誰かのためはみんなのため
すべてに理由がある。家事に“気持ち良い”を増やすデザインの力

2026/03/11
(取材と文・オカモトノブコ イラスト・村松佑樹)
機能性だけではない、使いやすさを提案したい
家事は生活を整える行為。“ちゃんと”できたら気持ちが良いけれど、忙しない毎日の連続の中で、こなすことは、決して簡単ではありません。
家事という行為に“気持ち良い瞬間”が増え、少しでも負担やストレスが減れば、暮らしはもっと豊かになる。そんな日々の積み重ねに目を向けた商品が無印良品にはあります。
「機能性やユーザーフレンドリーさを保ちつつ、どうやったら暮らしに溶け込むかという視点を大切にしています」そう話すのは、無印良品の生活雑貨部で、キッチン用品や掃除・洗濯用品などのデザインを担当する井口さん。
「確かに、機能をどんどん付加していくことは課題解決の近道かもしれません。しかし、無印良品ではそうではない方法でアプローチをしていきたいなと。
例えば、インテリアになじみやすい色やかたちといった“佇まい”、自然素材やクラフト感のあるデザインなど、使っていて喜びを感じられるような“情緒性”。機能性に加え、これらの要素がバランス良く備わったものをつくるのを大事にしています」
たとえば、おいしくてヘルシーな蒸し料理が簡単にできる『竹材 蒸篭(せいろ)/本体 深型(大/小)』も、そんな視点が随所に隠れた商品の一つ。

「我が家ではよく茶碗蒸しをつくるのですが、一般的な中華蒸篭では高さが足りず、フタがちゃんと閉まらない状態で使い続けていたんです。
そこで、少し高めの設計にすれば高さのある器でもストレスなく使えるし、蒸せる量も増えて料理の幅が広がると考え、一般的な中華蒸篭より高くなるようにデザインをしました。

底面は、蒸気の通りやすさだけではなく、洗いやすさ、乾きやすさといったメンテナンス時の負担が減るように隙間を大きくしつつ、竹ひごで縛る仕様で手仕事感も味わえるように。蒸篭は調理道具としてだけではなく、食卓でそのまま楽しめる器的な存在でもあるので、情緒性も大切にしました」

また、開発チームメンバーとの会話で得た気づきから、発売の仕方にもこんなひと工夫が。
「片方は使えるのにどちらかが壊れてしまったときや、本体だけ2段重ねで使用したいときにセットでしか買えないのは不便だなと。そこで、別売りにすることで買い物のちょっとしたモヤモヤ解消にもつながったと思います」
ほかにも井口さんが手掛けた暮らしになじむキッチン用品の実例の一つが『広口で洗いやすい 保温保冷 卓上ポット』。

「実体験から、暮らしになじむ佇まいで、口径が広く、奥まで洗いやすいポットをつくりたいと考えて提案しました。香りがつきやすいコーヒーを入れた後もメンテナンスが簡単で、清潔に保てるのが気持ち良く、使いやすさが格段にアップしたように思います。

もう一つ、同じような発想でつくられているのが『広口で洗いやすい 保温保冷 スープジャー』。

「口径を広くし、内側の段差を少なくしたことで、具だくさんの汁ものでも最後まですくい取りやすい設計になっています」
保温力を維持しながら、注ぎやすさ、洗いやすさ、食べやすさ、すべてを叶える。この絶妙なバランスにたどり着くまでには、さまざまな試行錯誤があったそう。

「一般的には口径を大きくすると、保温力はどうしても弱くなります。そこで卓上ポットでは内瓶の外側に銅素材を巻き付け、スープジャーではフタに断熱材を入れることで、保温力をカバー。
口径を大きくすると外観にも影響が出やすくなるため、実際に3Dモデルで試作しながら、機能性、情緒性、暮らしになじむ佇まいが両立するようなバランスを模索しました」
着地点は、部屋の一部に溶け込むデザイン
続いて掃除用品で井口さんがあげてくれたのが『ヘッドが付け替えられるシリーズ』。カーペットクリーナーやフローリングワイパー、ほうき、バス用スポンジなど多種多様なヘッドを、用途に合わせてポールに付け替えられるシリーズです。

「必要なときに必要なヘッドパーツに付け替えれば良いので、収納的に場所を取らないのがまず機能面における利点のひとつ。ポールに選択肢があるというのもポイントですね。
伸縮の幅が大きく、高いところの掃除にも使いやすいのがアルミ製の『ヘッドが付け替えられる 伸縮ポール』。樹脂製の『ヘッドが付け替えられる 軽量ポール』は軽さ重視で、浴室の壁などにおすすめです。そして、より情緒性を重視し、インテリアと調和しやすいのが自然素材を使用した『ヘッドが付け替えられる 木製ポール』」

「掃除道具は見えるところに置きたくない人も多いですよね。でも『これなら置いていても嫌じゃないかも』と思ってもらえるデザインを着地点として目指しています」。
そんな“無印良品らしい”着地点はそのまま、ごみ袋や水切りネット、スポンジ、トイレットペーパーといった日用消耗品のパッケージデザインにも、家事ストレスを減らす工夫が。
「無印良品の商品ラベルは、文字が比較的小さく、目立ちすぎないデザインがスタンダートです。ただ、購入頻度が高い日用消耗品に関しては、これまでの商品ラベルだと、店頭で目につきにくく、探すのに疲れてしまうお客さまもいるだろうなと。そこで、数年前に日用消耗品用の商品ラベルを新たにつくりました」
こう話すのは、井口さんと同じく、無印良品の生活雑貨部でパッケージやプロダクトデザインを担当する大友さん。

「無印良品のデザインの枠組みの中で、インフォグラフィックも使いながら、明快に情報が伝わるかたちに落とし込む。そんなパッケージデザインと、井口さんのプロダクトデザインが合わさって、“買いやすくて、使いやすい”商品を実現することを目指しています」。
後回しになりがちなことほど、きちんとできると気持ちが良い
掃除、洗濯、料理。“わかりやすい”家事を支えるのが、無数にある小さな家事。日々使う道具の手入れや、洗剤やケア用品の詰め替え……。「忙しいと、ついつい面倒くさくてニ番手、三番手になってしまうことが、気持ち良くできるように。そんな視点で開発した商品もありますよ」と大友さん。
大友さんがデザインした隠れたロングセラー『詰替え用じょうご』もその一つ。

「一般的なじょうごだと、注ぐときにグラグラしてこぼしてしまうことがありますが、周囲にぐるりと脚がついていることで、しっかりと安定感をキープ。自立するので、収納するときに転がったりするストレスもなくなります」
ほかには、『ポリプロピレンチューブ絞り器』も無駄なく、大切にものを使うことを助けてくれる商品。
「ギューっとはさんで絞ることで、まだ残っている中身を無駄なく使い切れるのが気持ち良いんです。
洗剤の詰め替えも、チューブの中身の使い切りも、やらずとも暮らしはまわるけれど、できると何だか“きれいに”“正しく”生きているような気持ちになれる。その感覚が、家事の“気持ち良い瞬間”をつくる気がしています」

生活者の眼差しを丁暮にすくい上げ、暮らしに根ざしたデザインを追求する。生活雑貨部のデザインチームの試行錯誤はこれからも続きます。
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