「これまで代々受け継がれてきた在来種は、形はいびつですが生命力に溢れています」そう話す岩崎政利さんは、長崎県南部にある島原半島に位置する豊かな自然環境の中で、現在年間50種類ほどの在来種の野菜を育てています。
「こいつらは一つひとつ個性が強いので、欠点を抑えて、良いところを伸ばしながら育ててあげるんです」と岩崎さん。畑の一角に母となる野菜を植え、収穫期が来ても野菜を収穫せずに花が咲くまで待って、時間と手間をかけて種を採ります。
種が採れるのは年1回。在来種が、その風土や作り手の想いに応えてくれるようになるには、最低5年はかかるそう。しかし、こうして何年、何十年と採り続けられた種は、徐々にその土地になじみ、農薬や肥料を与えなくても、土そのもので育つだけの強い生命力を備えていくんだとか。
実は岩崎さんも最初からこのような農法を取っていた訳ではありませんでした。35年ほど前のこと、それまで当たり前に使っていた農薬の影響か、2年間ほど寝たきり状態になるほど体を壊したことがキッカケでした。
「はじめは仕方なく有機農業に切り替えたのですが、やがて自分にしか作れない野菜を作りたいと思うようになったんです」。そんな岩崎さんの元に、今では全国から在来種が集まり、県の依頼で有機栽培に強い品種の検査も担っているといいます。
「野菜の一生を見ることができる農業は素晴らしい。生まれ変わってもまた農業をしたいですね」。そう話す岩崎さんの育てる個性豊かな在来種の野菜をぜひ味わってみてください。