(閉)イデー東京

【IDÉE TOKYO】アーティスト・高山夏希 インタビュー(第1章)

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2022/07/13

IDÉE TOKYOに併設するIDÉE GALLERYでは2022年6月24日(金)から7月25日(月)まで、アーティスト・高山夏希さんの個展を開催中です。これに際して高山さんにお話しを伺いました。

第1章 作品のテーマ
第2章 現在のように制作するようになっていったきっかけ
第3章 アーティストとして活動するうえで大切にしていること



<第1章 作品のテーマ>
“その人なりの居場所が見つかる作品をつくりたい”




―この度は個展開催いただきありがとうございます。今回の展示会ではIDÉE TOKYOのテーマカラーのひとつである“黒”に焦点を当てての開催ですね。

ありがとうございます。実はIDÉE TOKYOさんがオープンしてからすぐに伺いました。いつかここでやってみたいなぁと思っていました。2016年に個展をしたミッドタウンの店内の印象とはちがって、全体的に黒い印象があって、この環境で自分が作るものがここにある必然性はなんだろうと考えて、私自身のなかでも思い入れのある“黒”をテーマにしようと思ったんです。それが展示したい意欲に繋がっていきました。

展示に際して黒を改めて考えたときに、黒は色なのかなという疑問が湧いてきたんです。黒は気配であって、色という認識より先立って記憶が回想するものではないかと考えました。

-もしかして、高山さんが普段着ている黒い衣服なども作品と関係していますか?

はい。とても関係していて、自分自身の纏ってる黒い服からも黒について考察しました。過去の作品にも、衣服や、装飾がテーマになっている作品があります。

学生時代に、私の作品を観た人が作品を語る中で装飾って言葉を使った人がいて、はじめ疑問を感じて、装飾ってなんだろうと気になって調べたんですよね。そしたら「装飾:Cosmetics」の語源にはギリシャ語の「Kosmetikos:飾ることに熟練した」という意味があって、これは「Kosmos:秩序」から派生した言葉だったんです。

この「Kosmos:秩序」の対義語が「Chaos:カオス,混沌」なんですが、「Kosmetikos:装飾」は「混沌:Chaos」を「Kosmos:コスモス,秩序の状態」にするものとされていたんです。宇宙や秩序という概念が語源になってくると、装飾って飾るといった一義的な意味だけではないと思ったんです。こういう根源的なところに帰っていったら、自分の作品へと言葉を受け入れられるようになりました

―装飾的というのは見た目を派手にするために飾り付けていることではなかったんですね。

宗教でも、ただ派手にしたくて飾り付けているのではなく、神さまに対する信仰心や思いの行為からだと思うんです。それは私が制作するときに、何層も絵具を塗り重ねたり、自らの手で残していくおもい想いとどこか繋がるものがあるように感じます。

自分自身の身に纏っている黒や、自然の中にある黒についても考えながら制作しました。黒の物質の中にも身を守るために媒体を染めるの黒や、生き物のなかにも潜在している色としても存在しています。だったり、暗闇に行きついたりしました。今回の展示でテーマとしている“黒”は、すごく私自身の黒い衣服への思い入れとも密接に関係しているんです。

 
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(今展に展示いただいている作品の一部。black viewとつけられたタイトルのとおり、黒の上にいくつもの色が混ざり、絡み合って広がっている。黒は色同士をつなぐ媒体のようにも捉えることができる。)


―ステートメントにも書かれていましたね。


日記のように書き始めている文章は初めて書きました。これは、子供の頃に熱を出してうなされて寝ていたときに見た夢の話なんです。

夢の中ですごく大きな球体が自分の方向に落ちてくるんですが、この球体を受け止めないと世界が消滅するという任務を私が担っているんですよ。落ちてきたものを受け止められたり、失敗したりを何度か繰り返していました。

明け方前くらいのまだ暗い時間帯にうなされて目が覚めたんですけど、夢なのか現実なのかを確かめたくて起きて、部屋を出てみました。寝起きでまだ目が慣れていなかったので、暗い家のなかに射し込むわずかな光が家具や物に当たって、そこだけ色を失って白く見えていました。それが白と黒の世界に見えたんです。それで「しまった!現実になっちゃった!おわったぁー!」と思ったんですよ(笑)本当に怖かった。

熱にうなされたときに普段意識しなかったものが見えてくることありませんか?そういう、日常のなかで違和感が生まれてつくったときに、新しいものが出来上がる気がします。見慣れ過ぎて見えていなかったものに解決のヒントがあったりするんです。救われる感覚とかも、普段盲目になっている中の自分のいちばん身近なところに落ちていたりするのかもしれないと考えたりします。

―お話し聴いていると高山さんはそういう解決のヒントを敏感に拾って繋いでいける方だと感じます。

岡山県津山市に奈義町現代美術館という建物と作品が一体となった美術館があるんです。そこへ行ったときに初めて、還る場所のような自分の居場所を見つけられたように感じたんです。目で見る以上のスピードで全身に感覚として入ってくる作品と出会って、とても強烈に残りました。こういう居場所みたいなものを自分もつくりたいんだと本来の自分自身へと立ち返るような瞬間でした。実際に救われたのが私の場合は美術だったんですが、人によって様々にあるはずです。その人が還る場所になるものを目指して制作してます。

 
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(美術に救われたと話す高山さん。アトリエのなかにはたくさんの画材のほかに、美術書や写真集が本棚に収まっていた。)

―今展のも含めてお訊ねしたいんですが、ステートメントは制作前に考えたのでしょうか?それとも後でしたか?

