森さんが祖父から果樹園を引き継いだのは2016年のこと。淡路島でフリーのデザイナーとして活躍していた森さんでしたが、ある時、淡路橙(当時の呼称は鳴門オレンジ)を使った商品のパッケージデザインの依頼を受けます。
「幼い頃から祖父が作っていることは知っていたものの、その時に改めて淡路橙について調べ直したんです。すると知れば知るほど希少な品種ということが分かりまして。いつの間にかこの柑橘の香り高さの虜になっていました」
森さん曰く、昨今、流通している柑橘は、実の方がおいしくなるよう品種改良されていっているため、果皮はどんどん香りが落ちていってしまっているとのこと。
「この淡路橙については、約300年前に淡路島で発見されて以来、ほぼ原種のまま残っているため、香り高い果皮のまま現代につながれてきた希少な固有種だったんです」この事実を知ってしまった森さんは、居ても立ってもいられなくなり、デザイナーの職を辞め、祖父の果樹園を引き継ぎ歩み始めます。
というのも、淡路橙を取り巻く環境は厳しいものでした。高齢化はもとより、果皮が剥きやすい柑橘に転向する農家も多く、淡路橙を栽培する農家はわずか10人。淡路島の柑橘の生産量のわずか3%という割合にまで落ち込んでいたのです。
このままいくと潰えてしまう…。そんな危機感から、森さんは生産のみならず、研究と加工する場「淡路橙研究所」を創設。淡路橙の魅力を追求・訴求しつつ、下処理が大変な淡路橙を、余すところなく使い切るための取り組みを始めました。
「果実は果汁が多く、華やかな酸味が漂う昔ながらの柑橘の味わいなんですが、淡路橙の魅力は何といっても果皮の香り高さなんです。レモンなど抗酸柑橘だと、香り高い果皮のものもあるのですが、オレンジ風味で香り高い果皮のものは現代では稀少。ただ、この果皮を使うためには、収穫と同時に切り分けなければなりませんが、これが大変な作業で、そこまで担ってくれる業者がいない。であれば自分たちでやるしかない…と」
森さんの目標は生産する農家から淡路橙を買い取り、余すところなく使って淡路橙の魅力を広め、それに伴い淡路橙を栽培する生産者が増えていくこと。そのために、マーマレードはもとより、オレンジピールを散りばめたゼリーやレアチーズケーキなど、魅力的な商品開発にも余念がありません。「このオレンジ風味の香り高き柑橘は、淡路島に残る宝です。祖父の残してくれたこの宝の果樹を、もっともっと多くの人に知ってもらえたらと」そう話す森さんの目は、淡路島の未来を見据えているようでした。