“素材に還る”服が1種類の素材からできている理由

無印良品の素材に還るフリースカーディガン

おたより/MUJIが暮らしに届くまで

2026/09/14

7000を超える、無印良品の商品。そのどれもが、たくさんのひとの思いをかたちにして、お客さまの手元へと届いています。この連載では商品誕生の過程にあるストーリーを紹介。今回は、2024年に産声を上げ、2026年秋冬シーズンから本格的な広がりを見せる「素材に還る服」シリーズの物語です。衣服を捨てることなく循環させるという、無印良品の大きな挑戦。その中心にいる、衣料品担当の小林さん、素材開発担当の佐藤さんと森岡さんにお話を聞きました。
取材と文・藤田華子 イラスト・いそのけい 撮影・兼下昌典 スタイリング・荻野玲子

「素材に還る」——リサイクルを前提とした新しいデザイン

2024年の秋から、無印良品の店頭に並びはじめた『素材に還るフリース』。この『素材に還る』シリーズは、2025年に30種類、そして2026年には37種類(※1)の商品を展開予定で、年々その数を増やし続けています。

※1:今後発売予定のものも含む

無印良品の素材に還るフリースカーディガン
『素材に還る フリースカーディガン』の紳士(左)、婦人(右)。2026年9月下旬発売開始予定

一見、普通のフリースに見えますが、実は「えきリサイクルデザイン(リサイクルすることを前提とし、使い終えたあとに再資源化が簡単に行える設計)」という、未来を見据えた工夫が凝らされています。

「最大の特長は、服を構成するすべてのパーツをPET(ポリエチレンテレフタレート)という1種類の素材に統一していることです」と衣料品担当の小林さん。

通常、一着の服は表地、裏地、ボタン、ファスナー、縫製糸など、異なる素材の組み合わせでつくられています。しかしこのシリーズは、身生地はもちろん、縫うための糸やボタン、さらにはラベルに至るまでがひとつの素材だけでできているんです。

無印良品の素材に還る服のパーツ
異なる質感の生地も、ボタン、縫い糸、ラベルも、素材は同じ。

「飲み終えたあとに、キャップもラベルも外さなくていいペットボトルがあれば、手間をかけずにそのまま資源として循環再生できますよね。素材が単一であれば、分解や分別の工程を省き、手間をかけずに再び新しい繊維へと戻せるんです」と素材開発を担当した佐藤さん、森岡さんは語ります。

背景にあるのは、捨てられる服の重い現実

なぜ、これほどまでに「リサイクルのしやすさ」を重視するのでしょうか。その背景には、アパレル業界が抱える深刻な課題があります。

現在、日本国内では年間約50万トンもの衣料品が廃棄されています。これを半袖Tシャツに換算すると約25.5億枚。しかし、リサイクルされているのはわずか7%で、これはウエス(工業用雑巾)など繊維に戻らないものも含み、再び衣服の原料としてリサイクルされる割合は、世界的に見てもわずか1%未満といわれています(※2)

ほとんどの服が、一度役割を終えれば燃やされるか、埋め立てられるしかないのが実状なのです。

「衣服のリサイクルが進まない理由は、大きく二つあります」と小林さん。「一つは、多くのパーツを使用しているため、素材ごとに手作業でわける必要があり、コスト面などの理由で実現が困難なこと。もう一つは、機能性を高めたり、価格を下げるために、世の中の服の約65%が異なる繊維を混ぜ合わせた『複合素材』でつくられている(※3)ことです」

※2:出典 「環境省 SUSTAINABLE FASHION」
※3:出典 第1回 繊維製品の資源循環システムの検討会「繊維製品の資源循環システムの構築に向けた技術開発について」資料より

例えば、ポリエステルと綿を混ぜた生地は、熱をかけて再資源化しようとすると、溶ける性質と燃える性質が混在しているため、純粋な原料に戻すのが難しい。

「毎年新しい服を世に送り出している私たち無印良品にとって、この課題に向き合うことは避けられない、重い責任だったんです」(佐藤さんと森岡さん)

無印良品の素材に還るニットコンビブラウスTシャツ
伸縮性が高いニット生地と、さらっとした質感のシャツ生地を組み合わせ、きちんと感と動きやすさを両立した『婦人 素材に還る ニットコンビブラウスTシャツ』(2026年9月中旬発売予定)も素材は一つ。

無印良品が描く、資源循環の優先順位

前提として、無印良品では“ながく着ることができる服づくり”を大切にしています。そのうえで、資源を無駄にしないために築き上げてきた循環の仕組みが。

優先順位の第一は「リユース(ReMUJI)」。回収した服を1点ずつ検品し、再生して販売しています。まだ着ることのできる衣服を染めなおしたり、洗いなおしたり、つなぎ合わせたりして、新たなかたちへと生まれ変わらせ、次の方へつなげる取り組みです。

「一番環境負荷が低いのは、そのままのかたちで使い続けること。でも、どうしても破れたり傷んだりして、リユースできない服もあります。そのための次なるステップが、今回の『リサイクル』なんです」(小林さん)

無印良品が描く、衣服の資源循環の流れ

リユースできない服を繊維に戻すハードルは極めて高いものでしたが、それならば、最初から“リサイクルしやすい服”をつくればいい

「この循環を止めることなく回し続けるために、あらかじめ素材を単一化しておくというのが、『素材に還る』の発想の原点でした」(佐藤さん、森岡さん)

