スタッフのいえ
使いながら触れながら、木と向き合う部屋

2026/04/16
今回は、無垢材のテーブルやベンチ、壁に付けられる家具 をはじめ、「木とともにある」暮らしが印象に残る、新井さんを訪ねました。
集合住宅/ふたり暮らし
文・内海 織加/写真・幸喜ひかり

新井さん
無印良品の法人向け商品の開発を担当し、国産材を活用した商品開発や取り組みも推進。奥さんとふたり暮らし。
見せるか、隠すかで分ける。ステンレス ユニットシェルフ

新井さんが暮らすのは、それなりに築年数が積みあがった、古い賃貸マンションの一室。
中に入ると、ダイニングキッチンの空中にはのびのびと植物が枝葉を広げ、木製の家具や節の入ったフローリングが、暮らしをやわらかに受け止めていた。
まるで自然の中にいるような設えに惹かれて、この部屋を選んだのかと思いきや、この内装デザインそのものも、新井さんが自ら大家さんに提案して、実現したのだという。

この家への引っ越しを考えたのは、彼が無印良品のとある店舗で、インテリア アドバイザー として活躍していた頃のこと。
「ちょうど仕事で、国産の木材が抱える課題に注目していたときでした。当時の本社オフィスでも、国産材を使ったリノベーションをしたばかり。このノウハウを住宅にも生かすことができたら、と話をしていた矢先、ちょうど出会ったこの物件にリノベーションの計画があることを知ったんです。
それなら、と思い切って、材を含めたデザインを提案させてもらいました」

リノベーションプランのテーマは、“国産材を存分に生かした部屋づくり”だったが、新井さんがこだわったデザインは、もうひとつある。
それは、収納のつくり方だ。
店舗スタッフだった頃、数々の収納プランを提案してきた一方で「実は、論理的に収納プランを立てるのが得意ではなくて」という彼が、自分の性格や暮らしぶりを踏まえて辿り着いたのは、究極まで削ぎ落とした、単純明快な方法。

「見せてもいいものは上に、隠したいものは下に。ルールを簡単にして、考える労力を最小限にしつつ、気持ち良く収納できるようにしたくて」
大きなワンルームの右手を占めるキッチンはそう語る言葉のとおり、見せるか隠すかの二択に分けて、収納されていた。
シンクとガス台の脇には、高さを合わせるように設置された長い作業台が窓際まで続き、その下はすべて収納スペース。
上半分を開放的にしておくことで、空間としても圧迫感を感じにくく、部屋を広く感じられる良さもあるというが、そればかりではない。
「作業台が長いと、友達が遊びにきたときに良いんです。みんなで並んで、流れ作業でごはんの支度もできますし、食器もおちょこも表に出ているから、各々が好きなものを手に取って、食卓をつくってくれる。
おもてなしをしなくてもいいキッチンなんです」






見せるか、見せないか、という、わかりやすくて明快な分けかた。
そう整えた収納先へ置き場所を決めていくことは、持ちものを見直す機会にもなっている。
「見せてもいいものは一軍として出しておいて、見ていたくなくなったら戸棚の中に移動し、それでもしばらく使わなかったら処分。物持ちがいいタイプなので、この三段階で定期的に持ちものを整理できるのが良いんです」
















木の気持ち良さを、暮らしの中に。杉集成材の中空パネル

国産の木材が抱える課題に目を向けたこの部屋には、これまでは商品になりにくかった材が、積極的に使われている。
そのひとつが、いわゆる「しにぶし(死節)」の点在したフローリング。
節をパテで埋めることに手間がかかることから、材として使われることは少ないという。
だからこそ、そのまま使っても暮らしに支障がないかを試すために、この穴だらけの材が選ばれた。

結果、実際に生活へ取り入れてみたところで、パテ埋めをしない穴だらけのフローリングは、なんの問題もなかったという。
「穴のところは部分的に掃除機で吸っていますが、いままでとの違いはそのくらい。ぼこぼこだけど、めっちゃ好きです。
木がやわらかいから、この間うっかりお茶碗を落としたときは、床のほうがちょっと傷ついて。でも、お茶碗は割れなかったんですよね。
肌で触れても気持ちが良いから、冬以外はスリッパも履かない。素足で過ごすことが、ほとんどです」

