阿武隈川の扇状地に位置し、夏は暑く、冬は寒すぎないという福島盆地の気候は、様々なフルーツの栽培を可能にしています。また、飯坂温泉、高湯温泉、土湯温泉など泉源にも恵まれた土地柄、観光客へ絶え間なく季節の果実を提供してきた背景から、手間はかかるものの当たり前のように多品種の果樹を手掛けている農家さんが多いとか。
「農家ごとにここまで多品種の果物を手掛けるのも、他県には珍しいことなのかもしれません。ただ、それができるのも気候と土壌に恵まれてきたからこそ。私たちは、そんな土地で農業を続けていくための自信と確信を取り戻したかったんです」
今でこそ笑顔で当時のことを振り返る高橋さんですが、震災直後はとても落胆しており「農業のことより、夫は大丈夫かしら?と思った」と奥さんに言われるほど、憔悴していたそうです。
見えない恐怖に立ち向かうべく、まずは若手農家たちで「ふくしま土壌クラブ」を起ち上げ、放射能についての正しい知識を得ることから始めます。その後、14,000か所もの土壌の放射線量を測定。検出されたのは微量で、果実への悪影響はほぼないといわれていましたが、高橋さんは表土をすべて削ることを決断します。
高橋さんは、全ての樹木の洗浄と粗皮を削る処置も断行。さらに表土を削る作業も行い、これからもずっとこの土地で安心して農業を続けていくために、可能な限り果実への影響を除去していきました。
こうして土壌、果実から検出される放射線はほぼ不検出となり、自信を取り戻していった高橋さん。今では震災前以上に近隣の農家と協力し合い、果樹にもより一層の愛情を注ぐようになったといいます。苦難を共に乗り越えてきた福島県の果実には、美味しさ以上の想いが詰まっています。