ゆらぎに寄り添う。養生日和
寝ても疲れがとれないときに。就寝中の食いしばり、歯ぎしりをケアする養生法

2026/04/22
取材と文・山本加奈 撮影・藤井由依
「ユークロニア株式会社」代表。国立病院機構にて高次脳機能障がいや神経難病のリハビリテーションに従事。現在は、東京の「ベスリクリニック」で薬に頼らない睡眠外来を担当する傍ら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行い、メディア監修も多数。主な著書に『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、『すぐやる!行動力を高める科学的な方法』(文響社)、『多忙感』(サンマーク出版)など。
人間関係のストレスが食いしばりや歯ぎしりに
朝起きるのがつらかったり、しっかり寝たはずなのに疲れが取れていなかったり、日中に眠気やだるさを感じたり……。それらの不調の裏には、睡眠中の「食いしばり」や「歯ぎしり」が隠れているかもしれません。
「4月〜5月は職場の異動や、転職、進学などで人間関係が変化し、信頼関係の再構築が必要になりやすい時季。
“信頼感”や“安心感”は、近年、自律神経の働きと深く関係していると考えられていて、これらがゆらぐ要素の多い春は、交感神経の過活動により、睡眠中の食いしばりや、歯ぎしり、それにともなう睡眠の質の低下が起きやすいんです」と菅原さん。
自律神経は、アクセル役の『交感神経系』と、ブレーキ役の『副交感神経系』がシーソーのようにバランスを取りながら働いているという考え方が広く知られています。
しかし、近年注目されているのが『ポリヴェーガル理論』という新しい仮説。この理論により、春に増える睡眠の悩みが説明できると菅原さんはいいます。
「『ポリヴェーガル理論』では、『腹側(ふくそく)迷走神経系』『交感神経系』『背側(はいそく)迷走神経系』の3層構造で自律神経が機能すると考えます。
最上位にあるのが『腹側迷走神経系』で、心身を穏やかに保ち、他者との円滑なコミュニケーションを司るとともに『交感神経系』を抑制します。しかし、強いストレスがかかると、抑制が解除されて『交感神経系』が優位な戦闘モードに。
さらに心身が疲弊して限界を迎えると、今度は生命維持のため心身をフリーズモードにする3段階目の『背側迷走神経系』へと切り替わります」
『腹側迷走神経系』が働くには、信頼を感じられたり、他者から共感を得られたり、自分の存在が認められているという安心を感じられる環境が必要。
気を遣いやすい不慣れな人間関係の中では『腹側迷走神経系』が働きにくく、『交感神経系』が優位になりやすい。その影響が夜まで及ぶと、就寝中に顎まわりの筋肉が緊張し、食いしばりや歯ぎしりへとつながるのです。
「睡眠中に食いしばりや歯ぎしりをすると、脳波上で睡眠が途切れることがわかっています。自覚的には眠っているため、本人も気づいていないことが多いのですが、昼間に眠気を感じる人は食いしばりや歯ぎしりにより熟睡できていない可能性があります」
緊張をゆるめる、日常のひと工夫
寝ている間の無意識に起きる食いしばりや歯ぎしり。改善するためには昼間の過ごし方が重要だと菅原さんはいいます。
「昼間の体の動きがそのまま夜間にもでるので、昼間に歯を食いしばらないポジションをつくるのが大切です。
本来、食事中を除き、口を閉じた状態で上下の歯は噛み合いません。舌先が上顎にあたって上下の歯が離れているのが正しい位置なので、まずはこのポジションを意識しましょう。」
食いしばり、歯ぎしりの原因となる緊張を和らげるちょっとしたセルフケアを取り入れるのもおすすめ。
「緊張していると無意識のうちに呼吸が止まっていることが多いので、香りの良いお茶やお気に入りのアロマとともにひと息つく時間を。 香りを感じるには、自然と息を吐くので、呼吸が回復し、交感神経系を落ち着かせる助けになります。
また、カフェインは食いしばり、歯ぎしりの増強因子なので、摂取を控えてみるのもいいでしょう」(菅原さん)
緊張した筋肉をゆるめるセルフマッサージも効果的なセルフケアのひとつ。
「顔まわりをほぐすのもいいですし、歯ぎしりに直接関係するのは、耳の後ろから鎖骨にかけて伸びる『胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)』」

「優しくさすったり、つまんでゆらしたり、オイルをつけてマッサージしたり、ストレッチしたりすることで、顎周りの緊張が緩和されます。
緊張が生じやすい背面の筋肉をゆるめるには、額や頭皮のマッサージを。額〜頭皮〜背面の筋肉は連結していて、末端の額や頭皮をほぐすと、背面全体がゆるみます。また、股関節のストレッチも全身の緊張をリリースするのに効果的ですよ」
何かをいきなり変えるのではなく、心地よく取り入れられることを試し、安心感やリラックスを感じられる時間を少しずつ増やしていきましょう。

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