歯みがきは健康への第一歩。口腔ケア最新事情

歯みがきは健康への第一歩。口腔ケア最新事情

おたより/暮らしのQ&A

2026/08/27

「歯と口腔は寿命や健康と密接な関係がある」というのを耳にしたことがある人も多いでしょう。女性ホルモンと歯周病の関係性、日光浴が歯の健康に寄与する、など最新の研究から、セルフケアの意外な落とし穴まで。歯科医師の倉治ななえ先生に教わりました。
(文・松岡真子 写真・幸喜ひかり)
歯科医師の倉治ななえ先生
お話を聞いた人:倉治くらじななえ先生(歯科医師・歯学博士)
予防歯科の黎明期から研究・啓発活動を行うパイオニア的存在の歯科医院のテクノポートデンタルクリニック院長。日本歯科大学客員教授。日本フィンランドむし歯予防研究会副会長。先進治療と併せてフィンランドで学んだ予防歯科を発信している。著書は『むし歯・歯周病の最新知識と予防法』(日東書院)など。

おいしく食べて、大好きな人たちと笑い合う

「身体の話の前に、ちょっと心の話を。歯には食べ物を噛み砕くという基本的な役割に加えて、表情を豊かにする働きがあります。そこにトラブルを抱えていると、みんなの前で口を開くことをためらう人もいるでしょうし、顔も下向きになりがちで、猫背になる場合も。友達に会うのも億劫になって孤立し、生きる活力が失われることもあります」と歯科医師の倉治ななえさん。

さらに、精神のコンディションは気づかぬ間に歯にも影響を及ぼすといいます。

「仕事やプライベートでタスクに追われていると、交感神経が優位な状態が平常化します。すると無意識のうちに顎に力が入り、奥歯を強く噛み締めてしまう。これが長く続くと、歯の根っこが割れてしまうケースも」

そして、歯の不具合は心理的な負担になるだけでなく、全身の健康にも波及するそう。

「歯が1本抜けると、噛み合わせは変わります。それによって、歩き方や座り方のバランスが崩れ、膝や腰などに不調が現れるケースもあります。そして、これが興味深いデータなのですが、歯の本数が多い人ほど一回の入院日数が短く、長生きしやすいという調査結果も出ています。口の中の健康を保つことで、今後の人生をはつらつと過ごせる確率が高くなるでしょう」

女性の方がかかりやすい、虫歯と歯周病

無印良品のポリプロピレン歯ブラシ

その理由は「唾液の分泌量」と「女性ホルモン」。

「口内環境を良好に保つ唾液は、“魔法のリンス”とも呼ばれます。食べることで酸性に傾いた口内を中和し、食べかすやばいきんも洗い流します。さらに、溶けかけた歯を元に戻す力も持っています。ところが、女性は男性と比べて唾液腺が小さく、分泌量も20〜30%少ない。したがって、虫歯ができやすいのです。女性は意識して唾液の原材料である『水』をたっぷり飲む習慣を! カフェインを含む飲み物の摂りすぎは逆効果ですよ」

そのうえ、女性は人生に3度、歯周病になりやすいタイミングを迎えるといいます。

「歯周病菌の中には、エストロゲンなど(女性ホルモンの一つ)をエサにするものが存在します。そのため、女性ホルモンの分泌が高まる思春期と妊娠期は、歯茎に炎症が起こりやすくなります。一方、閉経を迎えるとエストロゲンが減少し、骨をつくり替える働きが低下します。そうなってから歯周病にかかると、歯を支える歯槽骨が損なわれやすく、進行も早くなってしまうのです。対策としては日頃から骨をじょうぶにするカルシウムを摂取し、1日15分ほどでよいので日差しを浴びて、カルシウムの吸収を助けるビタミンDを皮下に生成することで骨を丈夫にしておきましょう」

歯周病は口の中だけの病気ではない

やわらかな毛質の歯ブラシ

「いま、日本人が歯を失う最大の理由は歯周病です」

そもそも歯周病とは、表面に付着したプラーク(歯垢。細菌のかたまり)や歯石(プラークが石灰化したもの)によって歯を支える歯周組織が破壊されていく疾患のこと。自覚症状がないまま悪化してしまうケースも少なくない。

「歯と歯ぐきの間にある溝が深くなったものを歯周ポケットと呼び、その深さが4mm以上になると(歯科医院で検査してもらえます)中等度の歯周炎と診断されます。ここまでは歯石を取り除くという基本的な治療で対処します。しかし、7mm以上になると、歯ぐきを切開して根元にこびりついた汚れを除去するオペが必要になるケースも」

さらに知っておきたいのは、歯周病が口の中だけの病気ではないということ。

「代表的なものとして糖尿病との関係が挙げられます。歯周病菌が出す毒素は、インスリンによる糖代謝の働きを妨げます。つまり、歯周病になると血糖コントロールがしづらくなり、糖尿病が悪化することもある。また、糖尿病になると免疫機能が低下するため、歯周病が進行しやすくなります」

