【商品担当者が語る無印良品】オックスフォードのシャツ ②

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おたより/サービス

2019/09/20

 使う人の“役に立つ”ことを念頭に置き、日々の開発に携わる、無印良品の商品担当者。
 今回は、無印良品の綿のシャツ、とくにオックスフォードのシャツについて、素材や着心地、使いやすさなど、開発者の視点からお伝えします。

 

モデル身長:181cm / 着用サイズ:XXL

目指したのは、肌なじみの良さ。心地良くシャツを着られることが、くらしの役に立つのだと考えています。


――オックスフォードのシャツは、スポーツウェアにルーツがあるそうですね。

 はい。ポロ競技で着用されたのが、オックスフォードシャツのはじまりだと聞いています。そのシャツがポロ競技で着用される中で、試合中に襟がはねないように襟先をボタンで押さえたのが、オックスフォードの代名詞にもなっている、ボタンダウンのはじまりです。
 やはり起源からして、オックスフォードの生地はタフなもの、という印象ですよね。

――動きにも耐える、丈夫さのイメージがあります。

 いわゆるオックスフォードのシャツ生地には、基本となる“番手”があるんです。番手とは、糸の太さを表す単位なのですが、この番手が40×20/2(よんまる・にまる・そう)として表現される生地が、世にあるオックスフォードのシャツ生地として知られています。
 40×20/2の生地は、横糸に20番という細い番手の糸を2本撚ってつくる“双糸”を使っており、その横糸の撚りに起因するふくらみが出ることで、しっかりとした密度と厚みが出る、という特長があります。
 無印良品のオックスフォードシャツも、2016年の春夏シーズンまでは、この伝統的な番手の生地を使っていました。なので、以前のオックスフォードのシャツは、もっとガシっとしてたんです。いうなれば、服が持ち上げたままのかたちを保って、まっすぐ立つことのできるような(笑)。

――たしかに、以前のシャツはそうでした。

 それを、時代の流れに合わせて、もう少し着心地が良く、肌なじみも良く……というものを開発できないかということになり、2016年の秋冬シーズンからはシャツの生地を、40×10(よんまる・とおばん)に変えています。

――40×10は、どういった生地なのですか?

 以前の40×20/2が、横糸を20番の双糸で仕立てていたことに対し、40×10では横糸を、20番の倍の太さがある10番の糸を一本で仕立てています。双糸に対する言葉として、一本の糸を“単糸”と言うのですが、この結果、双糸仕立てで糸を撚っていることに起因していた生地の密度やふくらみが、単糸仕立てでは抑えられて、生地自体がそれまでのごわごわとした肌触りから、やわらかみのある感触へ変わっています。
 また、シャツの着心地という観点では、40×10で仕立てた生地へ洗いの加工を施し、最終的には毛羽立ち過ぎずに、ほど良くやわらかい、肌なじみの良い風合いを目指しています。

 

 

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――生地の横糸を変え、洗い加工を施すことで、肌なじみ良く仕立てた、と。

 基本的には、シャツを毎日着るものとして考えたときに、生地のハリやガサつきで着心地に違和感があるものよりは、もう少し肌になじむものを……かつ、着るたびに洗って、毎日でも着られるものを、という考えが、開発の根底にありました。
 そこから3年が経ちましたが、以来ずっと横糸を単糸にした肌なじみの良い40×10の生地で、女性向けのものも含め、無印良品はオックスフォードのシャツをつくっています。
 じつは、単糸仕立てにしたオックスフォードのシャツは、他にはあまりないんですよ。

――オックスフォードシャツの在りかたを、世に問うようですね。起源こそタフなスポーツウェアでしたが、無印良品が目指すのは、ふだんの着心地だと。

 ただ、単糸へ織りの横糸を変えたことで、オックスフォードの良さや魅力を失っているのかといえば、そうではないと考えています。そこをきちんと按配するというのでしょうか……オックスフォードらしい、しっかりとした風合いと生地のコシはあるのだけれど、肌にはやわらかく、ハリ感は多少残しながらも、きちっと着たときに肌なじみが出るような風合いを目指す。
 そのように開発を進めたのが、いまのオックスフォードのシャツです。

