「スモールダウンして、執着を手放す。その先に本当に必要なものがわかるのかも」山藤陽子さん

「スモールダウンして、執着を手放す。その先に本当に必要なものがわかるのかも」山藤陽子さん

おたより/部屋は私でできている

2025/12/19

緑を眺めているとき、あるいは友人や家族を呼んで過ごすひととき。家や部屋にはその人が大切にしてきたものが集積し、いわば年輪のようにその人の生き方や変化が刻まれている。力まず、少しずつ、居心地のよい空間をつくってきた人と部屋のこれまでとこれからを紹介。

今回訪ねたのは調香師・山藤陽子さんの家。「大切な家族を見送り、前に進むための暮らしをしたかった」。そう語る山藤さんが選んだのは、富士山を望む小さな部屋。限られた空間で本当に必要なものを選び、これからの生き方を見つめ直す。その中で彼女が頼りにしたのは、用途に合わせて姿を変え、暮らしになじむ無印良品の収納用品たち。場所を問わず役割を変えてくれる器用さと、生活の風景に溶け込む控えめな佇まいは、山藤さんの「気持ちいいものだけで暮らしたい」という想いとぴったり重なりました。
(取材・浦本真梨子 撮影・日野敦友)

※12月15日(月)より、ネットストアにて全商品の販売を再開しました。詳しくはこちらからご確認ください。

山藤葉子
やまふじ・ようこ 気持ち良いことフェチのライフスタイルコーディネーターとして、上質で気持ち良い暮らしと生き方を提案する<YORK./ヨーク>主宰。ブランドコンサルティング、商品企画開発、パフューマーとして空間デザインや舞台演出としての調香も手掛ける。ボタニカルパフュームブランド<SCENT OF YORK./セントオブヨーク>のデザイナー。


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築50年ほどのヴィンテージマンションが山藤さんの新たな拠点。

小さな住まいが、ものを手放す合図をくれた。

窓の外、澄んだ空の向こうに富士山が見える。まるで屋根裏部屋のようなひっそりとした雰囲気のマンションが、調香師・山藤陽子さんの住まい。

「もともと、南青山のヴィンテージマンションで、自宅を兼ねたアポイント制のサロンをやっていました。すごく気に入っていたのですが、急に立ち退きが決まってしまって。その後、参宮橋のマンションに移り、そこを仮住まいとしながら、次のアトリエを考えようと思っていたんです。そんな時に、大事な家族を亡くして」

突然やってきたまさかのできごと。これから先のことを一切考えられなくなってしまった山藤さん。家には家族のものが残っていて、目に入るたびにいろんなことを思い出してしまう。時間も気持ちも止まったまま、一年以上が経った。

「もともと、執着を手放す、というのが人生のテーマではあったけれど、それならいっそ、住まいを変えるのをきっかけに一度すべてを手放してみようと思いました。その先に見えるものがあるかもしれない、と」

そう思いながら、物件サイトを見ていたら、空に近いこの部屋がぽつんと出てきた。

「これまで住んできた家はどこも見晴らしがいいところばかりだったから、次の場所もそういうところがいいなと思って、マンションの最上階にあるこの家に惹かれました。内見に来てみたら、ベランダから見えた富士山の姿が素晴らしくて。狭さや古さは気になりましたが、この時点で心はほとんど決まっていました」

とはいえ、前の家から約半分ほどの狭さというかなりのスモールダウン。参宮橋の家を引き渡すまでの二ヶ月間、二つの家を行ったり来たりしながら、何を手放すかを決めていったという。

「限られた空間に何を置くかメジャーを片手に採寸しながら、隙間を埋めるような作業を続けました。まるでパズルみたいでしたね(笑)。そうやって、部屋に収まる持ち物だけを選び抜きました」

お気に入りの家具もたくさんあったが、そのほとんどは持っていけないので、思い切って手放した。

「ヴィンテージの家具もたくさん持っていましたが、また、迎え入れられる余裕ができた時に探せばいい、と。ただ、決してミニマリストになりたかったわけではなく、一度フラットにしてから、本当に欲しいものだけをもう一度選び直すための暮らしをしたかった。これからの生き方もまだ決まっていないからこそ、何もない部屋に身を置いて、空をぼんやり眺めながら考えようと思いました」