また、近年は脳や血管の疾病との関連も明らかになってきた。

「歯周病菌が産生する酵素には、タンパク質を分解するものがあります。そのため影響は口腔内にとどまらず、全身に及ぶのです。脳梗塞や心筋梗塞のみらなずアルツハイマー型認知症との関わりも指摘されており、全身の健康にも影響することが知られるようになりました」

毎日のお手入れこそが予防の最善策となる

フッ素入りの歯みがきペースト

すこやかな歯を保つうえで鍵を握るのが“プラークコントロール”です。その名の通り虫歯や歯周病の原因となる歯垢を取り除き、細菌が増えないようにします。

「まず、ごはんを食べ終えたら、水かお茶を飲みましょう。食後は口の中が酸性に傾くため、虫歯ができやすい環境になります。水やお茶を取り込んで中和し、さらにキシリトール入りのガムやタブレットで唾液の分泌を促します。これは唾液の分泌が少ない女性にぜひ取り入れて欲しい習慣です」

そしてメインは歯磨き。力の入れすぎに注意し、すすぎは最小限で行います。

「フッ素入りの歯みがきペーストを歯ブラシ全体に乗せて、毛先がわずかにしなる程度の力で表面と歯ぐきの汚れを落とします。3分ほどかけてきれいにしたら、少量の水で1度だけすすいで完了です。できれば朝と夜、1日2回は行いたいところです」

意外なのは、うがいやすずきは1回で十分だということ。

「スキンケアを思い浮かべてください。化粧水を浸透させた後に、わざわざ洗顔をしませんよね。その原理と同じです。何度もゆすいでしまうと、せっかくのフッ素が流れ落ちてしまいます」

また、ブラッシングの力にも注意が必要です。

「清潔にしたい一心でゴシゴシみがく人がいますが、これは逆効果です。余計な力をかけ続けていると、歯ぐきが下がり、歯の根元が露出してきます。さらに、歯みがきのたびに象牙質が削られ、歯が欠けたり折れたりするリスクも高まります。どうしても力んでしまう場合は、圧のかかりにくいやわらかな毛質の歯ブラシを選びましょう。ちなみに、歯を磨くときの力の入れ具合は100gが理想。この加減を知るには、キッチンスケールの上にブラシを垂直に当てて測ると、一目瞭然。思っているよりも少しの力でいいことがわかるはず」

歯周病を防ぐには、歯と歯ぐきの境目を意識してみがくのも大切です。

「歯周ポケットに溜まったプラークを取り除くことが予防につながります。歯周ポケットを磨くときは60gほどのやさしい力で、先端が細い歯ブラシを歯ぐきに対して45度くらいの角度で当て、念入りにみがきましょう」

ペーストとジェルのW使いで歯を守る

オーラルケア 歯 健康

正しいケアの仕方に加えて、歯みがき剤選びも重要です。

「日本人のプラークには、虫歯の原因となるミュータンス菌が含まれる割合が多いことがわかっています。そのため、虫歯になりやすい下地ができているともいえます。この菌は砂糖をエサにして、グルカンという粘着性の高い物質をつくり出します。表面に付着した汚れを落とすには、研磨剤を含むペーストタイプが適しています。さらに、エナメル質を強化し、溶けるのを防ぐフッ素が高濃度に配合されているものを取り入れるといいでしょう」

また、ペーストで歯をみがいた後にジェルでコーティングをすると、口内環境を良好に保つ効果が高まるといいます。さらに、ジェルタイプの歯みがき剤は外出先や、水が使えない場面で活躍します。

「ペーストに比べすすぎがかんたんです。歯みがきシートや有効成分を含んだマウスウォッシュも同様です。これらをポーチに入れておけば、いつものケアが難しい日や、急なトラブルが起きたときの備えとしても心強いですよ」

ただし、セルフケアを徹底していても、虫歯や歯周病になりやすい体質の人はいるそう。

「年に一度の歯科健診で毎回新しい虫歯が見つかるならば、虫歯リスクが高いと考えられます。その場合はペーストとジェルのW使いとともに、歯科医院でのクリーニング回数を増やすなどして対策をしましょう」 

いつまでも自分の歯で味わうことが、長生きにつながる

日々のブラッシングは虫歯や歯周病を防ぐだけのものではありません。その積み重ねは、将来の自分を支える土台にもなります。

「『8020(はちまるにいまる)運動』というスローガンを聞いたことはありますか? 文字通り80歳で20本以上の歯を保ちましょうという取り組みです。そのためには20〜30代くらいからデンタルケアを意識しておく必要があります」

この呼びかけによって、毎日の歯みがきと定期健診の重要性が広く浸透しました。その結果、2024年には80歳で20本以上歯を保つ人の割合は61.5%に達しています。

これからもおいしく食べて、笑い合うひとときを満喫するために。今日からの歯みがき習慣を大切にしていきましょう。

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