“あの日”の記憶を形に。里山の風景を守り、おじいちゃんの味を届けたい。【あの日、屋】の純なめこ

“あの日”の記憶を形に。里山の風景を守り、おじいちゃんの味を届けたい。【あの日、屋】の純なめこ

諸国良品

2024/09/01

誰しも記憶の片隅に残る“あの日”の風景。入道雲が見える夏の日か、音もなく雪が降る冬の日か。それが、竹内俊哉さんにとっては、おじいちゃんの畑があった故郷、新潟の里山風景でした。裏山に降り注いだ雨が田畑をうるおし、人が耕すことで綺麗に保たれてきた里山。そこでつくっていたおじいちゃんの野菜は驚くほど味が濃く、家族そろっての思い出の味だったそうです。おじいちゃんの味を紡ぎ、人の営みによって美しい里山の風景を残していきたい。そんな想いで竹内さんが立ち上げたのが【あの日、屋】でした。

記事内画像:001 “あの日”の記憶を形に。里山の風景を守り、おじいちゃんの味を届けたい。【あの日、屋】の純なめこ

新潟県三条市。金属加工の集積地としても知られる土地柄ですが、少し郊外へ車を走らせると、豊かな里山の風景が残っています。この光景が竹内さんが幼い頃によく連れて行ってもらったおじいちゃんの畑のある里山とシンクロしたんだとか。大学卒業後、就職で大手電機メーカーに勤めていた竹内さん。「いつかは自分で仕事をつくり、自分の仕事をしてみたい」と考えていた彼の元に、この土地で農業をやってみないかという話が舞い込んできたとき、二つ返事で引き受けたのも、そんな原体験があったからでした。

数ある農作物のなかでも、まずはなめこからつくり始めた訳は「おじいちゃんがつくっていて、20年以上経ってもその味が忘れられないから」。ただ、なめこ農家というのは減りゆく一方で、なめこでの新規就農者というのは皆無の状況。教えを乞うことも困難ななか、隣町の山菜農家がなめこを栽培していることを聞きつけ、そこで食べさせてもらったなめこがこれまた衝撃的な味だったそうです。通常のなめこの5倍以上の大きさ、肉厚で旨みも凝縮されており、これが露地で栽培されたなめこでした。

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一般的ななめこは施設内での菌床栽培で、温度と湿度を管理することで1年通した栽培を可能にしています。竹内さんはあえて菌床による露路栽培で、陽に当て、寒暖差の大きい厳しい環境にさらすことで、自然と間引かれ大きく成長するなめこを実現したのです。それも栽培期間中、農薬など不使用というから驚きです。

「おじいちゃんがつくっていたのは原木栽培でしたが、それでは採算が合わない。ただ、あの日におじいちゃんがつくってくれていたなめこの味に少しは近づけたかなと思っています」
露地栽培なので秋にしか食べられない【あの日、屋】のなめこ。おみそ汁はもちろん、贅沢になめこ鍋にして食べるのもオススメです。

【あの日、屋】では、あの日おじいちゃんがつくっていた野菜の味を再現するために、夏場にはなすも栽培しています。なかでも「越後白なす」は新潟県で長年栽培されている固定種で、栽培が非常に難しく、市場になかなか出回らないため「幻のなす」とも呼ばれています。果肉は緻密で、焼いて良し、揚げて良し。加熱するとトロリとした口当たりに変わり、甘みが引き立つ濃厚な味わいが楽しめます。

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「この地域はまだ里山の風景が残っていますが、実際は高齢や体調不良を理由に農業をやめるという農家さんがたくさんいるんです。人の営みがあってこそのこの光景なので、今がまさに待ったなしの状況。そのために、農業をやりたいという同志を増やすべく、機械や販路を共有したり、イベント的に農作業を楽しめる仕組みをつくっていきたいです」

そんな想いに共感するように、竹内さんの回りには農家の同志含め、デザイナーやカメラマン、料理家などさまざまな人材が集まってきています。新しい農業のカタチを模索しながら、あの日の風景を守るために、竹内さんたちは奔走しています。

生産者紹介

  • 【あの日、屋】たけちょう商店

    生産者名 【あの日、屋】たけちょう商店 詳細

    発起人は竹内俊哉さん。母子家庭で育ち、祖父がつくっていた味の濃い野菜を食べて育つ。工業系の大学を卒業後、大手電機メーカーに就職。6年働いたのち、母親が経営するスナックで働きながら、日々経営者と触れ会うことで「いつかは自分で仕事をつくり、自分の仕事をしてみたい」と考えるように。そんな折、スナックのお客さんから農業をやらないかという話が舞い込み、二つ返事で受諾。菌床路地栽培で差別化したなめこを栽培し、越後白なすなど伝統野菜も手掛けています。祖父がつくっていた味を再現し、美しい里山を保っていくために奔走中。

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