無印十年物語
「ときにデスク、ときに食卓。二十年ずっと一緒のテーブル」川瀬佐千子(編集者・ライター)

2026/06/25
『パイン材テーブル・折りたたみ式』を20年間愛用している編集者・ライターの川瀬佐千子さん。一人暮らしを機に出合ってから、幾度もの引っ越しや人生の節目をともにしてきた相棒とも言える存在。そんなテーブルと過ごしたこれまでの時間を振り返ります。
(文・浦本真梨子 写真・竹之内祐幸)
編集者、ライター。出版社や編集プロダクション、広告制作会社を経て、フリーランスに。雑誌や単行本などの出版の世界のほか、企業やブランドのコンテンツ制作やコピーライティングなど、広告の分野でも活動する。食べものと物語、旅、そして猫を愛する。共著『おいしいおはなし』(グラフィック社)は児童文学と食について綴ったコラム&レシピ本。この秋に続編が刊行予定。
「かれこれ二十年くらい使っているんです」

東京・渋谷で古本と喫茶の店を夫と営む、編集者・ライターの川瀬佐千子さん。店の一角に、飴色の小さな木のテーブルがある。『パイン材テーブル 折りたたみ式』だ。
購入したのは30歳の頃。20代の紆余曲折を越えて、一人暮らしを始め、勤めていた編集プロダクションを辞めて、フリーランスとして働き始めたタイミングだった。
「家で仕事をするためのデスクが欲しかったんです。一人暮らしの小さな家にも置けて、でも、いかにも事務机という感じのものは嫌で。無印良品に行ったら、天然木なのに5,000円くらい(当時の価格)のテーブルを見つけて、『これだ!』と」
幅80センチ、奥行き50センチのコンパクトなサイズ。それでいて、ノートパソコンや資料を広げても十分な広さがあり、使わないときは折りたたんでしまえるところも良かった。
「仕事机として購入しましたが、友達が来れば料理を並べてお酒を飲んだり。私にとっては、デスクでもあり、一人の食卓でもあり、人が集まる場所でもありました」
32歳で広告制作会社に入ると、自宅で仕事をする必要がなくなり、テーブルはキッチンに移動した。普段は食卓として、友人たちと集まって餃子を包んだり、ピザを焼いたりする時は作業台になった。
その後、再び独立。友人の編集・ライターと共同で仕事場を構えると、しっかりとした仕事用デスクを購入した。それでも、このパイン材折りたたみテーブルは捨てることはなかった。

「私、かなりの引っ越し好きで、30代の間だけでも5回も住まいを変えました。手放すものもあったけど、このテーブルだけは一緒に引っ越しをしてきました。一人で持ち運べるし、使わないはコンパクトにしまっておける。それが良くて」
40歳で結婚し、二人暮らしを始めるにあたって、お互いの家具を整理することになったときも、このテーブルだけは手元に残した。
「ただ、もうメインテーブルとしての役割は終わって、普段は部屋の片隅で折りたたまれて、友人が集まるときには出して、広げて、サブテーブルとして活躍という使い方でした。きっと何かに役立つだろうと思っていたから、一度も手放そうと思わなかったですよね」
そして昨年の2026年、夫とともに〈本と喫茶 パラード〉を始めたことを機に、テーブルは再び新しい役割を得た。
「仕入れた本を整理する作業台にもなるし、ワークショップをするときは他のテーブルと並べて大きな机になる。家から店に移したことで、ますますいろいろな役割を引き受けてくれるようになって、頼もしいです」

働き者のテーブルだ。長く使って何度も折りたたんだり広げたりを繰り返す間に、あるとき、金具が壊れてしまったこともある。
「もう寿命かな、さようならかなと思ったんですけど、パーツだけ交換できると知って。つけかえたら見事復活。そのときはうれしかったですね」

なるべく簡単にものを捨てたくない。その気持ちに応えてくれる家具だと実感した。だからこそ、最近同じテーブルをもう一台買い足した。
「店での活躍っぷりにもう一台と思って買い足しました。実は秋にお店の移転が決まっていて、今より広くなるので、もう一台あってもいいかもと思って、三台目の購入を検討中です」

このテーブルと過ごしてきた二十年の間に、暮らしは大きく変わった。ひとり暮らしから二人暮らしへ。働く場所も何度も変わり、人生には新しい肩書きも加わった。
「まさか50歳を前に古本屋を営むことになるとは想像もしていませんでした。古本の魅力は、時間を超えて誰かへ受け継がれていくところ。ある人にとっては不要になった本が、別の誰かにとってはずっと探していた一冊だったりする。一見、埃をかぶって古びて見える本でも、きれいに整えて棚に戻せば、また誰かに見つけてもらえる。そういう循環がいいなと思って」


その眼差しは、二十年使い続けてきたパイン材テーブルに向けるものとどこか似ている。
天板には輪じみが増え、木肌は深い飴色へと変わった。何度も引っ越しを重ね、役割を変えながら使われるうちに、パーツが壊れたこともあった。それでも、部品を交換すれば、また新しい時間をともに過ごせるようになる。
「かなり年季が入ってきたので、天板を塗り直したり、カンナをかけ直してもいいかもしれない。古本をきれいにするのと同じ感覚です。手をかければ、もっと長く使える。そういうことができるのも、木の家具だからこそだと思います」
そして、二十年前に買った家具が、変わらずつくり続けられていることにも静かに感動するという。
「時代が変わっても、『これ、便利でいいよね』と思う人がずっといる。だから、つくり続けられている。そのこと自体、なんだかすごくいいなと思うんです」
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