MUJIが暮らしに届くまで
ひとくちで素材の甘みが広がる ほめられかぼちゃのお菓子

2026/09/16
今回ご紹介するのは、秋の店頭を彩る「ほめられかぼちゃ」のお菓子シリーズです。一度聞いたら忘れられない、あたたかくて誇らしげなその名前。この黄色いお菓子たちの裏側には、日本の農業の未来を見つめる、生産者と無印良品の誠実な物語がありました。
取材と文・藤田華子 イラスト・いそのけい

品種ではなく おいしさの約束としての規格
「ほめられかぼちゃ」という名前を耳にしたことはありますか?
かぼちゃ自身も、料理をつくった人も、かぼちゃをつくった農家さんも、みんながほめられる。そんなかぼちゃでありたいという願いが、この名前には込められています。しかし、これは品種の名前ではないそう。
「ほめられかぼちゃというのは、品種ではなく、『基準(規格)』なんです」
そう教えてくれたのは、良品計画食品部の中川さん。2024年10月、全国農業協同組合連合会(全農)との情報交換の中でこの原料を紹介されたのがすべての始まりでした。普段、スーパーでお買い物をしていて「今日のかぼちゃは甘かったけれど、前に買ったものは水っぽかった」という、品質のばらつきを経験したことがある方もいるのではないでしょうか。
この課題を解決するために、原料メーカーのエム・ヴイ・エム商事がつくったのが「ほめられかぼちゃ」という規格でした。基準は「糖度12度以上、水分値75%以下」と非常に厳格。甘さだけでなく、水分値も基準に含まれているのがポイントで、水っぽさがなく、ホクホクとした食感になるのはそのためです。光センサーによって1玉ずつ検査をクリアしたものだけが、この名前を冠して出荷されます。
中川さんは、最初に試食したときの衝撃を振り返ります。
「一般的なかぼちゃは糖度がおよそ8〜10度。それを大きく上回るのですから、これはもう別格でした。おいしいかぼちゃをいつでも安定してお届けできるのは魅力的で、ぜひ原料に使いたいと思いました」
こうして、無印良品のかぼちゃのお菓子はすべて「ほめられかぼちゃ」へとリニューアルされ、2026年8月から順次店頭に並びはじめています。
秘密は 一般的なかぼちゃの3倍の手間
厳しい基準をクリアするかぼちゃを育てるため、生産者の畑では途方もない手間がかけられています。
食品部でクッキーの開発を担当した木村さんは、こう説明します。
「かぼちゃの甘みのもとは、でんぷんです。葉が光合成をしてつくったでんぷんを実にため込み、それが収穫後に糖へと変わっていきます。だからこそ、実の中にどれだけ多くのでんぷんをためられるかが、甘さを決めるカギなのです。そのためには、収穫の直前まで『葉を枯らさないこと』が何より大切になります。

葉っぱが病気や虫、水不足で枯れてしまうと、光合成ができずでんぷんが蓄積されないため、農家の方々は休みなく畑に足を運び、状態をこまめにチェックしています。天候にも左右されますが、ほめられかぼちゃを育てるための農作業時間は、一般的なかぼちゃに比べて、同じ面積を育てるのに約3倍もの時間がかかるそうです」(木村さん)
まさに農家さんの並々ならぬ愛情と努力が注ぎ込まれている逸品。さらに、収穫作業も過酷を極めます。生い茂る大きな葉の下に隠れているかぼちゃを手作業で探し出し、固い茎を一つずつカットしなければなりません。かぼちゃは、1個当たり約2kgもの重量があるというのですから大変な作業です。
「1日に1人、約3,000個を収穫するのですが、これは2kgの重りを抱えて、1日に3,000回スクワットを繰り返すようなもの。本当に、気の遠くなるような重労働なんです」と中川さん。
「高齢化が進む生産現場にとって、この身体的負担は大きいものなのです」(木村さん)

データとテクノロジーが救った 産地の未来
「これほどの手間をかけても、実は取り組みを始めた初年度は基準をクリアできたのは約16%ほどだったそうです」
そう振り返るのは、先ほどの木村さん。どれだけ農家さんが汗を流しても、何が要因で基準をクリアできるのかがわからず、試行錯誤が続いていました。
そこで、全農が米づくりにおいて培ってきた農業DXシステム「Z-GIS」というデータ共有の仕組みを、かぼちゃの栽培に応用することにしました。これは、畑ごとの積算温度や降水量を数値化することで、最適な収穫時期をデータとして導き出し、関係者間で共有できるシステムです。その結果、かつて約16%だった基準達成率は、現在では約70%にまで劇的に向上しました。
「かぼちゃは、収穫が早すぎるとでんぷんが十分にたまらず、遅すぎると品質が落ちてしまいます。つまり、いつ収穫するかが、そのまま糖度を左右するのです」(木村さん)
さらに、生産者の負担を減らす工夫も重ねられています。収穫したかぼちゃは、大きな鉄のコンテナに入れていくだけです。以前はコンテナから農家さんの倉庫へ移動する作業もありましたが、今は次の場所へコンテナごとそのまま引き取られていくため、出荷の手間が省けるようになりました。ときにはエム・ヴイ・エム商事が収穫をお手伝いすることもあるそうです。

