住んでいる人
永戸さん
無印良品の ReMUJI(資源循環)活動を企画し、リユース・リサイクル領域に携わる。ひとり暮らし。
選びなおし、へらす。スチールパイプ ハンガーラック
永戸さんが暮らすワンルームの部屋は、マンションの10階にある。西側にある窓の向こうには高い建物がなく、都心にも関わらず空が大きく、広々と見えた。
この景色こそ、彼がこの家を決めた理由。
そして、この部屋もまたさえぎるものがなく、けっして広いわけではないのに、なぜだか開放感に満ちていた。
窓際の角には、節ありの木製テーブルと REAL FURNITURE のいす、そしてワーキングチェア。食事も仕事もくつろぎも、この場所で行われる。
彼がこの家に引っ越したのは、2024年のこと。地方の店舗から本社に転勤したのがきっかけだが、住まいが変わったことで、暮らしぶりや習慣も変化したという。
「地方で住んでいた部屋はとても広かったので、ものが出ていてもさほど気にならなかったんです。でも、ここに引っ越してからは、ほとんどの時間を過ごすのは窓際の一角。
限られた空間なので、テーブルの上にものがあるかないかだけでも、かなり印象は変わります。余計なものがない、きれいな状態の方が気持ち良いので、マメに片付けるようになりました」
二面の窓際には、山の絵や贈りもののディフューザーなど、気分のあがるものを。実用的なダークグレーのデジタル電波時計と、卓上用の 木製 ティシューボックス がさりげなく並ぶ。
二面を占める窓の反対側は、潔くクィーンサイズの収納ベッドのみ(現在は終売)。ものはもちろん、色数も最小限。
収納ベッドは、片側が引き出しで、もう片方はすのこの下がもの入れという構造。ニットはここに収まるだけ。引き出しの容量が、持つものの上限になる。
住まいがコンパクトになったことは、持ちものを見直すきっかけにもなったという。
まず見直したのは、衣類。好んで着ていたものを思い返すと、圧倒的に黒い服が多かったことに気がついた。そして、あらためてえらび直して、「黒だけあればいい」という結論にたどり着いたそう。
黒というひとつの縛りができたことで、買いものの迷いも軽減した。
ベランダ手前の空間には、ハンガーラックが一台、ちょうど良く収まっていた。
長年愛用しているハンガーは、終売したレッドシダー製のもの。替えが手に入らないこともあり、大切に使っているそう。
服には、量の上限も設けている。ラックにかかっているハンガーの数が、手元に置いておける枚数だ。
ひとつ新しい服を買ったら、ひとつ手放すのがルール。そして、手放すものもゴミとして捨てるのではなく、できるだけ、欲しいと言ってくれる人へ譲るようにしているという。
「この部屋への引っ越しをきっかけに、服をはじめ、招き猫などの縁起物やそれらを飾っていた『壁に付ける家具』なども、思い切って手放しました。
ものを減らしても、自分の暮らしは変わらない。そう気づけたのは、大きかったと思います」
60個ほどコレクションしていた縁起物は、上京をきっかけにあらためて厳選し、ベッドサイドに飾られている数個を残して、手放すことを決意。彼が立ち上げた社内のおゆずりコーナーに置くと、ひとつ残らず引き取ってもらえたそう。
壁と梁には、IDÉE で出会ったアートピースが。色付きのフレームは無印良品のライトカバー(現在は終売)とオーダーで設えたカーテンともバランスが良く、空間を締めている。
幼い自分と姉の写真、こどもの頃に手放せなかったお気に入りのぬいぐるみ、内部登用試験に合格して両目を入れることができた、だるま。チェストの上には、濃い思い出の品が並ぶ。
IDÉE で一目惚れした動物のマトリョーシカも、チェストの上に鎮座する。持ちものを絞ったからこそ、目の留まる先では、彼の好きなものが際立つ。
座ぶとんが一枚あれば、わずかな空間がくつろぎの場に早変わり。本を読むときは決まって、頑丈 収納ボックス を背もたれに座り込む。上京してから、無印良品 東京有明 で見つけたリネンの座ぶとんカバーは、家具の材であるウォールナットと同系色で、部屋のしつらえにも良く合う。
