レビュー
五臓六腑に染み渡るスープ。やさしい温もりを味わう『盛岡温麺』

2026/10/06
日本に住みはじめて20年。イタリア料理も、日本のグルメもこよなく愛するマッシさんに、今年も帰ってきた『盛岡温麺』を試してもらいました。
(文・写真/マッシミリアーノ スガイ)
エッセイスト。1983年イタリア北部ピエモンテ州生まれ。2007年に日本に移住し、日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。
日本食文化の面白さや魅力、グルメの紹介などの記事とエッセイを年間約400本執筆。
著書に『イタリア紳士、うまいと叫ぶ』(亜紀書房)などがある。

秋の気配が深まり、朝晩の空気がひんやりと肌を撫でるようになると、食卓に並ぶ湯気に恋しさが募る。
夏の暑い盛りに何度も救われた無印良品の『盛岡冷麺』の爽快な喉ごしが懐かしく思い出される頃、待ちわびていた知らせが届いた。昨年登場して話題を呼んだ『盛岡温麺』が、今年もこの季節に合わせて帰ってきたのだ。
冷たい麺をあたたかくして食べる、ただそれだけのことのように思えるかもしれない。けれど、ひと口食べれば、それが冷麺のあたため直しではないことにすぐに気づかされる。
あたたかい麺料理で最も大切なのは、スープと麺がどれだけマッチするかだ。盛岡冷麺といえば、あの押し返すような強い弾力と喉ごしの良いツルツルとした細麺が定番。無印良品の『盛岡温麺』では麺幅がぐっと広く仕立てられている。
箸で持ち上げると、イタリアの平打ちパスタ「タリアテッレ」を思わせるような、しなやかな存在感がある。麺の表面積が広いことで、だしの効いた豊かなスープを余すところなく絡め取ってくれるのだ。しっかりとしたコシを保ちながらも、あたたかいスープとなじんでやさしくほどけていく食感は、秋冬にこそ味わいたい至福の口あたりである。
もちろん、パッケージに描かれているように定番の野菜や煮卵、肉を添えて味わうのもすばらしい。でも、ここにほんの少しだけイタリアの食のエッセンスを加えると、日常の温麺が表情豊かな一杯へと進化する。

まずは、澄み渡る琥珀色の『盛岡温麺 牛だしスープ』。
丁寧に煮出された牛の力強い旨味に、ほのかな甘みと香味野菜の香りが重なるこのスープは、それだけでもしみじみと五臓六腑に染み渡る。この澄んだおいしさに、北イタリアの冬の風物詩「トルテッリーニ・イン・ブロード(極上のコンソメスープに浮かべた包みパスタ)」を思い出した。

つくり方は驚くほど簡単だ。規定通りに茹で上げた麺をあたたかい牛だしスープと合わせ、器に盛る。僕のアレンジとしては、食べる直前にパルメザンチーズをたっぷりと雪のように降らせ、上質なオリーブオイルをひと回しするのがおすすめ。ただそれだけで、立ち上る香りが驚くほど変わる。

オリーブオイルの青々しくフルーティーな香りと、あたたかいスープの熱でじんわりと溶け出したパルメザンチーズの芳醇なコク。これが澄んだ牛だしと調和するのだ。平打ちの麺にチーズがとろりと絡みついて、口に運ぶたびに深い旨味が広がる。オリーブオイルがスープの表面に薄い油膜をつくるため、最後まで熱々のままおいしくいただけるのもうれしい。シンプルでありながら、どこか洗練されたトラットリアの味を思わせる一杯だ。

続いては、深紅のスープが食欲をそそる『盛岡温麺 ユッケジャンスープ』。
唐辛子のピリッとした辛味の中に、ビーフエキスのコク、コチュジャンの濃厚な深みが溶け込んだ本格派だ。身体の芯からあたたまりたい日には、これ以上の選択肢はない。このエネルギッシュな一杯に合わせたいのが、イタリアを代表するフレッシュチーズ「モッツァレラ」である。

茹でたての麺と熱々のスープを器に入れたら、薄切りのモッツァレラチーズを投入する。箸でスープの奥へと沈め、麺と絡めながら熱でトロトロに溶けるまでゆっくりと混ぜ合わせていく。モッツァレラは溶けやすいように、なるべく薄切りにするのがポイントだ。

辛味の効いたスープの中でミルキーなモッツァレラがとろけ出すと、唐辛子の鋭い刺激がやさしく包み込まれ、驚くほどまろやかで奥深いコクとなる。イタリアには「アラビアータ」や「カラブリア風の辛口トマト煮込み」など、辛味とチーズを合わせる料理が多く存在するけれど、まさにその親しみやすいおいしさに通じるものがある。
ツルッとした弾力のある太麺に、糸を引くモッツァレラと旨辛スープが同時に絡みつく一口は、思わず笑みがこぼれるほどの満足感だ。辛いものが得意な人はもちろん、少しマイルドに楽しみたい人にもぜひ試してほしい。
日本の東北で育まれた温麺の文化と、素材の良さをストレートに生かす無印良品の「これでいい」という満足感の哲学。そこに、イタリアの家庭で愛される調味料やチーズをひとさじ加えるだけで、国境を越えた新しいおいしさの扉が開く。
特別な調理器具も、手の込んだ仕込みもいらない。台所にあるオリーブオイルを回しかけたり、冷蔵庫のチーズを落としたりするだけの小さな工夫が、忙しい毎日の食卓をぐっと豊かに彩ってくれる。
夏の冷麺が過ぎ去ったあとの季節の楽しみとして、この秋はぜひ『盛岡温麺』を手に取ってみては。湯気の向こうに広がる、やさしくてあたらしい温もりを、心ゆくまで味わってほしい。
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