小豆島では古くから塩作りが盛んで、江戸時代には幕府への献上品にもなっていました。しかし、特産は加工品である醤油へと移行していき、いつしか塩屋は島から消えてしまいました。
そして、かれこれ40年ぶりに塩作りを復活させたのが、蒲敏樹さんでした。きっかけは、「瀬戸内海をじっと見ていたら、中学の自由研究で行った塩作りを思い出したんです」。
夏場は40℃を越す小屋の中。過酷な状況下でも、24時間365日火を炊き続けることによって窯自体にミネラルやカルシウムなどが付着し、白い塩を生み出すようになるのだそう。
敏樹さんは、1日に何度も窯の様子を見て、浮いてきたカルシウムを取り除きます。「口に入れても溶けないので、取り除かなければもさもさとした悪い舌触りになってしまうんです」。
「何にもないんだけどね」、と言いながら台所に立つ奥さん・和美さんの手にかかると、ニンジンの葉だって塩むすびだって、時間をかけて頂きたくなる“ごちそう”だと、はっとします。
丸みを帯びた舌触りのお塩。“当たり前”のおむすびも、ちょっぴりいつもと違った表情を見せる。『御塩』の密やかなマジックは、ふたりの人柄が生み出すものなのでしょうか。