――仕様を変えていくにあたって、もっとも肝となる部分ですね。

 というのも、無印良品のシャツが好きだという方であったり、あるいはシャツが好きでいろんなブランドのものを試す方もそうなのですが、いざ気に入ったシャツを買ってはみたものの、何回も着て洗っているうちに、なんとなく肩が合わなくなってくるだとか、なんとなく窮屈に感じてきただとか……そうなると、自分に合わないシャツは自然と、クローゼットの片隅に追いやられてしまうんですよ。
 特に男性は、シャツに関してはこだわりがあるので、肩が合わないだとか、袖丈だとか、着丈が、身幅が……と。

――しっくりとこない違和感が、シャツを遠ざけてしまう。

 その点、着たときの肌なじみが良いと、しぜんとシャツを毎日手に取るようになりますし、何度も洗って、着れば着るほど、シャツはその人のからだにも合ってきます。
 そうやって、ふだんから愛用することを通じて、気に入ってもらい、毎日ストレスなく着てもらう……それが、開発を進める中で目指している姿です。

――しぜんと、心地良い……長く使ったり、いつも着てしまう理由は、着心地なのだと。

 そうですね。週1回、いや月1回……というよりは、週に2回、3回と着てもらえるものを。
 そして、手の届きやすい価格であることで、気に入ってもらえたなら、洗い替えにもう一着、あるいは色違いでもう一枚と、どんどん生活の中になじんでいけるものを。
 シャツの開発については、そういった在りかたを目指しています。

 

 

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オックスフォードとブロードのシャツは、無印良品を象徴するアイテム。常に、見直しを行っています。

 

――目指すのは、あたりまえの日常に溶け込む服、なのですね。

 生地もそうですが、XSからXXLまでそろえたサイズの展開や、シャツの型そのものも、くらしになじむ着心地を目指した結果です。肩回りだったり、袖の太さや位置、着丈、身幅……そういった細かいところが自分のからだと合わないと、生地がやわらかくなっても、動きにすごくストレスを感じてしまいますよね。
 袖のつけ方ひとつにしても、きついと腕の可動域があがらないし、逆に余裕を持たせてしまうと、重ね着で腕がもたついてしまう。そのあたりを注意して、可動域も残しながら、ストレスフリーで着られるように、収まりが良いように……と考えています。

――生地を変えただけではない、もちろん型紙や細部の仕様も見直している、と。

 そうです。さらには当然、生地を見直せば、芯地の見直しも入ってきますから……襟の芯地、前立て、カフス……話が細かくなりすぎてしまいますね(笑)。
 芯地については、それまで使用していた織りの芯地から、接着芯に変えました。接着芯は織りではなく編みでできていて、やわらかいんです。でも、やわらかいと芯地にはならないということではなくて、やわらかさの中にコシやハリ、弾力性がある。洗いざらしてもコシがあるので、型崩れもしないんです。

――洗濯にストレスがないのは、ふだんの生活の中で、本当にありがたいです。

 ブロードのシャツとオックスフォードのシャツは、無印良品の服の中でも、とても象徴的なアイテムです。なので、常にマイナーチェンジやアップデートを行っています。
 最近では、以前はからだに沿うようにとっていたシルエットを、徐々に少しずつストレートに近いかたちに変えて、いまの時代において、より着やすいように見直してきました。

――基本になる“無印良品のシャツ”という概念はありつつ、細かい部分では常に、見直しているのだと。

 そうです。先ほども話したのですが、大前提には、着る人にとって役に立つ、という基本理念があります。
 なので、時代とともに変わっていく着方や着こなし、スタイリングとの兼ね合いについて考えることを、見直しへのアプローチとしています。たとえば、全体的にゆとりのある着こなしが時代の流れで主流になったとき、中に着るインナーが大きいのにシャツがタイトだったら、すごく着心地が悪くなってしまいますよね。

