「本当の自由は、記号性のない服をいかに上手に着遊ぶか」 梶 雄太(スタイリスト)

梶雄太

おたより/私がMUJIを着る理由

2025/01/26

MUJIを着るひとは、なぜMUJIを選ぶのだろう。ベーシックなデザインや自然の素材、朝、袖を通したときの感触や気分、店やスタッフから漂う空気やたたずまい…一人ひとりにMUJIの服を選ぶ理由がある。連載2回目はスタイリスト梶 雄太さんにその「ワケ」を聞いてみた。MUJI Laboの春夏コレクションのリネンからキューバのリネンとヘミングウェイを思い浮かべるなど、ファッションを楽しむ自由さに刺激されるはず。(取材・小柳美佳 撮影・日野敦友)



梶 雄太
かじ・ゆうた。東京都生まれ。1998年よりスタイリストとして始動。雑誌や広告、ブランドディレクション、FC東京のヴィジュアルを手がけるなど幅広く活動。自身が編集長を務めるマガジン『編集長』では、小説執筆や対談のホストなど縦横無尽に活躍中。昨年購入したMUJI Laboのリネンクッションが最近のお気に入り。インスタグラム:@yutakaji_
 

 

「茶色い車から茶色いコートが出てきたら面白いと思って」

 

「僕は茶色の車に乗っているのですが、その車と似た色のコートを着て出てきたら面白いと思ったんです」
 MUJI Laboのリニューアルコレクションとなる2024年秋冬シーズンのカシミヤ混チェスターコート(現在は販売終了)を愛用している梶さん。色が好きな車同様、赤みがかったダークブラウンの発色が気に入っている。
「このコートはこの冬よく着ています。温暖化の影響もあって、ロングコートはスタイルとしてはいいけれど、実用的ではない。だけど、このコートは、ロング丈なのに軽やか。再生ウール・カシミヤの素材感もいいし、デザインも洗練されている。僕自身は、コートは高いものとして見てきた世代なので、プライスが破格。10代〜20代後半の若い人にとっても買いやすいのがいいですね」
 スタイリストという職業柄、たくさんの洋服に触れてきた梶さん。本日、MUJI Laboの2025年春夏コレクションから選んだのが、リネンのセットアップだ。


 

梶雄太

 

「日々のコーディネートって、僕の礎というか自分が洋服に対してすごく多感だった時期の潜在的に入っている何かと、現在の気分を擦り合わせて出来ると思うんです。MUJI Laboのリネンは、ライフスタイルより、遊牧民のリネンのイメージ。上質や天然ではなく、ラルフ ローレンのようなキューバのリネンとして解釈したいなと思いました。だから、白いスニーカーと合わせて、ちょっとヘミングウェイというか、避暑地みたいなムードが漂えばいいなと。ただ、それだけだとつまらないから、そこに三浦カズが入ってくる感じです」
 不世出の作家とカリスマサッカー選手。リネンのセットアップから広がる豊かな想像力に驚かされる。
「同列じゃなくても異物と合わせることで新しいものになる。だから同じ文脈すぎると結局そのゾーンから抜けられない。そうするとあまりファッションにはならない気がします。単純なコスプレになってしまうというか。ファッションは、2025年に何をどう体現するかが面白いと思うので、例えば、そのアイテムが何かの模倣や、過去にインスピレーション源があったとしても、それをいま僕が着るとどうなるかで、初めて着る意味が出てくると思うんです。そこまでの持っていき方はそれぞれオリジナルでいい」

 
梶雄太
 
梶雄太

リネンは再生素材を一部使用。回収したリネン製品や生地を粉砕し、再度紡績した糸で織り上げている。

 

「いくつになっても、好きなものを悠々自適に着ていたい」


 ベージュのセットアップに合わせたのは、梶さんのユニフォームとも言えるスウェットシャツ。襟元からボーダーのカットソーを覗かせた。スウェットやキャップは、365日中340日ほど身につけている彼の根幹ともいえるスタイルだ。
「僕らの世代は、大人になったら良いものを着なければならないというセオリーがあった。昔の雑誌を見ても名品推しが多いですよね。だけど以前からそれは僕の中で首を捻ることがあって。高い服を着た人がお洒落みたいな図式に違和感があった。キャップにスウェットにデニムって、小学生でも出来る格好ですけど、好きなカジュアルを大人になっても悠々自適に着ていることが、自分がやりたかったことなのかなと。
もちろんたまには上質なニットやコートを着ることも大事ですが、ずっと自由な格好が選べる僕だからこそ、醸し出せる何かが出るといいなとは思っています」
 だからなのか、デニムもスウェットも希少なヴィンテージにはこだわらず、「今すぐにみんなが買えるものが好き」という。ゆえに現行もの、ごく“普通”のボディブランドを愛用する。

 
梶雄太

キャップ、スウェットシャツ、ソックスはブルーで統一。足元は軽快に白スニーカーで(すべて梶さん私物)
 

 

 
梶雄太


記号性のない服をどれだけ上手に着遊ぶか


 普通の人の日常が面白いから、服に乗る情報をなるべく削ぎ落とせば着る人がもっと自由になれると語る。その考えは、MUJIのファッションと親和性があるのかも。そう話を向けると、
「例えばあるメゾンブランドにはデザイナーのアイデンティティや背景がある。その時点で着る人の心がその物語に傾いているので、着る側が完全にフリーではないなと思う。一方、無印良品のような記号性のない服をどれだけ上手に着遊ぶかというのが本当に自由なんじゃないかな。情報の少ない服をどう自分らしく楽しむかというのが、一番洒落が効いていますよね」

 

 

MUJI Labo 2025年春夏コレクションから、梶さんがピックアップしたアイテム

 

1.
コットンローゲージニット長袖プルオーバー

梶雄太

「“避暑地”感のあるニットはデニムと合わせて着たい」。リネンのような心地よい肌触りが特長のニットは、見た目も涼しげ。

 

2.
和紙混デニム5ポケットワイドパンツ

梶雄太

「ラベルもない。ここまで何もないのが潔くて好きです」。日本で漉き上げられた和紙と綿を混ぜて織った生地は、軽く、さらりとした風合い。

 

3.
軽量撥水ナイロンフード付きコート

梶雄太
 
梶雄太

「MUJIはグレーの選び方がいいですね。綺麗な色味で軽やか」。薄く、コンパクトに畳めるため、突然の小雨にも重宝する。(2月中旬発売予定)

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