朝9時。太陽光がハウス内を照らし始めると、片隅に設えられた巣箱からせっせとミツバチが出勤していきます。いちごの近くにはカマキリやテントウムシなど、無数の虫たちの姿も。伊世いちご畑のハウス内には、驚くような生物多様性の光景が広がっていました。
「この小さな虫たちの一匹でも欠けたら、うちのいちご栽培は成り立たないんです。ここの生態系を崩さないためには、一つの害虫に効くというだけの農薬でも使うことはできません」そう話すのは「伊世いちご畑」の伊世真理子さんです。
いちごに付くアブラムシをテントウムシが食べ、病原菌と小さな虫や土着菌が戦い、ミツバチがいちごの花にせっせと受粉する。「私たちの仕事は、そんな生態系を見守ることです。何も足さない。何も引かない。」真理子さんがそう話す通り、伊世いちご畑では自然の生態系のサイクルのなかでいちごが育っていく様子が見てとれます。
「もちろん農業としてやっているので、いちごが元気においしく育つように、余計な芽を摘んだりといった作業は欠かせませんよ」
そう笑顔でいちごに向き合う姿からは農薬を使用しない苦労が感じられませんが、簡単にここまで辿り着いたわけではありませんでした。
元々、流通業での要職を務めていた伊世夫妻が、いちご農家に転身をしたのは2010年のこと。はじめは一般的な慣行農法でのいちご栽培を学んだそうですが、農薬を使用する度に園主であり夫の義行さんの体がアレルギー反応を示すことから、なんとか農薬を使わない栽培法を模索するようにになったといいます。
「実際、農薬を使わなかったら、病気になるやつもいれば、病気にならないやつもいたんですよ。そんな強い株から子孫を残していけば、病気に強い株が育っていくんじゃないかって」と義行さん。
そんな仮説から翌年、また翌年と強い株から種を採り、育苗を続けていきました。
初めのうちは春先に病気が蔓延し全滅したこともあったそうです。そんな時も、慌てて農薬を使用することなく、粘り強く観察し、豊かな生態系を維持しながら、病気に強い株を選別し育てていくことに専念していった結果、オーガニックいちごの持続的な栽培に成功するようになりました。
驚くことに肥料についてもあえて入れることはしていないこと。
「むしろ肥料を入れない方が、いちごがおいしくなったんです。肥料を入れていた頃はむしろリン酸過多だったようです」(義行さん)
シーズンを終えた後には雑草がぼうぼうに生えるそうですが、それを刈りとってまた土にすき込むことで、土着菌が生き生きと働き、また豊かな土に戻るんだそうです。
もはや自然農に近い栽培法ですが、伊世夫妻は農“業”としてのスタンスを崩しません。対外的な認証がなければ認められないと、国の指定するオーガニック農産物としての証である「有機JAS認証」を取得。さらに年2回、世界標準300項目の農薬成分・禁止化学物質が含まれていないことを確認する検査を実施しています。
「自然農だからといって農“業”としてやっていくには妥協は許されません。自信をもって安心・安全のいちごをお届けするためです」
そう夫妻が話す「伊世いちご畑」のいちごは、見た目・大きさについても、これがオーガニック?ときっと驚かされるはずです。是非、一度ご賞味ください。