誰かのためはみんなのため
女性の悩みや本音にまっすぐ向き合いたい。当事者の声をかたちにした胸パッドが生まれるまで

2026/06/08
(取材と文・オカモトノブコ イラスト・村松佑樹)
当事者や医療従事者との対話をきっかけに
いま国内では、女性の9人に1人は乳がんにかかる時代と言われ、罹患する方の数も年々、増加傾向にあります。無印良品では約20年前から、乳がんの早期発見・早期治療の大切さを伝えるピンクリボン運動への参加をスタート。婦人インナーの売上の一部を、「日本対がん協会」と「乳房健康研究会」へ寄付する活動を続けています。
一方、無印良品の婦人インナー開発チームでは、術後の方がより心地良く、安心して過ごせるためのアイテムの開発も進めてきました。そのうちのひとつ『綿混胸パッド』が、2026年6月にリニューアルして再登場。商品開発を行った田中さんと志賀さんにお話を聞きました。

「まず2023年に先行して発売されたのが、術後の生活や検査などに欠かせない『前開きインナー』シリーズでした。このタイミングで『日本乳癌学会』にブースを出展する機会をいただいて。
そこで多くの医療関係者、乳がんサバイバーの方々から直接お話を伺うことができました。その中で印象的だったのが、乳房を切除された方が左右のボリュームを調節するために、ハンカチを丸めて入れたり、パッドを手づくりしているというお話だったんです。
市販品もありますが、シリコン製は重さが気になったり、性能が高いものはそれなりのお値段だったり、肌に貼り付けて使うタイプは、汗ばむ夏や、傷が治りきらない時期には使うのが難しかったり……といったさまざまなお声が。
ただでさえ、闘病や療養で気持ちが沈んでいるときに、パッドのつくり方をご自身で調べて、材料や裁縫道具を準備するのはとても大変なこと。そこで無印良品が、代わりになる商品を、手ごろな価格でつくることができれば……。こう考えたことが、胸パッドを開発するきっかけになりました」

肌あたり、重量感、シルエット。お悩みに寄り添う素材の工夫
術後の肌はデリケートで、特に直後は清潔に保つことが必要。そんな切除後の大切な部分をサポートする胸パッドの開発には、さまざまな工夫や配慮が。
「まず特長は、肌あたりのやわらかさ。伸縮性のために少しポリウレタンも使用していますが、肌あたり良く、汗を吸いやすいように、95%はオーガニックコットンを使用。体に触れる内側部分にはやわらかなワタをいれています」

「また、開発で大きなポイントになったのが"重量感"。医師や患者さんにお話を聞いたところ、切除後は左右の重みが違うことで、違和感を感じたり、肩こりなどの原因になる場合もあるとのこと。そのためバランスを取るためは、ある程度の重さが必要でした。
そこで、中に使用する素材をあれこれリサーチしてたどり着いたのが、手づくりのぬいぐるみなどに使われるビーズ。
やわらかなワタ、ビーズ、そして一番外側には、無印良品のブラジャーなどでも使用しているウレタンパッドを重ねた3層構造にすることで、かたちをきれいに見せつつ、肌あたりの良さと一定の重みを実現しました」

「手洗いができる素材を使用しているので、汗ばむ季節にも安心して使っていただけます」

使い方は、ブラジャーのポケットに入れたり、ポケットがない・入らない場合は、サイドの羽根をアンダーや脇で挟んだり。身に着ける下着のタイプによって、アレンジすることが可能です。
また、切除する範囲や胸の大きさは個人差が大きいもの。そこで胸パッドの内側にはポケットを付けることで、布などを入れて、微妙なボリュームが調整できるように。ほかにも、デリケートな肌に触れる胸パッドならではの細かな配慮が。

