誰かのためはみんなのため
「かぶりたい」と思える自転車ヘルメットで、安全と快適をもっと当たり前に

2026/08/19
(取材と文・オカモトノブコ 撮影・井手勇貴 イラスト・村松佑樹)
警視庁と大学生・美容専門学校生とともに始まったプロジェクト
2026年8月19日に発売を開始した『風が抜ける 自転車ヘルメット』。開発の原点には、着用率の伸び悩みという社会課題がありました。

警視庁の発表によると、自転車の乗車時にヘルメットを着用していなかった場合の致死率は、着用していた場合の約2.3倍(※1)。2023年にはヘルメット着用が努力義務化されたものの、その着用率は翌2024年のデータで17%(※2)と、まだまだ途上段階にあるのが現状です。
※1 出典元:https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/bicycle/menu/helmet.html
※2 出典元:https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/honbun/html/bb5521000.html
こうした課題を解決しようと考える警視庁から、2024年の秋、無印良品に相談が持ち掛けられました。当時から開発に携わる阪田さんと、斎藤さんはこう振り返ります。
「警視庁の担当者が、学生時代に無印良品の自転車に乗っていた経験から“着用率が上がるようなヘルメットを一緒につくれないだろうか”と思い立ち、お声がけをいただいたことが『みんなのヘルメットプロジェクト』の始まりでした」

「こうした経験は初めてでしたが、“日々を健やかにくらすための道具”をつくり続ける無印良品にとって、日常の安全・安心を支えるヘルメットも商品のひとつにあるべきではないか。こうした考えから、共同での開発をスタートしました」
開発にあたってはまず、警視庁と青山学院大学、山野美容専門学校の学生と意見交換を実施し、その中で、“なぜヘルメットをかぶりたくないのか?”というリアルな理由が見えてきました。
「学生さんたちから上がった声で多かったのが、“髪型が崩れる”“ダサい”“脱いだあとの保管に困る”といったものでした。では、どんなヘルメットであればかぶりたくなるのか――?
自転車のヘルメットとして、製品の安全性は最優先。その上で、こうした課題をひとつずつ解決していく手探りの挑戦が始まりました」
前髪も、トップも、後ろの結び目も。髪型がつぶれない構造のアイデア
スピードが出た状態で頭部の安全を守る、自転車ヘルメット。開発にあたってはまず、一般財団法人製品安全協会が定める『SG基準』を満たすことが必須だったといいます。
「安全基準を満たしながら、まずアイデアを絞ったのはライナー(衝撃を吸収する内側の発泡スチロール部分)の形状。“髪型が崩れる”というお悩みに対して、前髪に当たる部分に段差をつけ、空間を持たせることで、髪型がぺったりつぶれないようにしています。

「また、ライナーの凹凸を工夫することで、安全基準を満たす厚みとフィット感を両立しつつ、頭でっかちに見えないような形状に仕上げました。
インナーの後頭部にも結んだ髪を圧迫しないように溝をつけ、さらに回すだけで簡単にサイズ調整ができるダイヤルアジャスターも、上下に位置が可動できる仕様です。こうして後ろで結んだ長い髪も、隙間から自然に外へ逃がすことができるようになりました」

実際に試作品をかぶってみると、学生たちからも「頭にフィットして安心感がある」「脱いでも髪が乱れず、前髪もきれいにまとまったまま」といった声が。
「快適」「便利」を生む、ものづくりの工夫
髪型への配慮だけでなく、自転車ヘルメットを毎日使うためには「快適」「便利」であることも必須ポイントです。まず、商品名にもなっている『風が抜ける』構造について。
「自転車ヘルメットならではの課題のひとつが“かぶると暑く、蒸れてしまう”ということ。ただし通気孔がたくさんあるスポーツタイプは、日常使いするには見た目が浮いてしまい、学生さんたちからも支持が集まりませんでした。
無印良品がつくる自転車ヘルメットはあくまで街乗り用で、“かぶりたくなる”デザインであることがとても大切。
そこで着目したのが、ライナーとシェル(外殻)の構造です。走行時に正面から当たる空気がインナーパッドの内側を通って通気孔へと流れ、熱や湿気がスムーズに抜ける設計になるように、何度もテストを繰り返しました」

ほかにも、着脱が面倒くさいと感じる人のハードルを下げるために採用したのが、片手で着脱可能な“マグネットバックル”です。
「磁石の誘導でパチっと留まるので、片手や、力の弱いお子さんなども目視なしで簡単に固定することができます」
さらに必要なシーンに合わせて着脱できるバイザーも、この『風が抜ける 自転車ヘルメット』ならではのポイント。

「夏場の強い日差し・冬の低い日差しをよけられ、雨の日に走行しても視界を確保できるよう、最適なサイズと角度を計算してシミュレーションしています。機能面はもちろん、“ダサい”と思われがちなヘルメットでも、ファッションに合わせて帽子風のスタイルが楽しめるようになりました」

軽くて疲れない。持ち運びや保管もスムーズに
着用時の悩みだけではなく、自転車ヘルメットは小さく折りたためないため、かぶらないときの保管や持ち運びに困るという声が。そこで今回プラスしたのが、後頭部のループ。
「自宅では壁掛けフックに吊るして収納ができ、カラビナをつければリュックやショルダーバッグなどにつけられ持ち歩きに便利です。駐輪場ではワイヤー錠と一緒にくくり付ければ盗難防止にも。同時に安全性を高めるため、夜間の走行時に光を反射するリフレクター素材を使用しました」

さらにかぶっても疲れない・持ち運びがラクにできるよう“軽量化”にも工夫を重ねたそう。
「重さのあるヘルメットはどうしても肩が凝ったり首が疲れたりするので、なるべく軽くするのもテーマのひとつでした。そこで採用したのが、外側のシェルと内側のライナーを一体成型した構造。
一般的に街乗りヘルメットでは300gで軽い部類に入りますが、この『風が抜ける 自転車ヘルメット』52~56㎝サイズで250g(バイザー付の場合約280g)、56~60㎝サイズで290g(バイザー付の場合約320g)を実現しています」
着脱できるインナーパッドやアジャスターバンドなども別売りパーツとしてあるため、必要に応じて取り替えながら、長く使っていただくことが可能です」

安全で快適がもっと当たり前になるように
こうしてリリースされた、無印良品の自転車ヘルメット。プロジェクトの立ち上げから完成まで、およそ2年を費やしたといいます。
「SG基準を満たす機能と、使いたくなるデザインを両立させるまでの試作は何回も、3Dプリンターでのモデル制作や、試着と微調整を繰り返しました。
開発にはとても時間がかかりましたが、そこで改めて実感したのは、単に機能性やスペックを追求するだけでなく、使う人の生活になじみ、まずは手に取ってもらえる道具をつくることの大切さ。
学生さんたちとコミュニケーションを取りながら、改めて使う人の立場に立ったものづくりができた取り組み自体にも、大きな意義があったと思います」と、阪田さん、斎藤さんは振り返ります。
実際に試着した人からも「びっくりするほど軽い!」「頭を大きく動かしてもズレない」との声が多く寄せられるこの自転車ヘルメット。警視庁の担当者からも好評で、定期的に開催される交通安全教室などでも活用される予定。
「毎日かぶりたくなる」をひとつずつかたちにして誕生した“みんなのヘルメット”。「自転車に乗るならヘルメット」という感覚が当たり前になり、街の風景に安全・安心が広がっていく。そんな姿を目指し、無印良品は多くの方の元へ自転車ヘルメットを届けます。

← 前の記事へ
← 前の記事へ






