ふわりと軽い天然繊維
無印良品では、木の実から生まれる繊維素材「カポック」を様々な製品に用いています。カポックはインドネシアをはじめ、東南アジアに広く生育する樹木です。病害虫に強いため、農薬をほとんど使用することなく、少ない水や肥料で育ちます。
その上、葉だけでなく幹にも葉緑素を持っているので、多くの二酸化炭素を吸収してくれます。木の実を収穫してそのワタを利用するため、幹を伐採する必要がなく、環境負荷が非常に少ない素材として注目されています。
カポックを使ったシャツや薄掛ふとん、敷パッドなどの寝具。
このカポックから生まれる繊維の特徴は、とても軽いということ。世界で最も軽い天然繊維のひとつともいわれ、その重さはコットンのわずか1/8ほどです。古くからその軽さが重宝され、化学繊維に置き換わる前には、枕の中綿や救命胴衣の詰め物として利用されていました。今でも船舶に関係する方々は、救命胴衣のことをカポックと呼んでいるそうです。
また、木の実から採れるワタ(繊維)の中が空洞のため、空気を多く含む特徴があり、寒い時には湿気を吸い、保温を助け、暑い時には湿気を放出し、快適な状態を保つことができます。
無印良品ではこのカポックを衣服や寝具などに用いて製品としています。
木の実が糸になるまで
無印良品で使用するカポックの多くが収穫されるインドネシア。世界第4位の人口を誇る国です。大小17,500以上の島々からなり、300以上の民族が居住する多様性にとんだ国でもあります(出典:国土交通省国土政策局)。
乾季の終わりにあたる9月、このインドネシアを訪ねました。街には車以上に多くのバイクが行き交い、スパイス市場から発展したというマーケットには人が溢れかえっていて、これから発展していこうという人々の活力を感じます。
大きなカポックの木。カポックの実の収穫は、木の実を竿を使って落とす役割と、地面に落ちてきたカポックを拾う役割に分かれ、抜群のコンビネーションで行われる。
けれど都市部からカポック農園がある郊外へと進むにつれて、のどかな田園風景が続くようになります。やがて車窓に目をやると、道路の傍らに大きなカポックの木が実をつけていることに気づきました。巨大なカポックの木はインドネシアの人々にとって決して特別なものではなく、人々の暮らしの中に自然に存在していました。
カポック収穫を担うのは地元の兼業農家の方々。
農園では、人々を見守るように佇むカポックの大木に茶色く熟した実がたわわにみのり、収穫を待っています。収穫するのは主に地元の農家の方々。自然のままで育つカポックは手間要らずで、普段は畑を耕す農家が、収穫期だけは兼業でカポックの実を集めるのだといいます。
カポックの実からワタを取り出す作業は「クラッキング」と呼ばれる。
カポックのワタを乾燥させる「サンドライ」の様子。専用の熊手を使って撹拌する。舞い上がるワタの様子からカポック繊維の軽さが伝わってくる。
収穫されたカポックの実は、加工工場へと運ばれます。工場とはいっても、そのほとんどは煉瓦作りの昔からある加工場です。ここでは熟したカポックの鞘(さや)を割り、中のワタを取り出す工程が手作業で行われていました。
取り出したワタは太陽の下で乾燥させる「サンドライ」という工程を経て、風を吹かせて品質を仕分ける「ブロウ」という工程へと移されます。風に乗って遠くへ運ばれた繊維ほど軽いというわけです。
カポック繊維の紡績には特別な技術が必要不可欠。
出来上がったカポックの糸。ここから様々な製品が生まれる。
こうして集められた質の高いカポック繊維だけが、糸を作る紡績工場へと運ばれます。カポックの紡績には特別な工夫が施されています。軽くて繊維長の短いカポックは撚り合わせて糸にするのがとても困難なのです。ですから、このカポックの繊維をコットンの繊維で巻き込むようにして紡績するという高い技術が必要になります。
この技術によって、これまで主に中綿としての使用が中心だったカポックに、糸として利用するという新しい光を当てることができるようになりました。
こうして生まれたカポックの糸は、無印良品の服飾雑貨や寝具などの製品に活用されています。
【特集】
軽くてやわらかい天然素材「カポック」