「縫い目ができるだけ肌に当たらないように、生地を縫ってから最後に表裏をひっくり返し、縫い代が外に出さない工夫をしています」

「さまざまな試行錯誤を繰り返し、試作を重ねたのは10回ほど。実際の患者さんに使っていただき意見を伺い、反映させながら商品化を進めていきました」
こうして発売された胸パッドはSNSでの発信などが後押しとなり、想定を上回るスピードで商品の在庫が減るなど、多くの人から反響が。
「口コミを通して商品が広く届いたことはとてもありがたく、病院からのお問い合わせや、再販を心待ちにしている、というご意見もいただきました」
そして、今回のリニューアルでは、実際に使っていただいたお客さまからの意見を反映し、ブラッシュアップ。
「パッドを入れるポケットがなかったり、入らないブラジャーと合わせて使う際に、アンダーだけではなく脇にも挟めるように、サイドの羽根をより大きく。さらに、より幅広いサイズに対応できるよう、XSサイズを追加し、既存のS~Lも、サイズ感と重さのバランスを見直しています」

術後の必需品であり、どんな人にとっても快適な前開きインナー
乳がんの手術を受ける患者さんにとって、ほかにも欠かせないアイテムが「前開きインナー」。
術後に当てたガーゼをおさえたり、治療や診察時にも脱ぎ着がスムーズにできるよう、病院から購入を勧められるアイテムの一つです。
「無印良品では、入院時や検診をはじめ、介護、妊娠・授乳期、背中のホックによる着脱が難しい方などが簡単に取り外しができるように、胸の前側で着脱できるインナーを開発。リラックスしたいシーンでも役立つアイテムです。
その一つが、『肌あたりがやさしい前開きブラジャー』。最初に「前開きブラジャー」を発売したのは3年前でしたが、"肌には縫い目が極力、当たらない方がいい"というお声をいただき、縫い目を減らした仕様にリニューアルしました」


「また、これは胸パッド含め、無印良品のインナーすべてに共通することでもありますが、いちばんに重視しているのがやっぱり肌あたりの良さ。『前開きタンクトップ』はオーガニックコットン100%の素材を使用し、やわらかな着心地を大切にしています」

「やわらかな生地で着心地がいい」「腕に力が入らない術後でも、面ファスナーで着脱がしやすい」と、入院・手術のために購入したお客さまからの声も寄せられています。
そして、インナーとブラジャーとの兼用もできるのが、『前開きカップ入りタンクトップ』。

「術後は特に、締め付けのないインナーを身に着けたい方が多いといいます。そこでカップ部分は背中までぐるりとホールドするのでなく、前側だけに取り付けるデザインに。ゴムの部分も生地でくるみ、肌に直接当たらないような仕様にしました」
『前開きタンクトップ』『前開きカップ入りタンクトップ』ともに、サイズ展開はS、M、L、XL、XXLの5種類(※)。カップは取り外し可能で、こちらも前開きブラジャーと同様、『綿混胸パッド』を入れて着用することも。
※サイズによって、品切れが発生している場合があります
黒とピンク。カラー展開にも当事者目線を
前開きインナーのカラー展開が「黒」と「ピンク」であることにも大きな理由が。
「実は発売当初、ナチュラルな生成と茶色の2色展開だったんです。ですが、乳がんの術後に受ける放射線治療で、照射する範囲をマーキングすることが必要で、インナーにマーカーの色がどうしてもついしまうとのお話伺って。ならば黒はマストだろう、とリニューアル時に採用することになりました。
一方、ピンクは『日本乳癌学会』で実際に"どんな色が着たいか"というアンケートを実施した際に人気だったカラー。
病院で購入できる下着はどうしても地味な色合いが多く、『気分が落ち込んでいるときは、かわいいピンクを身に着けたい』という当事者の方の声を聞いて、ライトピンクをラインナップに追加しました」
当事者の方々からの意見も取り入れながら、こうしてリニューアルを重ね、術後の生活をサポートする無印良品のアイテムについて、医療現場からも反響があったといいます。
「無印良品がこうした取り組みを行っていることについて、患者さんたちを支える看護師さんなどからは"安心感がある"と、ありがたいお声をいただいています。
医療の専門メーカーにはかなわないけれど、当事者の方々のご意見をうかがいながら、できる限り肌あたりのやさしいアイテムを、手に取りやすい価格で、必要としている多くの方にお届けできたら。そんな思いで、今後もピンクリボン運動と、それに関わる商品の開発を続けていきたいです」
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