普段は作ってから書きますが、今回はステートメントが先です。実体験や、普段考えていることを書いた後に、制作しながら考えついたことを書き加えて最終的に完成しました。テーマにつながっている実体験があるんですよ。たとえば「闇夜の海」という部分には神奈川にある鵠沼海岸での体験が繋がっています。

樹脂作品を作るときには有毒ガスが発生するので鵠沼海岸に近いサーフボード職人さんに手伝ってもらって制作しているんです。海が近いので、暗い夜の海に行きました。普段から夜光虫を観るのが好きなんですが、その時も夜光虫に会うことができました。夜光虫って見たことありますか?

―見てみたいんですけど、まだないんですよ。

いないと思ってもじつは、よーくみるといるんですよ。海に入って黒い服とかですくうと、服の中できらきら光るんです。手ですくってもいいんですけど見づらいので、布とかですくったほうがわかりやすいです。何かがいるかのように思わせられる黒い海の中で実際に出会った体験があって暗い夜の海の奥行が実感として湧いてきて、制作や、文章の大切なキーワードになっていきました。

あと「自然豊かな場所で急に話かけられた」というのは、奈義町現代美術館のある岡山県へ行ったときにPORT ART&DESIGN TSUYAMA(岡山県津山市にあるアートギャラリー。津山市重要文化財『旧妹尾銀行林田支店』を芸術文化の交流センターとして活用し、2018年にオープンした)というギャラリーにも行ったんです。

こちらのギャラリーで館長の方とお話ししたあとに津山城へ行ったですけど、ヒールを履いていたのですごい脚が疲れてしまって。それで、そばにいた方に駅までいちばん近い道を尋ねたら「もしかして高山さんですか?」と言われたんです。その体験から全身黒い服が際立って人に見えたこと、普段東京で生活する中で、黒を着ることで紛れ込むような感覚があること、都市との深い結びつきがあるように思って書きました。

―過去の展示会で掲示していたステートメントも読みました。毎回すごく高い熱量で書き上げてらっしゃることを感じます。

文章も作品制作と同じだと思いますけど、私が誰かに一番伝えられる方法が制作なので、、改めて文章にすると難しいなって感じます。言葉ってすごく直接的なので文字にすると確実にその通りに受け取られてしまうから、慎重に書かないといけないと思っているんです。制作脳と文章脳が違うところにあるので、ずっと制作していると言葉にすることがすごく不安になります。作品だとなんとなく言葉にしきれない部分が表現できます。

私が意図した通りに意味を受け取ってもらうというよりかは、作品を主体的に鑑賞してもらいたいとおもって制作しているからこそ、自分がなにを意図しているか言葉に残してあげないと無責任になってしまうと思って毎回文章を作っています。


―今展の作品はかなり高山さんの個人的な実体験が基になっているんですね。高山さんの作品表現につながる原体験がおありだと思いますが、いかがでしょうか。

言葉にはできないけど感覚として残っている、強烈な実体験が節々にあります。例えば、家庭という小さい世界から見る大きな広い世界もモチーフになっていますが、直接的に作品化することはないんです。

そういう身近な誰かの孤独だったり、自分自身が感じるものだったり、生きていくなかでの人との距離感もですが、自分が実感の持てる問題意識と持てない問題意識は繋がっていないようで繋がっています。作りながら、目には見えないけれど深いところでは繋がっている世界があって。私が作らないといけないと感じる対象があるんです。

 
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(自然光の入る高山さんのアトリエ内は静かで穏やかな時間が流れている。床についた絵具の痕跡、大量の画材、制作中の作品に出会うと、深い森のなかへ入るときのような心地よい高揚感を抱いた。)

<つづく>
次は高山さんが現在のように制作するようになっていったきっかけと、アーティストとして大切にされていることについてお伺いします。

第1章 作品のテーマ
第2章 現在のように制作するようになっていったきっかけ
第3章 アーティストとして活動するうえで大切にしていること


高山さんの展示会は2022年7月25日(月)まで開催中です。ぜひご覧ください。


instagram
IDÉE TOKYO @ideetokyo
高山夏希さん @natsuki_takayama

【Natsuki Takayama Exhibition “black view” 】
会期 2022年6月24日(金)~7月25日(月)
時間 10:00 - 21:00
在廊日 7月18日(月・祝)

<お店への行き方>
○場所
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京 B1F スクエアゼロエリア 48番

①丸の内地下中央口から
改札入場後、銀の鈴待ち合わせ場所方面に直進。左手のはせがわ酒店を越えたら左折して直進。ピエール・エルメ隣。

②グランスタ地下北口から
八重洲・丸の内連結通路途中のグランスタ地下北口から入場し直進。右手のガトーフェスタ・ハラダをこえて左手。
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