新しい家に持っていったのは、ソファの代わりにもなるベッドと椅子数脚、オリジナル什器一台、ガラス張りの箪笥と最低限の仕事道具、そして、無印良品の収納ケースだ。

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テラスからの眺め。周りに高い建物がないので、空気が澄んでいると遠くに富士山が見える。
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山藤さんは天然香料だけでつくったボタニカルパフュームを手掛けている。調香するときは、一日で一番、感覚が研ぎ澄まされている夜明け頃にするそう。

引っ越しを重ねてたどり着いたマイルール。

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長年愛用している全面ガラス張りの珍しい箪笥は食器入れに。
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調理家電を置いた台の下には「再生ポリプロピレン入りファイルボックススタンダード A4用 ホワイトグレー」を。4つ重ねて一番下に「収納ケース用キャスター」をつけている。
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隙間を埋めるようにピッタリと収まった「ポリプロピレン 小物収納ケース」(現在は終売)。仕事に必要な小物などを入れている。
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掲載誌は「縦にも横にも連結できる再生ポリプロピレン入り平台車」に載せて。
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収納物が取り出しやすく、裏に返すと中が見えにくい「再生ポリプロピレン入りスタンドファイルボックス」に資料や書類などを。キャスター付きの本棚(現在は終売)も長年愛用。サイドに取っ手がついていて引っ張りやすい。

「無印良品の収納用品は持っていこうと最初から決めていました。一つのシリーズをサイズ違いで持っていて、数や組み合わせを変えれば、どんな間取りの家でも必ずどこかにフィットしてくれるから。たとえば、以前の家では寝室で活躍していたものが、次の家ではキッチン収納にちょうどよかったり。家に合わせていろんな役割を担ってくれるところが頼もしくて」

そして、無印良品の収納用品はキャスターが付けられることも気に入っているポイントという。

「一人暮らしだと大きなものやたくさんのものを動かすのは大変。でも、キャスターがついていれば、そのストレスが減ります。無印良品の収納用品はキャスター付きのものだったり、後からキャスターをつけられるからすごく重宝するんです」

雑誌は台車に重ねて移動しやすく。書類や本はまとめてキャスター付きの本棚に。よく使う調味料やキッチン家電は無印の収納ボックスに入れ、その下にキャスターをつけた。コロコロ転がるキャスターがあれば、掃除も模様替えも気軽にできるのがいい。

「再生ポリエステルの素材も好きなんです。余計な主張がなく、生活の背景として自然に溶け込んでくれる。暮らしのリズムを邪魔しない静けさがある。本当にたくさん持っていたんですけど、どうしてもこの家に入りきれなかった収納用品は、知人にお譲りしました。無印良品のアイテムだったら、必ずほしいと言ってくれる人が見つかるんですよね」

シンプルなのに、融通がきく。そんなアイテムが好き。

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ポリエステルたためる仕分けケース」は畳んで小さくなるので便利。広げたマイバッグは買い物の必携アイテム(現在は終売)。
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ポリエステルたためる仕分けケース」。旅行で使う以外にも、シーズンオフのニットやTシャツなど、カテゴリごとに分けて入れて整理に役立てている。

トラベル用の仕分けケースも山藤さんが愛用する収納用品のひとつ。

「小さいサイズと大きいサイズそれぞれ5〜6枚持っています。このまま洗濯機に入れて洗えますし、使わない時は畳めばコンパクトになるところもいいですよね。旅行の時はもちろんですが、普段はシーズンオフの服を入れています。硬くて重い収納ケースは出し入れが大変だけど、これはナイロン素材で軽くて柔らかいから、重ねても取り出しやすい。ニット、Tシャツとか、カテゴリごとに分けて入れています」