細かいものは、見せずにしまう。スタッキング シェルフ
窓際の空間は、どこかコックピットのようでもあり、秘密基地のようでもあった。
そのゆえんは、テーブルといす、スタッキングシェルフの配置と、それらをウォールナットの色に統一している一体感だろうか。
そして、飾って目で楽しむようなもの以外、細々とした日用品や生活雑貨の姿が目につかないことも、そう見えた理由のひとつかもしれない。
木製のテーブルには、一見気づかない引き出しが。仕事に使う道具などは、必要になればここから出し、終われば速やかにしまう。
収納スペースを広げるため、スタッキング シェルフ の上にチェストを積んで、裏側で固定。チェストの上には、お気に入りのオブジェがずらり。並べかたにも、遊び心が見える。
広さのあった以前の家では壁付けしていたが、現在はキッチンとの境目に置き、ついたて代わりに。専用のアクリル扉は以前、とあるお店で最後の在庫を見つけて、手に入れたもの。(現在は終売)
見せる収納として使う人も多い スタッキング シェルフ だが、永戸さんの場合は、完全に隠すスタイル。
扉をひらくと、本が並んでいたり、登山用の服や小物が ステンレス ワイヤーバスケット へ、ラフに入れられていたり。
「スタッキング シェルフ に金属の無機質さを加えたくて、ワイヤーバスケット を入れてみたら、大きさもぴったり。奇遇にも持ち手が扉に引っかかって、ストッパーになってくれるところも気に入っています」
一つひとつの棚にしまうものは、バスケットに入る量でとどめ、詰め込みすぎないのが永戸さん流。右の棚上に置かれた線画は、かつて MUJI 新宿(現・無印良品 新宿靖国通り)で開催されたイベントを機に、ご縁が生まれたアーティストの線画作品。「ぬり絵のように塗ってみたけど、途中までになっちゃって」と笑うが、その軽やかな抜け感も味わいだ。
頑丈 収納ボックス の中には、趣味の登山道具がしまい込まれていた。ダブルタイプの仕分けケースには、片方にバーナー、もう片方には食べものを。ちなみに、常時ストックしているお気に入りの行動食は、チョコようかん。
スタッキング シェルフ の裏側は、キッチン。スチール ユニットシェルフ の上には、ひと世代前の電子レンジ(現在は終売)。下には、あえて選んだというダークグレーの 再生ポリプロピレン入り ダストボックス をふたつ並べて。
食器は、よく使うものだけに絞り込んで、引き出しの中に。スタッキングできる 磁器ベージュの器(現在は終売)は、収納に場所をとらないことも気に入っている、と永戸さん。
普段から自炊をするという永戸さんのキッチンには、マグネットでつく ダイヤル式 キッチンタイマー が。隣は、店長時代にお店のイベントでご縁のあった『アトリエおはよう』の作品。部屋のあちらこちらに、アート作品や好きなものが散りばめられている。
ながく使い続ける。ウォールナット 無垢材チェア
一日の大半を過ごすテーブルといすを迎え入れたのは、今から二年ほど前。どちらも木の質感とデザインが気に入って購入を決めたというが、その大前提としてあった条件は、「この先も、ずっと使えるもの」だった。
「ながく暮らしをともにできる家具が良い、と思っていたので、50年、100年と使える家具としてつくられた REAL FURNITURE のいすを選びました。無垢材らしい、あたたかみのある質感も気に入っています。けっして安くはないのですが、良い買いものをしたと思っています」
日本の職人が一つひとつ、手作業で仕上げている REAL FURNITURE の無垢材チェア。永戸さんが選んだのは、現在は店頭のみ取り扱いの、ウォールナット材のもの。
持ちものを絞り込む中で残ったのは、いく通りもの使い方ができる道具。強化ガラス ボデガ のグラスもまさにそうで、飲みものをとるときは、水でもお茶でもコーヒーでも、このグラスひとつで事が足りる。
