「出産と育児がくれた“暮らしの再構築”」水谷妙子さん

「出産と育児がくれた“暮らしの再構築”」水谷妙子さん

おたより/心に余白を生む、整理と収納

2025/10/31

仕事や家事、あわただしい毎日の中で、自分自身と向き合う時間やゆとりはありますか? 暮らしの空間は私たちの心と深く繋がっています。この連載では、心がほぐれ、気持ちが落ち着く「整理と収納」を楽しむ方々を紹介します。第10回は、見た目の整え方ではなく、「誰でも戻せる」ための設計が暮らしの安心をつくるという元無印良品の商品企画&デザイナーの水谷さんのお宅を訪問しました。
(取材と文・竹村真奈 撮影・ふぁま)

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水谷妙子(みずたにたえこ)
無印良品で商品企画・デザインを13年間を務め、現在整理収納アドバイザーとして活動中。5人家族が整う 片づけ&モノ選びをテーマに活動。家族全員が動ける“見える仕組み”をデザインする。
Instagram:@monotokazoku


もともと片付けが苦手だったという水谷さん。変化をもたらしたものは。

「最初の子の誕生が大きな転機でしたね。産休に入って、“休みの間は家事を完璧にしよう”と思い込んでしまったんです。実際は寝たいときに寝られないし、母乳も出ないし、完璧を求めすぎて追い詰められて。まさに産後うつの状態でした。それを救ってくれたのが夫の言葉。『家事なんてしなくていい、生きてるだけでいい』と言ってくれて。その瞬間に肩の力が抜けました。家の中はダンボールだらけで洗濯物も山。でも、“整えなくていい”と思えたことで、初めて“暮らすこと”に戻れた気がしました。
下の子はよく寝る子で、上の子も保育園に行っていたから、少し余裕があって。そこで初めて“暮らしを整えること”に向き合いました。自分のモノから手放していって、いつか着ると思っていた服も減らして、なんとなく捨てちゃいけないと思っていたおもちゃの箱も処分して。“モノを減らす”というより、“思い込みを外す”作業だったと思います」

そこから暮らしを設計するという「仕組みづくり」の発想にいたった。

「無印良品で働いていた頃に学んだのは“設計する”という考え方でした。暮らしも設計できるんじゃないかと。感覚ではなく構造で整える。動線を観察して、詰まりをなくす。そうやって設計するように仕組みをつくったら、暮らしがぐっと楽になりました。復職後も、その考え方はすごく役立ちました。子どもが2人になっても、家事はむしろスムーズに回るようになった。収納棚を使って子どもの準備を見える化したり、ラベリングしたり。仕事で培った“設計思考”を暮らしに応用しました。“見える化”とよくいいますが「全部スケルトンにする」ことじゃないんです。大切なのは“誰が見てもわかる状態”。自分以外の人が片付けられる家。ティッシュを隠したり、キャラクターモノのおもちゃを排除したりしても暮らしはよくならない。使うモノは見えるところにあるのが自然。“生活感”を悪者にしない、そういう空間が好きです」

“余白”とは、そういう心の許容かもしれませんね。

「昔は“削ぐ”ことが美しいと思ってたけど、今は“残す理由があるモノ”を大切にしたい。暮らしには凹凸があっていい。余白とざらつき、その両方があるほうが落ち着くと思うんです。完璧を目指すより、続けられることが大切。昔の私は“全部ちゃんとやらなきゃ”と思ってたけど、今はできない日があっていい。余白があるから暮らしが回るんです。完璧に片付いてなくても、心に余裕があるほうが整っている。無印で学んだ設計的思考と、家庭で見つけた余白の思想。その両方が、今の私の暮らしを支えていると思います」

1. 家族でつくる暮らしのアイデア

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「下段の2つのボックスに洗濯が終わった衣類を私が長男次男に分けて入れています。あとは自分で畳んで衣類収納に片付けてね、というスタイルです。片付けおわったら何も入ってないボックスを棚に戻すだけ。このルーティンですね」

2. 商品を最大に生かす手段を発見する

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「上下で引っ掛けられる長さのあるフックを使って段差を付けながら帽子掛けにしています。要は同じ長さのフックで掛けると重なるじゃないですか。こういうちょっとした仕組みを考えるのが楽しいですね」

3. 商品を商品のまま使わない面白さ

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ストレスでしかないコード類の絡まり。「ひとつの商品が商品としてどんなに素晴らしくとも、それだけで解決するのは面白くない。どうしたら自分によりフィットできるかを考えたら100均のマグネットを使ってコードをまとめる収納にいきつきました」

4. 目印はあることに意味がある

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*写真はポリプロピレンファイルボックス・スタンダードタイプ・ワイド・1/2 クリア(現在は終売)

「収納ボックスの中身が空になったときに私はどこに戻すか覚えているけど、家族がわからない場合があるじゃないですか。なので​​ラベリングをしています。家族共有の場には、“書いてる”ってことに意味があるんです」

5. 一家に一個、マスキングテープ

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「ラベリングもプロが使う大袈裟なラベルライターじゃなく手軽なマスキングテープでいい。すぐ変えられて、誰でも書ける。完璧じゃない仕組みが一番いいんですよ。きれいに見せることが目的じゃないんです」

6. 見た目と生活感のせめぎ合いに意味はない

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キッチンカウンターに置かれた使用頻度の高いモノたち。「出しっぱなしでも日常的に必要で楽ならそれでいい。見たくないものを見ない・見せないっていうことには居心地の悪さを感じますね」

7. 家を整えるのに他人の目が役に立つ

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家が整っている状態とは? 「家に人をあげられたとき。家族の目線も大事ですが、自分たちはその環境に慣れすぎて気付かないけど、“客観”という文字の通り、客側から観られると、お客さんの動きを見たりして、家具動線など暮らしのヒントを得られることもあるんですよね」

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今日お話を伺って“暮らしが整うと家族も整う”という水谷さんの理念が伝わりました。「暮らしって、結局“観察”なんですよ。家族を観察して、自分を観察して、仕組みを変えていく。それを繰り返すことで、少しずつ“生きやすくなる”。それが私にとっての整理収納であり、ものづくりなんだと思います」


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