農家が栽培しなくなってからも、呉市農業振興センターは広甘藍の復活を夢見て、種を保存しようと地道に栽培を続け自家採種してきました。そして2010年、ついに熱意が実り、広カンラン生産組合が発足。幻の伝統野菜『広甘藍』の生産やブランド化の取り組みが始まりました。
組合の立ち上げに携わった、呉市農業振興センターの田中恵さん。農業技師として、農家の方のサポートなどを行っています。「呉市民を始め、多くの方に広甘藍を食べてもらいたい」と、現在は6名の組合員の方と一緒に広甘藍を作り、守り続けています。今回は3名の組合員の方にお話を伺いました。3代目の組合長である西村健二さんは、組合立ち上げ初期より広甘藍を栽培しています。もともとは、エンジニアとしてお勤めされていましたが、呉市主催の農業セミナーをきっかけに14年前に就農。「広甘藍の美味しさに驚き、惚れ込んだ。」と語るその笑顔は誇らしげに見えました。何よりもやりがいは「広甘藍がみんなに認識されて、喜んでもらえること。呉市も一生懸命になって盛り上げてくれること。」と、御年79歳の西村さん。エンジニアらしく、緻密な計画を立てながら栽培する姿からは、広甘藍への熱意と決心が感じられました。
広甘藍を栽培している呉市郷原町を訪れました。こちらの畑で広甘藍を作り続けて14年の渡邉誠さん。通常のキャベツより作る難しさがあるそうです。「暑い時期に苗を植え、美味しさ故にやってくる害虫から守るためにネットをかけます。毎日ネットの状態を確認し、虫食いが発生しないようにしています。」さらに大変なのは収穫時期。通常のキャベツは機械で一斉に収穫することもできますが、広甘藍は異なります。「広甘藍は個性があります。苗の段階から生長スピードも違うので、同じ時期でも同じ大きさに育ちません。畑を隅から隅まで歩き、人の目で大きくなったものを見極めて、手作業で1つずつ収穫します。」丁寧に栽培・収穫するからこそ、大量生産が出来ない希少な野菜なのです。
「苗を植える時期も大切。植えるのが遅いと寒さで葉が巻かず、玉にならない。早すぎると、広甘藍本来の味にならないんです。難しいからこそ美味しい。」と語るのは、田中慎二さん。「広甘藍の収穫が始まると、うちの子どもも大喜びです。特に広甘藍の塩昆布和えが大好きです。」5年前まで農業振興センターにお勤めだった田中さん。当時はその種を絶やさぬよう採種していました。夢を追って農家になり、広甘藍を作り始めて難しさを感じながらも「先輩たちが昔から守り続けてきたからこそ、今がある」と大切に継承されていました。
組合員同士でお互いの畑を見に行くほど、仲睦まじい様子が感じられました。組合員は平均年齢70歳になり、作り手の不足に課題を感じながらも「みなさんに美味しい広甘藍を食べてほしい。」とそれぞれに工夫を凝らしながら栽培されています。
収穫時期によって味に変化があり、収穫が始まった頃にはシャキシャキとした歯ざわりが感じられます。冷え込みが強まる頃には、寒さから身を守ろうと葉が紫色になり、甘みが増します。おいしい食べ方として、生のままはもちろんのこと、過熱するとさらに甘みが増すため、みそ汁や、鍋、すき焼きに入れるのもおすすめ。ロールキャベツはお箸で崩れる柔らかさになるそうです。芯は梨のような香りがするので、食べてみてください。作るのが大変だけども、味の良さに惚れ込んだ、広カンラン生産組合の皆さん。呉市の伝統野菜をこれからも守り続けていきます。