――わかります。最初はちいさな違和感が、だんだんと気に障ってきて……。

 そういった意味で、着る人の“役に立つ”ことが大前提だとしたときに、じゃあどういった部分を見直したら快適になるのかな……と考えています。
 襟型も、時代によってはネクタイができるもの、という時代もありましたし、いまの時代だとニットを着たときに襟のおさまりがいいだとか、重ね着してももたつかないだとか……求められるものは時代と共に、少しずつ変化していますから。

 

 

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無印良品のシャツにおいて、ずっと変わらないところ。それは、ガゼットと、折り伏せ縫いの仕様です。

 

――生地やシャツの型、シルエットなど、さまざまな変化を経て、いまに至っているのですね。

 ええ。でも、その中でもふたつだけ、無印良品のオックスフォードシャツやブロードシャツにおいて、変化していないものがあるんです。こだわっているというか、ずっと頑なに続いている仕様ですね。
 ひとつは、ガゼットという、脇を縫い合わせた先の裾にある、切り込みに渡してつないだ造作です。

――写真にも収めていた箇所ですね。(上の写真)

 はい。ガゼットの起源は、かなり昔の話ですが、シャツの縫製がいまよりももっと甘かった時代に、脇の縫い目が裾からびりびりと裂けてしまうのを防ぐため、だったそうです。
 じつはこのガゼット、シャツをつくる工程においては、すごく手間がかかっています。なので、同じ価格帯のシャツであれば、ガゼットのついていないシャツも、世の中には出ているんです。

――たしかに、裾をパンツに収めてしまえば、見えない部分ではあります。

 ただ、このガゼットがシャツの補強となって、永く、洗濯を繰り返しても丈夫に、シャツを着続けられることにつながっているのも事実です。なので、無印良品ではシャツを象徴する仕様のひとつとして、ガゼットをずっと残してきました。

――“役に立つ”在りようの一方で、シャツの起源に対する敬意にも感じられます……こんなに小っちゃい、すみっこなのに。

 商品の開発を進める中では、省きたい工程やコストという観点も、もちろん浮かびます。
 ただ、“無印良品のシャツ”というのは、丈夫で、何回洗ってもほつれないし、永く着られるものだ、としたときに、このガゼットはとても重要なものなのだと……だから、多少手間ひまはかかっても、削らずに、大事なものとして、末永く残していきたいです。
 そして、変化していないもうひとつの要素は、脇から袖にかけての、折り伏せ縫いの仕様です。

――今度は、縫い方の処理ですね。片倒しにしてあって、裏面の肌あたりが良いです。

 この折り伏せ縫いも、やはり工程がかかるんです。だから世の中には、巻縫いというワークシャツなどで使われる、一回でダダダっと縫ってしまう方法を採っているシャツもあるのですが、折り伏せ縫いのほうが圧倒的に、脇の肌あたりに違和感がないので、着心地が良い。とても丁寧なつくりです。

――神は細部に宿る、ではないですが、これもまた、変えない無印良品のシャツの仕様なのだと。

 そうです。ガゼットと折り伏せ縫い。洗いざらしのオックスフォードシャツとブロードシャツにおいては、象徴的な……無印良品のシャツとして、大事にしている部分ですね。
 ちなみに、大事にしているといえば、袖のステッチが細かいことも、じつは手間ひまのかかっている工程なんです。

――たしかに、とても細かいですね。

 通常よりも細い糸で、細かく縫っているんです。もちろん時間や手間はかかってしまうのですが、そうすることで当然、袖にしっかりとした丈夫さが出ます。
 また、シャツというのは洗いざらしで着続けているうちに、パッカリングと呼ばれる、ステッチの凹凸に起因して生地にぼこぼことしたアタリが出てしまう現象が起こりがちなのですが、ステッチが細かいと、そのパッカリングを抑える効果もあります。特に、襟や前立ては目立つところなので、細かくステッチをかけることで、洗いざらしで着ても、ぼこぼこが目立たないように、工夫していますね。

 

 

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独自に開発した、再生ポリエステルの“おはじきボタン”。シャツづくりで出た裁断くずを混ぜて、再生利用しています。