「手間暇をかけておいしいものをつくってくださる農家さんには、通常のかぼちゃよりも高い適正な価格で購入させていただく仕組みになっています」と中川さん。
傷や不揃いも大切な素材 無駄にしないものづくり
どれほど技術が進化しても、傷がついたり、かたちや大きさが不揃いだったりするかぼちゃは必ず生まれます。通常の生鮮市場であれば、これらは「規格外」として弾かれてしまいますが、無印良品のものづくりには、不揃いな素材も無駄にしないという強いDNAが流れています。
「お菓子の原料として加工してしまえば、外見の傷や大きさは関係ありません。おいしい中身は同じですから、使えるものは余すことなくすべて使いたいと考えています」(木村さん)
小さなかぼちゃも含めて、ペーストやダイスカットの冷凍原料として無駄なく活用しています。この姿勢は、畑における食品ロスの削減に直結するだけでなく、収穫された作物がしっかりと収入になるという、農家さんの「安定した収益」を支えているのです。
そして、厳しい基準にわずかに届かなかった約30%のかぼちゃたちも、決して無駄にはされません。冷凍ペーストへとかたちを変え、他社の加工原料などとして別の場所で大切に生かされています。

素材の力をそのままお菓子へ 開発者たちの感動と工夫
大切に育てられ、畑から届けられた「ほめられかぼちゃ」。その濃厚なおいしさを、どのようにお菓子に落とし込んでいったのでしょうか。
木村さんが手がけた『ほめられかぼちゃのクッキー』は、開発の段階で大きな驚きがあったといいます。
「実は、これまで販売していたかぼちゃクッキーのレシピは変えず、原料のペーストをそのまま『ほめられかぼちゃ』に置き換えただけなんです。それでも、試作を食べてみて、明らかに味わいが変わったのを実感しました。焼き上げると飛んでしまいがちなかぼちゃ本来の甘みやコクが、しっかりと口の中に残っていたんです」

また、素材そのものを味わう『ほめられかぼちゃチップ』でも工夫が光ります。ほめられかぼちゃは素材の風味がとても強いため、一般的なチップスよりもあえてスライスを少し「薄め」に仕立てています。こうすることで、パリッとした軽やかな食感を楽しめると同時に、凝縮された濃厚な甘みがじんわりと広がる最高のバランスに。

さらに、食感のバリエーションにも工夫が凝らされています。『ほめられかぼちゃのスティックケーキ』や『パウンドケーキ』では、なめらかなペーストを練り込んだしっとりとした生地に、1cm角にダイスカットされたかぼちゃをごろごろと混ぜ込んでいます。
「ペーストとダイスカットという、2つの原料を組み合わせて使えるのが、この素材の強みです。ダイスカットのかぼちゃを口にした瞬間、丸ごとかぼちゃを食べているようなダイレクトな幸福感を味わっていただけます」と木村さんは語ります。

『ガレット』では、しっとりとした生地の中に、ほめられかぼちゃのペーストと白あんを合わせた「ねっとり濃厚なかぼちゃあん」を閉じ込めるなど、それぞれのラインアップに、かぼちゃのポテンシャルを最大に引き出す工夫が詰まっているのです。

北海道から沖縄へ そしてお客さまへ 永く続くおいしい循環
「ほめられかぼちゃ」を育てる農家さんのネットワークは、冷凍原料を加工している北海道・旭川を中心に、今や西へ、南へと、沖縄にいたるまで全国に広がりを見せています。
無印良品では、お菓子の発売に伴い、北海道、大阪、東京の3ヵ所でお披露目のトークイベントを開催しました。イベントに参加したお客さまからは、「どこでこのかぼちゃを買えるの?」「家でどうやって調理するのが一番おいしい?」といった、素材への興味に満ちた質問がたくさん寄せられました。
「こうしたイベントや店頭、ウェブなどを通じていただいたお客さまの『おいしい!』という生の声を、私たちはしっかりと生産者のみなさまにフィードバックしていきたいと考えています」と中川さんは未来を見据えます。

「おいしい」というお客さまの喜びが、農家さんの誇りになる。そして無印良品がお菓子として多くのお客さまに届けることで、産地の活性化や農家さんの手取りの向上につながる。そんなお互いが「win-win(ウィンウィン)」になれる幸せな輪。
「決して、2026年の1年だけで終わる一過性の取り組みにはしたくありません。永く続く取り組みとして、このおいしい循環をこれからも大切に守り、育んでいきたいと思っています」
お菓子をひとくちかじったときに広がる、やさしくて力強いかぼちゃの甘み。それは、広大な日本の畑で、土と向き合いながら愛情を注ぎ続ける人たちの、ひたむきな手仕事の味そのものでした。ぜひゆっくりと味わってみてください。
「ほめられかぼちゃ」のお菓子ラインアップ
今回のシリーズは、2025年まで販売していたかぼちゃのお菓子をすべて「ほめられかぼちゃ」に切り替えたものに、新商品3品を加えた全10種。8月と9月の2回に分けて登場しました。
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