永戸さんの暮らしには、当初から「ながく使おう」と思っていなくても、大切に使い続けた結果、ずっと側にあるという日用品も少なくない。それらは、日常に欠かせないレギュラーメンバーとして、さりげなくもたくましく、彼の暮らしを支えている。
ガーゼのケットも、数年にわたり使い込んできたもの。手ざわり良くやわらかく、月日とともに育ってきた。
床に座って読書をするときに使うフロアライトも、ながく愛用しているもののひとつ。(現在は終売)
無印良品 銀座 で限定販売されている、紙袋を模した、リユーサブルなバッグ。使ううちについてしまう折り目やしわも“味”。
今の住まいで最もながく使っている無印良品の製品は、8年前に買った コードレス スティッククリーナー(現在は終売)だという。
炊飯には、はやくおいしく炊ける 土釜おこげ を愛用。ちょっぴり欠けても、愛着がまさる。
刺しゅうやワッペンをつけ加えた MUJI Labo のリュックと、染めたマルシェバッグ(現在はいずれも終売)。更新しながら使い続けているふたつのバッグには、どちらも手をかけたあたたかみが宿っていた。
陽を浴び、味を育む。木製テーブル 引き出し付 節あり
ふとテーブルに目をやると、天板に節があることへ気がついた。
「買うときに、節ありのものを選んだんです」と永戸さん。彼は節をひとつの個性と捉え、手元にやってきたこの節との縁を、前向きに受け入れている。
そして、定位置に決めたのは、さんさんと陽射しが降り注ぐ窓辺。
無垢の集成材を使ったテーブルは丈夫だが、天然木であるがゆえに、湿度を吸ったり放出したりする性質も持つ。直射日光が照る窓際は、温湿度の変化も大きい。
しかし、彼は屈託のない笑顔を見せた。「壊れたら、直せばいいんですよ」
ながく使えるものを、と購入したこのいすも、手に触れ、陽に当たり、毎日使いつづける中で育っていく。
西日に照らされてテーブルにできた影もまた、アート作品のよう。
この部屋は、都心の住まいとは思えないくらいに、太陽の光が差し込む。そして、15時をまわれば、陽は西に傾き、影も長く伸びる。
それは多少の眩しさを伴うが、この光もまた、永戸さんが持ちものと向き合い、暮らしを育んでいく重要な要素だ。
ベランダのグリーンは、以前勤務していた地域のお店で葉がすべて落ちてしまったものを引き取り、一緒に引っ越してきたもの。ここで陽射しをたっぷり浴びて、今では永戸さんの背丈ほどに大きく育った。
都心のベランダで息を吹き返した植物。日光の力と永戸さんの愛情で、元気いっぱい枝葉を広げている。
「お気に入りの場所」というベランダのすみには、屋外でも使える折りたたみベンチ(現在は終売)が。
ベランダのサンダルは、ある日は日光を受け、またある日は雨に濡れ、育つがまま。
一度ベランダに出た永戸さんが、なにやら取り込んで戻ってきた。それは、茶色いリネンのジャケットとパンツのセットアップ。
「このジャケットをハンガーに吊り、ラックにかけておいたら、一部だけ退色してしまって。でも、その褪せた色が良いなと思って、太陽の光でこんなふうに変わるなら! と、二ヶ月ほど干しっぱなしにしているところです。秋くらいには良い感じに仕上がるかな」
リネンのジャケットはベランダで日光に当てて退色させ、シャツには藍染や柿渋染でアップサイクルを。服を自分好みに育てていくのも、永戸さんの楽しみ。
カーテンやファブリックも太陽の光をたっぷり浴びて、部分的に退色することもしばしば。それも、彼はともに暮らす中で育まれた、変化として受け入れる。
学生時代は陸上にあけくれ、いまは登山に胸躍る永戸さん。太陽が似合う。
ものを持ちすぎず、選んだものを大切に、ときに手を加えながら、自分らしく使いつづける永戸さん。その行動は、彼のこんな考えによるものだった。
「カーテンもファブリックも、日に当たると色が変わるじゃないですか。それを劣化とは思えなくて、“味”と認識しています。
家具でも洋服でも、簡単に買い替えるのではなくて、一緒に暮らすなかでそういう“味”を育てながら、愛着を持って使い続けたい。
それは、重ねてきた時間を肯定することだと思うんです」