こんなふうに機能性と心地よさ、両立してるものが好きという。

「アウトドア用品やスポーツウェアのような、いわばヘビーデューティなアイテムが昔から好きで。一見シンプルなのに高機能だったり、さりげなく凝ったパーツが潜んでいたり。実は驚くほどの性能を秘めている。そういった隠されたポテンシャルに心を掴まれます。無印良品のアイテムにもそれに通じるものを感じていて。一つの役割だけじゃなくて、こんな風にも使える!って自分で使い方を見つけられるところも楽しいです」

”気持ちいい”が導く、もの選びの基準。

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レコードも手放さなかったものの一つ。北欧のアーティスト「キングス・アンド・コンビニエンス」がお気に入り。
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洋服を減らした分、「ブナ材洋服ブラシ」でまめにブラッシングをするようになった。

かつては服もたくさん持っていたが、今は必要最小限に。

「数を減らしてから、服との向き合い方が変わりました。少ない服を着回そうとすると、洗濯の回数が増える分、丁寧に洗うようになりましたし、こまめにブラシをかけるようになりました」

そして、何度も引っ越しをする中で、自分なりのルールができた。重たすぎる家具は持たないこと。処分に困るものは家に入れないこと。折りたためる、重ねられる、分解できるものをなるべく選ぶこと。

「たとえ、組み立てが簡単で値段が手頃でも、譲る相手が見つからず処分に困るものは買いません。そういう基準でものを選んでいたから、今回ダウンサイジングした時も、ほとんどのものを知人・友人にお譲りしたり、ヴィンテージショップに渡すことができました」

ただ、山藤さんの家の中を見渡してみると、パン焼き器やエスプレッソマシン、高速ジューサーなど、調理家電は一般的な単身家庭よりかなり充実している。

「部屋はコンパクトになっても、日々の食事は大事にしたい。その気持ちだけは手放したくなかった。本当はカトラリーや食器も一人分だけに数を絞ろうかと思ったんですよ。でも、それはできなかったですね。小さなおうちだけど、誰かを迎え入れる余白は残しておきたくて」

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人をもてなすのが好きな山藤さん。「また、お客様をお迎えするサロンのような場所を持てたら」。
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アウトドア用の椅子に座り、ベランダで一息。

好きなものに対して、まっすぐでぶれない視点を山藤さんは持っている。自身のもの選びのルールが確立したのは十年ほど前。セレクトショップを立ち上げたのをきっかけに、国内外さまざまな場所へバイイングへ行った。買い付けたアイテムを並べてみると、そこには共通して、“気持ちいいもの”ばかりが残っていたという。

「自分は心地よさに対してとても正直なんだとそのとき気づいたんです。結局、選択の軸はそこだったんですよね」

それをきっかけに「気持ちいいことフェチ」という肩書きで、ライフスタイルコーディネーターとしての仕事が始まった。

「気持ちいいという感覚で選んだら、結果的に人にも環境にも優しいものだったとわかるような、そんなものとの出合い方が好きなんです。正面から『これはオーガニックです』とか『エビデンスがある』と提示されても、ビジュアルや触り心地がよくないと、人にもおすすめできない。だって、使っている人の気持ちが上がることが大事だと思うから」

なぜ惹かれるのか。どこが好きなのか。その理由を自分に問い、言葉にしていくと、自分の好みの軸が見えてくる。一度それをつかめると、物選びの迷いが減り、失敗もほとんどなくなるという。

「選ぶ理由が明確になると、ものとの関係も自然と健やかになっていく気がします」

新しい部屋に移って一年。少しずつ暮らしを整えながら、山藤さんは次のステージを見つめている。

「この家をすっかり気に入っているのですが、年明けに新しい場所にアトリエを持ち、スタートします。そういう気持ちになれたのもこの部屋でものをなくして考えることができた結果で、この部屋で暮らせた1年に心から感謝しています。お茶を淹れて、手づくりのお菓子を食べながら、その人に合う香りやアイテムを丁寧に選んでお渡しできたらと。特に私が大事にしている手触りやそのものが醸し出す雰囲気、香りはどれだけ言葉を尽くしてもそれはオンラインでは伝わりにくいもの。ゆっくりくつろげる空間で、誰かの心をそっと動かすような、気持ちいいものを提案できたらと思います」


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