(閉)イデー東京

【IDÉE TOKYO】画家・原陽子インタビュー 後編

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2022/05/06

IDÉE TOKYO併設のIDÉE GALLERYにて、2022年4月14日(木)から5月17日(火)まで画家・原陽子さんの個展“Future days”を開催中です。96年に武蔵野美術大学大学院を卒業されてから、銅版画やモノタイプという技法でもって多様な色の重なりのある作品をつくる原さん。国内のみならず海外にもファンの多い方です。

そんな原さんに作品をつくるようになったきっかけや技法、生活と制作のつながりについて、アトリエにお邪魔してお話しを伺いました。

〇前編はこちら

―制作についてお聴きしたいです。銅版画という名前は聞いたことがあるんですが、どうやって作っているんでしょうか?

銅板を彫ったり専用の薬剤で腐食させたりして凹みをつくり、そこに油性インクを詰めてプレス機で圧力を加えて紙に写し取ります。版画のインクは油性なので、実は油絵具でも刷ることができます。顔料とオイルの配分が違うだけなんですよ。


 
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(複数の版を重ねて刷ることで奥行感とマチエールのある作品が出来上がる)


 
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(薬剤によって凹んだ黒い部分にインクを詰めていく)


刷り台に版を置いて、色決めしたら凹んでいるところにインクを詰めます。版に黒くザラザラしているところがありますよね。これが腐食して凹んでいるところです。ここにインクが詰まるようになっています。ひとつだけではなく、いくつかの版を重ねて刷ることもあります。インクを詰めたら銅板→湿した紙→あて紙→フェルトの順で被せて、シリンダーの圧をかけて紙に写し取っていきます。

 
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(プレス機をデモ操作していただいた。かなり大きな手動式機械を一人で操作する)

 
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(銅板と刷りあがった作品。一枚刷るごとに版を変えて同じ操作を繰り返す)

 
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(複数の版で刷ることで奥行きが生まれる。この場合、2枚の銅板で1枚の作品が出来上がった)



―原さんの作品はタイトルにも惹かれます。たとえば「かこむ」にはどんな経緯があったのでしょうか?

認知症の父が拾ってきた石をサークル状にかこんでいたところからです。家の中や玄関先にサークルをつくるんですよ。あと、妄想とかも出てくるので、例えば家に3人しかいないのに「あいつらいるんだから椅子ちょっと持って来いよ」と言って、いない人の分まで椅子を用意させてテーブルの周りを囲んでいたりしています。

私には見えない存在をなにか召喚してるのかなぁ、呼んでるのかなぁって不思議でした。石に限らず、いろんなものを出しては並べて、というのを繰り返しています。


 
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(かこむno.1  銅版画)


 
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(かこむ no.17  モノタイプ)
 

 
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(かこむ no.5  モノタイプ)
 
 
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(かこむ no.6  モノタイプ)



―それが作品のイメージにつながるんですね。

2年前に兄が亡くなったんです。そのときに兄が搬送された病院の先生から両親が認知症であることを告げられました。それ以後週に数回、実家へ帰るようになりました。

母は、最初のころはまだだいぶ話が通じていたのですが、兄が亡くなってしばらくすると転げ落ちるように症状が進んでいきました。父は、兄は仕事に行っていると思っているようで「あいつ帰ってくるまで待ったほうがいいんじゃないの」と暫く言っていました。

家もだんだん荒れてきたり、そこに置かれるものではないものが置かれていたりする。母の布団の周りが涅槃図のように野菜で囲まれていたり、父の枕元につるはしが置かれていたり。

認知症のひとに怒ったりしちゃいけないって言うじゃないですか。頭ではわかっているけれど、そんなこと言っていられないくらいになって大喧嘩もありました。「あなたが来ることで私たちの平穏な生活が乱される」と言われていました。親にとって私は「不要不急」の人物です。

「親の介護」に直面し戸惑いもある中、どこかで自分はちゃんとしていないという意識が根底にあるので、社会人としてどうなのかという引け目もあって、正直なところ「絵を描いている場合なのかな・・・」って思ったりもしました。実家に帰らないといけないかな、などとためらっているうちに新型コロナウイルスの蔓延が始まりました。


―かなり原さんの生活と制作は密接なつながりがありますね。

そうですね。日々の生活での出来事は、制作の大きな土台に繋がっています。

私はモンティ・パイソンが好きなんですけど、彼らの映画「Life of Brian」の中で最後のシーンで使われる“Always Look On The Brightside Of Life(どんなときも人生の輝かしいときを見つめよう)”という歌が好きで、たまにサントラ盤で聞いています。

人生はとてつもなく不条理ならば、たまには明るいほうだけ見ていてもいいんじゃないかと。それを思い出して、“もういっそのことネタにすればいいじゃん、これ描こう!”って。それで描き出しました。ただ開き直っただけなんですけどね。(笑)


 
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(ならべる no.2  モノタイプ)
 

 
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(ならべる no.3  モノタイプ)


 
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 (ならべる no.1  モノタイプ)

―なにかしらの形で外に出していきたいというときに、版画というやり方が原さんのパーソナリティと一致するものがあります。心の中に溜まっていくものを昇華していく方法が制作なのかなと思いました。厳しい時期こそ無理やり制作していく状況に持って行くんですね。

それはあります。どんと構えて物事がやって来るのを待つというタイプではないです。待っていてもなにも動かないんです。自分で動かないと展示や仕事に繋がっていかない。緊急事態宣言のときに個展をやったことで気持ちもまぎれました。なにもしないとどんどん塞いでいってしまうので、無理してでも動いてよかったです。

-これから先で動いていきたいこと、やっていきたいことはなにかありますか?

本が好きなので、ぜひ本に関わるお仕事をやりたいです!

 

思いもよらなかった出来事を経験しながらも、ユーモアを持ち続けて制作をされている原さん。どんなときでも大切なのは、好きなことを続けていくことかもしれません。

原さんがつくる作品はどれも色鮮やかで、それでいて見ているとホッとするような、嬉しくなるような奥行感のある色彩です。会期は5月17日(火)21時まで。ぜひIDÉE GALLERYにお立ち寄りいただき、実物をご覧ください。


【原陽子 個展 “Future days”】
期間:2022年4月14日(木)~5月17日(火)
場所:IDÉE TOKYO


<もう一度読む>
〇前編 作品をつくるようになったきっかけや技法
〇後編 生活と制作のつながり



<お店への行き方>
○場所
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東日本東京駅改札内
グランスタ東京 B1F スクエアゼロエリア 48番

①丸の内地下中央口から
改札入場後、銀の鈴待ち合わせ場所方面に直進。左手のはせがわ酒店を越えたら左折して直進。ピエール・エルメ隣。

②グランスタ地下北口から
八重洲・丸の内連結通路途中のグランスタ地下北口から入場し直進。右手のガトーフェスタ・ハラダをこえて左手。
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