ここに暮らして約七年。素肌に触れ、時間を積み重ねたことで、床材も最初に比べて色や艶が増し、暮らしとともに育ってきた。
おもむろに玄関に向かった新井さんは、ドアを開け、「昼間に外から帰ってくると、ほら、こんな感じでフローリングが、キラキラ光って見えるんです」と、教えてくれた。
「このフローリングには、杉を使っています。針葉樹の特徴に、成長の早さが違うことで生じる年輪の太さの強弱、つまり夏目と冬目があるのですが、冬目の方が硬いから、使っているうちに少し浮き出てきて。
それが自然光に照らされると、光って見える。その感じが好きなんです」

新井さんは、自宅のリノベーションをきっかけに国産材と向き合うようになり、その後、商品開発を経て、現在は法人向けの内装材やオフィス用家具の開発にも携わっている。そして、その流れで2024年から関わっているのが、『山のダイゴミ プロジェクト』。
山の木を伐採するときに出てしまう木端を、ゴミではなく、ものづくりの醍醐味(ダイゴミ)として捉え、暮らしになじむ製品へと蘇らせる。
このプロジェクトをきっかけに、自宅に迎えたものも多い。





視点を変えれば、まだまだ使える、日本の木の未利用材。
新井さんの想いとともに、無印良品では法人向けにそのような未利用材を“素材”として、販売 ※ をはじめた。
「うちでも輪切りの木や端材の板を、キッチンでは台として使っていますし、たんころと呼ばれる雑木もスツールのように使えます。
この家で、節穴だらけのフローリングや、木っ端を使った壁に付けられる家具、中空パネルを実際に使い、売れないと思われていた材にも、まだまだ魅力や価値があると理解できました。
それを、林業に関わる山の生産者の方々にも、伝えられたらいいな、と思っているんです」











機能と美を兼ねた、憧れとともに。アルミ アームライト

『山のダイゴミ プロジェクト』をきっかけに近年、新井さんの部屋に木のアイテムは増えていると言う。が、ふと「最近、無印良品の新しいものを、あんまり買っていないのかも」と、インテリアや暮らしの道具を見渡した。
「長く使っているものが、多いからなあ」
寝室のベッドやスタッキングシェルフ、クローゼットの中で衣類をしまっていたパイン材のユニットシェルフも、聞けば10年以上の愛用品。キッチンのトースターやコーヒーメーカーも、彼の朝のひとときを長年、支え続けている。


持ちものの中で、最も古い無印良品のものを訊ねてみると、迷うことなく部屋から持ってきてくれたのは、防災アイテムとして登場した充電式のラジオ。
「これ、好きなんですよ。こうやって回すと、蓄電されて」
こいつ、まだ全然、生きてます。
そんなふうに愛用品を語る彼の口ぶりには、ものを相棒のように感じているような「好き」が溢れていた。






リビング側の棚には、さまざまなアートピースに並んで、アームライトや15年ほど前に発売していたガラスの床置きライト、もう動かなくなった時計など、無印良品の古い製品がいくつも置かれていた。
使うという役割を終えても、そのデザインを飾っておきたいと思うほどの愛着は、大学時代から育まれたものだという。


建築を先行していたという大学時代を振り返り、なつかしそうに新井さんが語る。
「当時、無印良品の電話機を知って衝撃を受けたんです。受話器自体に番号のボタンと通話のオンフックボタンが付いていて、手にとれば通話、伏せて置けば通話が終了できるというシンプルな設計。機能も見た目も、究極まで削ぎ落としたデザインとその哲学に心惹かれてしまって。
卒業論文も無印良品のデザインをテーマに書いたのですが、その後の自分が、店舗でのアルバイトを経て、商品開発にも携わっているんだと思うと、感慨深いですね」

そんな新井さんが商品開発にも携わり、自身も長く愛用しているもののひとつが、壁に付けられる 家具。
寝室やキッチンでも使われているが、なかでも鏡と棚を組みわせて、ドレッサーのように仕立てられた一角が目を引いた。
正面の鏡から絶妙にずらして配置されたもう一枚の鏡は、新井さんが最近、めずらしく買い足したもの。
そこには、彼の暮らしの変化を象徴する理由があった。

