長崎の市街地で生まれ育ち、二十歳でラッパーを志し上京後、長らく東京で過ごしていたという森山さん。13年間、三軒茶屋のミュージックバーの店長として勤める内に、お客さんへ提供する食べ物やドリンクのルーツに自ずと興味の針が振れていったといいます。このまま東京で消費するだけの人生で良いのだろうか?そう考えていた矢先、転機になったのが東日本大震災でした。
スーパーの棚から一気にモノが無くなる様に恐怖を感じたという森山さんは、「人生何が起きるか分からない。ならば自分の心の赴くがままに」と考え、故郷・長崎に戻ることを決意。そこで有機農家の元で働いたことをきっかけに、引き継ぎ手を探しているというブルーベリー園にたどり着きます。そこは多良岳の麓で、地元の方が20年以上に渡り、栽培期間中に農薬や除草剤を使わずに大切に育ててきたブルーベリー園でした。
そこで初めて生のブルーベリーを食べた森山さんは、その美味しさに感動。即答で「僕がやります!」と宣言していたそうです。元々、長野の山間部で生まれ育ち、いつかは山で暮らしたいと考えていた奥さんにとっても、その立地に共鳴。農園を「のんびり山」と名付け、森山さん夫妻は農家としての人生をスタートさせたのです。
見渡す限り“人”の東京で長らく暮らしていた森山さんにとっては、見渡す限り“自然”に囲まれた山での暮らしはすべてが新鮮に映ったといいます。農産物の美味しさはもちろん、四季折々の景色の移ろいや鳥の鳴き声まで。こうした環境を人にもおすそ分けしたいと考えた森山夫妻は、農園近くの空き家を借り上げ、知人の手も借りながら改装。自家製シロップやブルーベリーを使った飲み物などが楽しめる「REST SPACE」もオープンさせました。
その後、ご縁があったレモン畑や生姜栽培に農薬や肥料を使っていないのも、それが森山さんにとって当たり前だったから。「ここに訪れ、自然と触れ合い、山の暮らしって良いなって思ってもらえたら最高です」そう話す森山さんの表情はいきいきとしていて心底、山の暮らしを楽しんでいるようでした。