 

――そういえば、ボタンの裏側に摘まみやすいよう溝をつけた、と聞きました。

 そうです。ボタンの裏に溝をつけて、付け外しの際に、指に引っかかるようにしています。これは、ボタンそのものを開発しました。
 独自に開発したこのボタンを、僕たちは『おはじきボタン』と呼んでいるのですが、よく見ると全然、おはじきじゃない(笑)。ただ、開発の着想は、おはじきにあるギザギザの面から得ています。
 裏側ということもあり、ぱっと見では、わからない特長ですよね。でも、そういう溝があることで、なんとなく指がうまく引っ掛かり、しぜんとボタンが外しやすい……この感覚は、すごく大切だと思っています。

――たしかに、摘まみにくくて滑るボタンには、小さなストレスを感じます。

 このボタンに慣れると、元のつるつるとしたボタンに戻れなくなりますよ(笑)。おかげさまで、いまは無印良品のすべてのシャツに、このボタンがつきました。
 ちなみに、このおはじきボタン。じつは中に、再生コットンが入っているんです。

――再生コットン? たしかに、なにかが混ざりこんでいるような……。

 よく見ると、なにかが沈殿しているように見えますよね。ボタンの素材は再生ポリエステルなのですが、その中に再生コットンを混ぜ込んでいます。
 この再生コットン、じつは自分たちが出した裁断くず、つまり、ごみなんです。

――知りませんでした……服づくりで出た裁断くずを、再生して、ボタンの素材にしてしまった。

 そうです。オックスフォードだとか、ブロードだとか……そういったシャツづくりの中で発生した裁断くずを、ごみとして処理に出すのではなく、どうにかして使おうと。
 目的は、単純です。自分たちの出すごみを減らそう、と。
 だから、自分たちの出したごみを少しでも回収して、再生する方法を考え、ボタンづくりの材料とすることになりました。
 ボタンそのものも、再生ポリエステルを使用してつくっています。自分たちでボタンをつくり、型抜きをして端材が出れば、それをさらに溶かして再生し、またボタンをつくる。その中には、自分たちのつくった服の裁断くずを粉砕したものを入れて。

――自分たちの出した裁断くずを、ごみにせず、少しでも回収して、再生して。

 これも、なかなか時間がかかっているんです。中に再生コットンを入れると、ボタンの強度の問題だとかで、バランスの調整が出てくる。なので、意外とこういう作業ひとつをとっても、時間がかかっています。
 生産工程においては当然、コストがかかってしまったら、意味がないんです。つまり、ボタンづくりのためにシャツが値上がりしてしまうようなことは、目指していない。あくまでも通常の範囲の中で、工程上、無駄なくやれるようにということを考えながら、このボタンをつくっています。結果、できたボタンは、指にも引っ掛かって使いやすいし、生産工程で生まれる無駄を少しでも出さないということも実現できた……。

――世の中にごみを出さず、それでいて使いやすく……良いですね。

 こういうことがうまく回って、着る人にも、世の中にも、役に立ってくれたらと……ちょっとしたことですけれど、でも、そうやってつくられたシャツを日常で使ってもらえたときに、そこに違和感がなければ、「よし」と思えます。これは先に話した着心地についても、そうですね。

――なるほど……そうやって開発したシャツを着るとき、やはりこどものように愛おしいものでしょうか。それとも、モニタリングの使命が前に出て……?

 モニタリングのほうが強いかもしれないですね(笑)。……表立って言わないだけで、細かい見直しは本当に、目に見えないところまで、毎シーズン行っていますから。

――“無印良品のシャツ”は、まだまだ進化していく、と。

 ええ。あと、僕がシャツを着るときには、最大の使命として……着ることを通じて、このシャツの魅力を伝えたいです。僕はいちばんのプレゼンターですから(笑)、「めちゃくちゃいいんですよ、こういうところが」と。
 大前提として、僕はシャツが好きなんです。もともとシャツが好きだということが、すべての根底にありますね。

 

 

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