大切に育ててきた商品を、素材に還る服の顔に

「“特別な服”を新しくつくるのではなく、今すでにある商品を『素材に還る』設計に置き換えていく。お客さまが『心地良い』『好きだな』と思って選んでくれた服が、実は資源循環まで考えられていた。それが理想なんです」と3人は口を揃えます。

無印良品の強みでもある綿やカポックといった自然素材の衣服はそのままに、現在、合成繊維でつくっているものを少しずつ単一素材のサーキュラーデザインに切り替えていくことを目指す。そんな姿勢を象徴するのが、メンズの人気商品『ワッフル編みTシャツ』のサーキュラー化です。

無印良品の紳士 素材に還るワッフル編みクルーネック長袖Tシャツ
軽くて乾きやすく、高いUVカット機能がある『紳士 素材に還る ワッフル編み クルーネック長袖Tシャツ』。(写真内で使用しているスツール:『木製スツール アッシュ材突板 ライトグレー』2026年9月16日(水)発売予定)
無印良品の紳士 素材に還るワッフル編みヘンリーネック長袖Tシャツ
紳士 素材に還る ワッフル編み ヘンリーネック長袖Tシャツ』は、よりラフに着こなせるデザインが特長。

「自分たちが大切に育ててきた人気商品だからこそ、単一素材化できたことはとても大きなこと」と小林さんは語ります。

「ほかにも、毎年発売し、支持をいただいている婦人の『中綿キルティングジャケット』も2025年秋冬から『素材に還る』シリーズに仲間入りしました」(小林さん)

無印良品の中綿キルティングジャケット
ふくらみのある中綿を使用し、やわらかな着心地が特長の『婦人 素材に還る ふんわり中わた キルティングジャケット』(2026年9月下旬発売開始予定)

原点であるフリースも、秋冬の人気商品としてすっかり定着。紳士、婦人、キッズ、ベビーすべてで2026年も展開をします。

無印良品のキッズ 素材に還るフリースカーディガンとフリースベスト
左:『キッズ 素材に還るフリースベスト』 右:『キッズ 素材に還るフリースカーディガン』(いずれも2026年9月中旬〜下旬発売予定)

こうして続々と種類を増やしている『素材に還る』シリーズですが、素材をPET100%にすることはけっして簡単ではなかったといいます。特にスナップボタンの開発には、約2年もの歳月を費やしたそう。

「PETだけでつくろうとすると、強度が安定しません。使い続けるとすぐに緩くなったり、外そうとしたら割れてしまったり。ミリ単位で型を調整しては、試験を繰り返し、機械だけでなく、人の手でも何度もパチパチと留め外しを続け、納得のいく仕上がりに」

無印良品の婦人 素材に還るフリースのスナップボタン

「着用くださったお客様がガッカリするようなものは、絶対に出せない。その一心で、耐久性と使い心地を追求しました」と、佐藤さん、森岡さんは当時の苦労を振り返ります。

また、生地の質感も大きな課題。糸の撚り方や織り方を工夫することで、綿のような自然な風合いに仕上げたり、ストレッチ性を持たせたり。素材は一つですが、使う商品によってそれぞれ最適な生地を実現するため、日々、試行錯誤しています。

無印良品の紳士 素材に還る 乾きやすいドット釦シャツ
フリースとは異なるさらっとした肌触りと程よいハリ感が特長の『紳士 素材に還る 乾きやすいドット釦シャツ』。前述のスナップボタンを採用し、着脱がラクに。
無印良品の素材に変えるクルーネックカーディガンと、ベロア深履きシューズ、木製スツールアッシュ材突板ダークグレー
羽織としてもアウターの中に重ねても使える『婦人 素材に還る クルーネックカーディガン』。(写真内で使用しているパンプス:『婦人 ベロア深履きシューズ 黒』、スツール:『木製スツール アッシュ材突板 ダークグレー2026年9月16日(水)発売予定)

また、現在も開発を続けているのが、ボトムスのファスナーや、ウエストに使うゴム。

PET100%でつくることを目指しながらも、2026年10月には『素材に還る』シリーズでは初となるボトムス『紳士 素材に還るフリースパンツ』を発売します。

無印良品の紳士 素材に還るフリースパンツ

「伸縮性を持たせた紐をウエスト部分に、ファスナーの代替としてボタンを使っています。ボトムスのパーツはまだ開発途中ですが、これから少しずつ展開を増やしていきたいです」と小林さん。

無印良品の紳士 素材に還るフリースワイド長袖シャツとフリースパンツ
2026年10月上旬に同時発売を予定している『紳士 素材に還るフリースワイド長袖シャツ』とセットアップのように着用することも。

見た目と機能、リサイクルのしやすさを、妥協することなく実現していく——それこそが、このプロジェクトの大きな軸なのです。

みんなの行動が不可欠な1ピース。役割を終えた服はお店に

現在、店舗での回収から選別までのスキームは整いつつあります。しかし、そこから先の「ケミカルリサイクル(化学的に分解し、再び原料として利用すること)」を実現し、本当の意味で服から服への循環を叶えるには、十分な回収量の確保が不可欠。

「まずは『捨てる』ではなく『お店に持っていって回収してもらう』という文化を育てていきたい。それが、服から服への循環を実現するには欠かせないピースなんです」

気に入って買ったら、実は地球の未来につながっていた——そんな体験が当たり前になる日を目指し、『素材に還る』シリーズの一糸一糸に、未来への願いを込めます。

← 前の記事へ

次の記事へ→

← 前の記事へ

次の記事へ→

関連記事

関連商品