「うちの蔵の職人は菌だから、僕たちはそのお手伝いやな」。そうからっと笑うのは、“だいたい5代目”の山本康夫さん。ここで生まれる醤油が“圧倒的にうまい”のはなぜなのか。
「菌はね、知ってるんですよ。お客さんに桶の上から眺めてもらうと、この時期に聞こえるプチプチッという発酵の音が、喜びを表現するように、一斉に激しくなるんです」。
歴史ある蔵や桶には、数百種類ものふわふわとした生きた菌がびっしりついています。この菌が味を決めていく“職人”だから、彼らに合わせて康夫さんたちが仕事をするのだそう。
日々変化する色、音、匂い。ほんの些細な変化に気がつき、楽しみながら、考えながら対応していく康夫さん。日々ルーティーンに勤しむということとはかけ離れていました。
「ほぼ失われてしまった木桶の醤油を、仲間たちとともに、後世に引き継いでいきたい」。そう語る康夫さんは最近、これまた失われ行く桶屋で修行をし、木桶づくりも始めました。
エネルギーに満ちたこのお醤油は、肉に合わせても負けじと味を引き出せるほど力強い旨味があります。それでいて上品で体にすっと染み渡る感じ、次なる発見と成長が楽しみです。