「長くこの家で、ひとり暮らしをしていたのですが、昨年、結婚をきっかけに、ふたり暮らしになったんです。
となると、いままでは朝、ひとりでここに座ってゆっくり支度をすることができたけれど、ふたりになると、そうもいかない。
それで、同じタイミングでできたほうが便利だなと思って、少しずらすような配置で、鏡を追加したんです。ひとりが座って、もうひとりが立ち、ふたりで同時に支度できるように」
ひとりから、ふたりへ。
インテリアも配置も、ひとり暮らしの頃からほとんど変わっていないという部屋で、この一枚の鏡だけが、暮らしに訪れた大きな変化を、静かに物語っていた。

めぐる季節と木の呼吸を感じながら。無垢材 ダイニングテーブル

新井さんがこの部屋へ引っ越す前から愛用していたもののひとつに、REAL FURNITURE シリーズで企画された、無垢材 ダイニングテーブル がある。
いまよりもこじんまりした当時の家への収まりだけを見れば、大きすぎるものだったが、それでも「大きなダイニングテーブルが欲しかった」という。

インテリア アドバイザー として、お店に立っていた時代から芽生えていたというダイニングテーブルへの憧れには、とある先輩の存在もあった。
「僕にとっての インテリア アドバイザー の師匠にあたる方から、食事は床でするものじゃない、ダイニングで食べなさい、と教えられていたんです。
そんなある日、当時はたらいていたお店へ入荷した、節ありのテーブルに部分的な割れがあることがわかり、販売を控えることになり……自分にとっては迎え入れる良いタイミングに違いない、と」
そして、割れの入った大きなテーブルが、当時の住まいへやってきた。
「ひとり暮らしに、このテーブルいる? なんて言われていましたけど、仕事も食事もゆったりできて、洗濯物を畳むときには作業台にもなり、とにかく便利。
あのときに買ってよかった、とあらためて思います」

テーブルの割れは、季節によって詰まったり、開いたりするという。
材になっても、木が生きている証拠だ。
「いまは冬(取材は2025年12月)なので、割れているところがわかりやすいですが、使っていて不自由に感じたことは一度もありません。そして、夏になると割れ目は、ほとんどわからなくなります。
季節による変化を目の当たりにして、材になっても木は生きているんだなあ、と。ラフに扱っても大丈夫ですし、あとで直せる良さもある。やっぱり無垢材は良いですよね」








家族が増え、暮らしが変化を迎えたいま、新井さんの中では、次の住まいへの新たな構想が膨らみつつある。
使っている家具は、次の住まいにもそのまま持っていく、と彼は言うが、それに加えて、照明や椅子など、移住先を想像して買い集めはじめたものもあるそうだ。

いまの家も、自身の要望を叶えるようにリノベーションできたからこそ、思い入れも強く、離れがたいと漏らす。
しかし、新井さんがわくわくとした気持ちとともに見つめる先には、これまでとはひと味ちがう、住まいづくりへの挑戦がある。



インテリア アドバイザー から商品企画へ、そこから空間デザインを経て、法人向けの什器や内装材の開発へ。
導かれるようにさまざまな経験を積み重ねな、クロスオーバーしながら徐々に専門的な知識も身につけてきた、新井さん。
不思議とそれに添うように暮らしも進化し、そしていま、少し先に見えてきたのは、山をそばに感じる場所への移住と、DIYによる住まいづくり。

まだ物件は探し中。
しかしながら、新井さんの頭の中には、やってみたい構想が膨らんでいる。
「次の住処として、ものすごく広い平屋で山付きみたいな物件を探しているところです。きちんとお金をかけてリノベーションするところもありつつ、自分たちでも手をかけてつくっていけたらいいなと思っています。
きれいにちゃんとしようと思うと、やりすぎちゃって疲れちゃうので、ほどよく雑に。
ツギハギな感じが理想です。
穴が空いたら上から板を当てて塞ぐくらいのラフさでつくっていきたいですし、いま使っているテーブルや椅子も、屋内用とか屋外用とかをあえて決めずに配置したい。
より自由に、空間デザインを楽しめたら、と思っています」

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