日付は自分で書く。その手間と自由度がまたいい。
「自分で日付を書き込んで使うスタイルなので、使い始めも終わりも自由。長いお休みなどそんなに予定もないときは1ヶ月飛ばしてまた再開したり、たっぷりある余白で英語のテストの予習をしたり。A5サイズというのがちょうどいい。今でも一番使いやすい、好きなサイズです」

表には、西暦の数字とウサギの絵。裏をかえすと価格シールと購入済みの印に貼られたテープも残っている。中面はたくさんの文字と絵に、旅先で押す記念スタンプなどカラフルだ。
「学校のために買ったけど、落書きもたくさん! 友達の誕生日、『スパイダーマン』を観に行った映画館で携帯を落として最悪の一日だったとか、試験勉強をしていて落ち込んだとか日記も書いています。展示を見に行って、印象的な言葉を書き取ったりチケットを貼り付けたり。お父さんにもらった葉っぱも挟んでありますね」

「日記でもなんでも、書きたいという気持ちが浮かんできたらどんどん書いちゃう。高校時代はそんなに忙しくなかったし、自由になんでも書き込んでいたんですね。懐かしいな。今は携帯のメモ機能を使うことも多いけど、大切なことはやっぱり紙に手で書いて残したい。その思いは今も15年前も変わりません」
「初めての東京旅行のお土産もノートでした」


「2017年に初めて東京に来た時に買ったのがこのノートです。店頭にスタンプが置いてあって、自分でカスタマイズできる。ちょっとインクがつかなかったところに自分で書き足したり、スタンプを組み合わせたりしてデザインできるのが楽しかった!」
当時、店頭で展開されていた「MUJI YOURSELF」のサービスで、『再生紙 ノート・無地』(現在は終売。紙とサイズ違いの『ノート・無地』が発売中)が世界に1冊だけのオリジナルノートになった。
「日本語の単語を絵と一緒に暗記したり、電車で前に座っていた人のスケッチをしたり、卒業制作のアイデアを書き出したりしていた、名前のつけられないノートです。自由に、便利に使っていました」

「日本語の勉強で、ノートとの付き合い方も変化しました」
「20歳のときに通った日本語塾で『バインダー』を使うようになりました。学んで知識が増えていくうちに、自分で整理して順番も変えられるスタイルが便利だと気づいて」
自らの意思で日本語を学ぶことを決め、大学と並行して日本語塾に通った1年間。新しい言語に触れ、単語を覚え、文法を知る。例文を書く、訳す。高さんが勉強の楽しみを強く実感した時期でもある。

「どうしても理解できない文法があって先生に質問したことがあったんです。先生の答えは『飛ばしていい、いつか分かるようになるから』。『分からなかったらもっとがんばりなさい』じゃなくて、『大丈夫、いつか分かるから』と言ってくれた先生は初めてで、物事の考え方、世界観まで変わったくらいに大きな影響を受けました」
短くも的確なそのアドバイスは今も高さんを支えている。
「漫画を描いていて、このエピソードをどうしたらスムーズに次につなげられるだろう、どう表現したらいいだろうと悩むことってよくあるんです。そんなときは一旦そのままにして、映画を見たり、山に登ったり、温泉に入ったり。全然違うことをしているうち、いつのまにか解決策が見えてくる。先生の言ったとおりでした」

「大学時代にはZINEや自費出版の本も作っていました。アイデア、ラフ、台割やスケジュールも同じバインダーに描いています。あ、これは『隙間』という漫画の元になった作品ですね。台湾の言葉では『間隙』です」
現在、3作目の長編漫画『百日珈琲』を連載中の高さん。漫画もイラストも、作画はフルデジタルだ。
「絵を描くのもスケジュール管理も基本的にはデジタルなので、ノートを開く機会は減りました。仕事で忙しくなった今、一番使っているのは『メモパッド』です」

「レターセットやメッセージカードも愛用しています。尊敬するクリエイターの方に初めて会うとき、どうしても緊張してしまって日本語を流暢に話せるか心配になってしまう。だから、愛とリスペクトは手紙に書いて渡すことにしています。細野晴臣さんのラジオ番組に呼んでいただいたときには、便箋5枚分の手紙を書いていってラジオで読み上げました」


そう言って見せてくれたボックスには、『竹紙便箋』(クラフトは終売。白い『竹紙便箋』が発売中)や『メッセージカード』などがぎっしり。
「絵を描くのが好きだから、自分でアレンジできるこの自由さがなにより気に入っています。どの紙に何色のペンで書こう、どのシールで封をしよう、と相手のことを考えながら選ぶのも幸せな時間。アイテムは変わっても、無印良品のシンプルな道具を使い続けると思います」

← 前の記事へ
← 前の記事へ



