MUJIが暮らしに届くまで
ヤシの端材を使った食器が、みんなにやさしい理由
2026/01/19
取材と文・野口理恵(rn press) イラスト・いそのけい
こどももお年寄りも安心して使える食器を目指して
——「レンジで使える ヤシの端材を使った食器シリーズ」はどのようにして商品開発がスタートしたのでしょうか?
田中凜さん(以下、田中):この商品は素材に特長がありますが、どんな商品でも、出発点は“素材ありき”ではなく、お客さまが「欲しい」と思ってくださるか、という視点です。
今回は、お年寄りやこどもがいるご家庭でも安心して使えるような「落としても割れない、怪我をしない樹脂の食器をつくりたい」という思いから商品開発をスタートしました。
そこから素材を検討しはじめて、電子レンジや食洗機でも使えるなど、食器として必要な機能は担保しつつ、“無印良品らしい”環境に配慮した樹脂はないか、模索していました。
中島智史さん(以下、中島):地球環境へ配慮された樹脂自体はさまざまなものが存在しています。ただ、食品接触OKとなるとグッとハードルが高くなるんです。
リサイクル素材は、回収の過程で何が混ざっているかわからないため、食品接触する商品への使用は難しい。リサイクルのスキームが確立されているPET(ポリエチレンテレフタレート)は、食品接触OKだけれど、熱に弱く、電子レンジで使えない、などなかなか条件を満たすものはありませんでした。
そんな中、フィットした特長を持つのが「ヤシの房を使った樹脂」だったんです。実は、別の商品の素材を検討していたときにこの樹脂を知り、いつか活用できたらと思っていて、今回の商品では、素材の特長がぴったり噛み合い、かたちにする事ができました。
——パームヤシの房を使った樹脂は、環境問題とどういった関係があるのでしょうか?
中島:パームヤシはマレーシアやインドネシアといった高温多湿な熱帯地域で育つ植物で、その実から絞ってとれるのが、お菓子や石けん、化粧品などさまざまなものに使用されているパーム油です。

一方、実を取ったあとに残る大量の房は、現状有効な使い道が少なく、放置されるか、焼却処分されています。
放置された房は時間の経過とともに腐敗し、温室効果ガスのひとつであるメタンガスを発生させ、地球温暖化の一因に。不適切に焼却された場合は、「ヘイズ」※1と呼ばれる煙害を引き起こす事があり、健康や環境へ悪影響を与える事が問題になっています。
※1:ヘイズ(Haze)とは、主にインドネシアのスマトラ島やカリマンタン島などで行われる野焼きや泥炭地の火災によって発生する大気汚染の事を指す。

この課題に取り組もうと、マレーシアの企業がパームヤシの房を樹脂に混ぜ込む技術を開発していて、今回の商品では、その樹脂を使用させてもらいました。

欲しい商品が環境にやさしかった、を目指して
——この樹脂ならではの特長はありますか?
中島:一般的な樹脂原料であるポリプロピレンのバージン樹脂(※2)と比較すると、パームヤシを混ぜる事で、製造過程のCO2排出量を削減できました。
※2:新品の素材だけを使って製造したもの。
田中:実際に商品を手に取ると、パームヤシの繊維が見えて、一つひとつ繊維の入り方が違うのも味になっています。バージンの樹脂とは違う、木目のような風合いを感じますよ。

中島:実は、繊維の形状を残して樹脂に混ぜ込むのは難しい技術。植物ならではの質感を生かせるのも、この樹脂ならではの魅力ですね。
田中 :お客さまが買いものをするとき、「環境にやさしいから買う」というよりも、「欲しいと思って手に取ったら、結果的に環境にもやさしかった」というストーリーを私たちは目指しています。
そのためには、まず「欲しい」と思っていただく事が何より大切で、電子レンジや食洗機対応は譲れない機能でした。この樹脂は耐熱性が高く、その点もクリアできたというのは、とても大きなポイントです。
デザインも価格も、バランスを大切に
——デザインを設計するにあたり、工夫した事はありますか?
田中:家庭やアウトドア、さまざまな使用シーンを想定して、大きさや深さ、かたちを決めました。
たとえば、「仕切り付きプレート」は、カレーなど汁気のあるものでも使えるように少し深めにデザインし、ボウルは味噌汁には少し大きいけれど、シリアルを食べるのにも使える中間のサイズを狙ったり、盛り付のしやすさにも気を配りました。
ほかにも、カップは氷を入れても飲みものが適量入る容量に設計し、箸は樹脂ならではのやわらかさをカバーして、使いやすい硬さにするため、グラスファイバーを混ぜるなど、細部まで「使いやすさ」を追求しました。
——価格は99円から499円までと、とても手に取りやすい価格になっているのが印象的です。
田中:家族分揃えたいときや、週末キャンプに行く事が決まったというときに、気軽に複数枚購入できる、価格帯を目指しました。
前述の箸のグラスファイバーの混入率も、使用感だけではなく、コストとのバランスをみながら、複数パターン検証を重ねたうえで、決めました。
中島:素材の特長を最大限生かし、“使いやすい”、“手に取りやすい”を実現した商品。家族構成や使用シーン問わず、あらゆるお客さまの暮らしに役立てばうれしいです。
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