暮らしのQ&A
秋こそ眠りを見直す季節。質の良い睡眠を育む一日の習慣

2026/10/18
取材と文/秦レンナ キービジュアル撮影・田上浩一
みはし・みほ 快眠セラピスト、睡眠環境プランナー。寝具メーカーの研究開発部長を経て、2003年に独立。これまで1万人以上の眠りの悩みに向き合い、講演や執筆などを通じて快眠のための工夫を伝えている。寝具や快眠グッズの開発、ホテルの客室コーディネートなども手がける。著書に『オトナ女子の不調と疲れに効く 眠りにいいこと100』(かんき出版)など。
「質の良い睡眠」とは
「質の良い睡眠」という言葉はよく耳にしますが、実際に自分がよく眠れているかどうかは、判断しにくいもの。そもそも、どのような状態を指すのでしょうか。
「朝起きたときに、『よく休めたな』と感じられる。こうした感覚を、『睡眠休養感』といい、質の良い睡眠の指標として、厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』でも重視されています。何時間眠ったかだけでなく、目覚めたときのスッキリ感や、日中に強い眠気がないかも、自分の眠りの質を知る手がかりになります」

朝起きても重だるい、疲れが残っているという人は、睡眠を見直すべきサインです。
「睡眠を良くしようとすると、寝具や睡眠グッズに目が向きがちですが、まずは、睡眠時間を延ばすことが最重要。適切な睡眠時間は人によって異なりますが、20〜50代なら7〜8時間ほど、60歳以降なら6〜7時間ほどが目安といわれています。朝の休養感や日中の状態を確かめながら、自分に必要な睡眠時間を考えていきましょう」
日本の働き世代の1日の平均睡眠時間は7時間未満であり、慢性的に睡眠時間が不足しているというデータも。「30分でも1時間でも長く眠ることで、休養感が変わることがあります」と、三橋さんは話します。
休日の「寝だめ」で、寝不足は補える?
「質の良い睡眠」のためには、十分な睡眠時間を確保するとともに、睡眠リズムを整えることも大切です。
例えば、平日に十分眠れないと、休日にまとめて眠りたくなるもの。三橋さんによると、寝だめは、不足した睡眠=「睡眠負債」を取り戻すために有効な手段ではあるものの、起床時刻が大きくずれると体内時計も乱れ、逆に睡眠の質を落としかねないといいます。
「休日に少し長く眠るとしても、起床時刻の平日との差は1時間以内に収めるのが理想です。土日に休む場合、土曜日に不足した睡眠を補い、日曜日は翌週に向けてリズムを整える、という考え方もできます」

三橋さんによると、体内時計のリズムを保ちながら寝不足を解消するには、「まず一度起きる」のがおすすめ。
「一旦、いつもと同じ時間に起き、太陽の光を浴び、朝食をとって、体内時計を整える。それでも眠ければ、午前中にもう一度眠るようにしましょう。午前中の睡眠は、夜に影響しにくいので、睡眠の質を下げる心配もありません」
睡眠負債が長く続くと心身の不調につながることもあります。休日だけで取り戻そうとするのではなく、普段から少しずつでも睡眠時間を確保できるよう、生活を組み立て直すようにしましょう。
良い眠りをつくる、一日の過ごし方
「実は日々の生活習慣が、睡眠に大きく関わっています」と、三橋さん。心地良く眠るための準備は、朝、目が覚めたときから始まっているのです。質の良い睡眠のために、一日の中でどんなことを意識するといいのでしょうか。
起きたらまず、朝日を浴びる
「朝の光には、体内時計を整える役割があります。体内時計とは、眠る・起きるタイミングや、体温、ホルモン分泌など、一日のリズムを調整する仕組みです。脳だけでなく、胃腸や肝臓をはじめ、全身に備わっていて、脳にある時計が全体のリズムをまとめています。
朝、光を浴びることで、この時計に一日の始まりを知らせます。すると、眠りを促すホルモン『メラトニン』の分泌が抑えられ、体が活動する状態に切り替わります。それから14〜16時間ほどたつと、再びメラトニンが分泌され、自然と眠くなるんです。
夜、心地良く眠るためにも、毎朝なるべく同じ時刻に起きて、光を浴びる習慣をつけたいですね。
日の出が遅くなる秋も、起きたらカーテンを開け、明るい窓辺で過ごすなど、日の光を取り入れることを意識してみてください」

朝食をとって、体内時計をリセット
「朝の光を浴びたら、朝食をとることも大切です。食事をとって胃腸が動くと、全身の体内時計がリセットされ、脳の時計と足並みがそろっていきます。こうして睡眠や体温、ホルモン分泌のリズムが整えることが、一日を生き生きと過ごすことにつながります。
朝食に取り入れたいのが、タンパク質が豊富なメニュー。タンパク質に含まれる必須アミノ酸のトリプトファンは、メラトニンの材料になります。また、食物繊維や炭水化物も合わせて、バランスよく食べることが基本です。

食事を用意するのが難しいときは、タンパク質や食物繊維をとれる冷凍おにぎりに、インスタントのスープや味噌汁を添えるなど、手軽に食べられるものを活用してみましょう。忙しい朝の味方になってくれます」
昼寝は、午後3時までに
「午後に眠気を感じるとき、短い昼寝は、逆に脳の疲れを休める助けになります。ただし、遅い時間や長すぎる昼寝は夜の眠りに響くため、午後3時までに15〜20分ほど、深い睡眠に入る前に起きるのがポイントです。
短く休むことで、午後の集中力も高まりやすくなります。年配の方は深い睡眠に入るまで時間がかかるので、20〜30分ほどを目安にしてください」
夕方には、適度に体を動かす
「夕方体を動かすことは、夜の眠りの準備になります。眠気に関わるのは、体の内部の温度である『深部体温』の変化。夕方に運動して体温を上げると、その後下がっていくときに、ぐっすり眠りやすくなります。
運動の強さにもよりますが、就寝の3〜4時間前までが目安。24時に眠るなら、20時ごろまでに終えるとよいですね」
午後のお茶は、カフェインを意識して
「コーヒーやお茶に含まれるカフェインには、眠気を抑える働きがあります。その影響が体内で半分になるまでには、3〜7時間ほどかかり、敏感な人ではもっと長く続くこともあります。午後3時のおやつ以降は、飲み物をノンカフェインに切り替えることをすすめています」

眠りを整えることが、日々の充実につながる
睡眠時間を確保する、朝の光を浴びる、朝食をとる。日々の習慣を見直すことは、眠りだけでなく、起きている時間を充実させることにもつながります。三橋さんは、睡眠が一日、そして人生に与える影響について、こう話します。
「睡眠は、一日の、そして人生の3分の1を占めます。その眠りによって、残りの3分の2の集中力や判断力、気分も変わってくるんです。仕事をしたり、好きなことを楽しんだりする時間を充実させるためにも、自分に必要な睡眠時間を確保して、睡眠を大切にしてほしいと思います」
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